第12話 報酬は「こん棒」

 俺たちは裏面の入口付近にあった祭壇のところにきていた。


「こん棒……」

「見事にこん棒だね」


 裏面うらめんで手に入るこのビー玉みたいなもの。ジェム。

 俺が手に入れた赤のジェム、タスクの青のもの、そして残るこの緑のジェム。ジェムは大きく分けてこの三種類だ。


 石版には『木のこん棒』とだけ表示されていた。裏面で手に入る最も不要なクズ報酬がこれだ。


「まあ普通こんなもんか」

「そりゃそうだよ、運良すぎたんだよ」

「赤ジェム引いたやつがそれ言うかねー」


 俺が手に入れた赤のジェムは、所謂いわゆる特殊能力のようなものが身につけられるものだ。裏面うらめんの中でしか行使できない能力ではあるが、それがあるかないかで裏面攻略の安定性に大きく響くと言われるくらい重要視されている。簡単に言うと、もの凄くレア度が高い。


 タスクが手に入れた青ジェムは、身体能力などを上げることができる。これは裏面の外――普通の世界でも効果が持続するものであるため、裏面攻略をしない人にも人気があり、高額で取引されているという話だ。

 勿論、それを手に入れたばかりの俺たちはそんな取引をしたことはないが、ネットの情報や実際に取引をされている所を見ると、眉唾ではない。これも簡単に言えばレアだ。


 そして残る緑のジェムは、裏面うらめんの中でのみ使うことができる、武具・・になるものだ。青のジェムとは違い、現実世界では全く意味がないものであるし、赤のジェムとも違って裏面攻略の効率が劇的に変わるものではないので、裏面で手に入るジェムの中では最も人気がないものだった。かつ、裏面で手に入るジェムの九割方はこの緑のジェムでもある。

 誰が決めているのか、裏面うらめんには何故か持ち込める物に制限があるようで、武器の類は持ち込めない。海外では銃を持ち込もうとしてダメだったという話があるし、俺もはじめ金属バットを持ち込もうとしたら、これもダメだった。そのため、緑のジェムは裏面攻略をする者には必須ではあるが、武器なんて一つあればなんとかなるので、皆持て余しているという。


「これで大分要領は掴めたろ。明日は土曜だし、もちろん・・・・行くだろ?」

「攻略したそばから元気だな、タスクは……まあ行くけど」

「そうこなくっちゃ! 明日からはガンガン攻略してこうぜ!」


 二回目の裏面うらめん攻略は、残念ながら報酬としては空振りに終わったが、確かに初回とは違って裏面に行く抵抗感も薄れた。やっぱ一人じゃないってのがデカい。


 そのまま攻略を終えた裏面うらめんを出て、今日のところは家に帰ることにした。

 タスクに別れを告げると、俺も家路につく。


***


「ただいまー」

「あら~、よしくんお帰りなさい~」

「お、おかえりなさい……!」


 俺が玄関で帰りを告げると、母さんとユーリが声を返してきた。

 見ると二人で夕食の仕度をしているようだった。早速馴染んでいるユーリと母さんを見てなんだかなあとも思うが、もう決まったものだししょうがないだろう。


 昨日、家族みんなとユーリで話した結果、ユーリが裏面うらめんに行くのを俺が手伝うような話になっていたのだが、いつ一緒に行くとかは特に話していなかった。

 今日タスクと裏面うらめんに潜ったことも言っていないので、若干の後ろめたさがあるのだが、ユーリを連れて行くのが少し面倒なので自分からは切り出さないでもいいかと思っていた。ユーリ自身、ここでの生活に慣れるのに手一杯という感じもある。


「よしくん見て見て~、このお味噌汁はユーリちゃんが作ったのよ~! なんだか娘ができたみたいで母さん嬉しくなっちゃうわ~」

「教えてもらって作っただけです……美味しくできてるといいんですが」

「絶対美味しいわよ~、ユーリちゃんはいいお嫁さんになるわ~」

「そうなんだ、仲よさそうで何よりだよ。ははは……」


 居間の方に行くと、母さんが声をかけてくる。

 早くもユーリを懐柔かいじゅうしようとしているような母さんの態度に思わず苦笑いになるが、ユーリも嫌そうにしている雰囲気もないので、これもまあいいだろう。


「じゃあ、俺部屋にいるから」

「あきひこさんが帰ってきたらご飯にするわよ~」

「はいはい」


 何となく居心地が悪いような感じがして、つい自室にもろうとしてしまう。

 自分の家なんだけどなあと思いつつも、階段を昇り部屋に入る。


 それからほどなくして、父さんが帰宅する音が聞こえ、呼ばれるままに夕食を取り、その後はまた自室に篭もった。

 夕食時にも特に裏面うらめんの話にはならず、ユーリが今日どうして過ごしたとか、そんな話ばかりだった。早くもユーリが家に馴染み始めてるのはいいが、父さんや母さんから裏面の話が出るかとばかり思っていたので、肩透かしをくらったような気持ちになる。なんとなく明日どうするという話にもならなかったので、タスクと二人でいけばいいかと思った。


 そうして、明日に備えて今日は早く寝ることにした。

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