第11話 コンビプレイ

「おいタスク、あんまどんどん先に行くなよ」

「こーいうのは勢いが大事なんだって! それにギイチも分かっただろ? ここの敵はしかいねえ、雑魚だよ」

「あんま調子乗ってると痛い目見るぞ」


 地下の墓所のような裏面うらめん。タスクは俺の言うことも大して聞かず、どんどん先へと進んでいく。

 ここに入ってきてから初めての会敵――二体の骸骨がいこつを倒した後、奥に進んだ通路にいた一体の骸骨、そしてその更に奥にあった広間にいた二体の骸骨を始末している。タスクは俺から見ても調子に乗りすぎだと思うが、奴の言うとおりここで出て来る敵は雑魚・・だった。


 俺が一人で入った茶色の『扉』では、ネズミばかりが出てきた。その鼠も襲いかかられても大した脅威とは言えなかったけど、すばしっこくてこっちの攻撃が空振ることもあれば、噛まれれば勿論痛い。それに比べてここの敵――骸骨は、迫ってくる動きもノロければ、手に持ったこん棒も振り上げてから振り下ろすのに二、三秒はかかる。避けるのも容易ければ、当てるのも簡単。まるで動く的・・・だ。

 タスクが言うには、奥の方にいるやつはもう少しマトモな動きをするということだが、それもたかが知れているという。


「――ギイチ、またいたぞ」

「数はそこそこいるんだな」


 またも広間に出るが、そこには二体の骸骨が見える。この裏面内で出くわす骸骨の数は、俺がいった裏面で出くわした鼠の数とそう変わらなかった。それを考えるとボスの間で出て来る敵の数を想像してしまい、少しぞっとする。


「おらおら、かかってこいよ!」


 すでに広間内に飛び出したタスクの存在に骸骨が気付く。

 タスクは近くにいる骸骨を相手にするようだったので、俺は奥の個体を狙うことにした。


 変わらずゆっくりとこちらに向かってくる骸骨だが、近づくと俺に打ち下ろそうとこん棒を振り上げてくる。タスクの動きをならい、わざとこっちに振ってくるよう誘導するように動き、振り下ろされるこん棒を避けてから敵の頭を叩くようにした。

 俺のメイスの一撃を頭に受け、沈む骸骨。


 何かで見たが、確かに攻撃した後の状態っていうのはすきがある。ゆっくり動いてくれるので、それがより分かりやすい。


「ギイチ、慣れてきたか?」

「ああ、大分慣れた。しかし楽ちんだな」


 調子に乗ってるタスクをたしなめていたはずが、俺の方もいい気分になってしまっていた。敵は弱いし、何より鼠と違って肉を潰す感覚や血が飛び散ることもないのがいい。これならゲームと勘違いしても仕方ないな、とも思ってしまう。

 正直、今俺達が入っている裏面うらめんの『扉』のサイズは、初心者向けと言われているものの中でも更に初心者向け。ほとんど危険もないような所らしいので当たり前なのだが、なんだか自分が強くなったように錯覚する。


「ようし、ガンガンいこうぜ! とっとと越しちまおう」


 タスクがそう言うのに頷き、先へと進む。

 先程から進んではいるものの、今どの程度の所にいるのかは分からない。


 洞窟の裏面はほぼ一本道だったのに対して、ここは広間になっている部屋がいくつかある。迷いそうだなとも思ったけど、何もない部屋だったり、壁に人ひとりが入れそうな窪みがいくつもある部屋だったりと、今のところ部屋ごとの特徴は認識できているのでその心配もない。

 もう少し規模の大きい裏面だと、マッピングした方がいいという話も聞くが、タスクも特に気にしていないようなので問題ないだろう。


「多分、あれボスの部屋だ」

「え、もう? 早くない?」

「あんま迷わなかったからな」


 タスクが示す先には木の扉が見える。確かに、見覚えのある扉だ。

 まだここを探索し始めてから、一時間も経っていない。少々あっけなさを感じるけど、うろうろ迷うよりはマシだろう。


「入るけど――いいよな?」

「当然。あ、待って。中の敵ってどんなの?」


 一応というように、タスクが俺に先に進むかを確認する。


「変わらないよ、同じ骨。ただ数が、十体くらいいたかな?」

「十体か……まあ、大丈夫か」


 俺が経験したボスの間では数十体くらいの鼠がいたのでまさかと思ったが、拍子抜けだった。この前の裏面うらめんはもしかしたら、少し難易度が高かった所なのかなと首を捻る。


「じゃあ行くぞ!」


 タスクはそう言うと、勢い良く木の扉を開いた。

 その扉の先の部屋、確かに十体ほどの骸骨が一斉にこちらを向くのが分かる。


「数が多いから一体ずつ潰してこうぜ! あんま離れんなよ!」

「オッケー!」


 カタカタと乾いた音を立てながらこちらに向かってくる骸骨の集団に、早速タスクが殴りかかり、一体の頭を潰した。遅れを取らないように俺も続く。


 数は多いけど、いかんせん動きがノロいので、一体一体確実に潰していける。

 複数に囲まれないように位置取りながら、一回か二回振り下ろしたメイスで相手は簡単に崩れていく。


「おいギイチ、ラストだ! アレ・・使ってみろよ!」

「……そうだね!」


 タスクが俺に声をかける。言っているのは俺が手に入れた赤のジェムの能力を試してみようということだろう。俺が先ほど手に入れた能力――装填チャージの使い方は何故だか体の感覚で分かっている。


「いくぞ、装填チャージ――うおおおおっ!」


 装填の使用を声に出し、掛け声と共に両手に持ったメイスを振り上げて骸骨に飛び掛る。

 骸骨の方は俺の勢いに気圧されるように、手に持ったこん棒でメイスの軌道を防ごうと掲げるが、俺が振り下ろしたメイスはそのこん棒を易々と跳ね除け、そのまま狙った頭蓋骨めがけて振り下ろされる。


 今までとは異なり、まるで発泡スチロールを殴りつけたような感触が手に伝わり、骸骨の頭が粉々になる。


「――すげえな、それ」


 俺が装填チャージを使った光景を見ていたタスクが、呆れたような声を出す。

 確かに、すごい威力だ。


「意外とあっけないな」

「前のとこもこんなもんだったぜ。一人だったから大変だったけど、やっぱ二人だと違うな」

「そういうもんかな」

「そういうもん! ジェム取ってさっさと戻ろうぜ! 息苦しいわ、ここ!」


 ボスの部屋に足を踏み入れて、一、二分しか経っていないのに戦いが終わった。

 前回との差になんだかなあと思う俺だったが、タスクがさっさと宝箱の方に向かうので、後を追いかける。


「さーて、何かな――ってみどりかー! まあそうだよなー!」

「最初が運良すぎたんだよ、俺たち」

「まあなー! じゃあ戻るか、お疲れ!」


 タスクが笑いながらそう言って手を上げるので、ハイタッチをした。

 あっさりと二度目の裏面攻略を終え、俺達は来た道を戻る。

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