第二章 本格始動

第07話 攻略の報告

「――なんてことがあってさあ」

「そりゃ災難だったなって言って欲しいんだろうが、何だそりゃ。漫画みたいなラッキー展開じゃねえか。ていうかお前、何勝手に一人で裏面うらめん攻略しちゃってんだよ」

「気楽なこと言ってくれるなあ、タスク。それどころじゃないんだってば」

「いやいや、中学生の分際で女の子と一つ屋根の下ってナメてるだろ。それで、裏面で手に入れたジェム・・・はどうだったんだ?」

「それが色々あって、何のジェム・・・なんだか確認できてないんだよね……」


 俺がかよっている中学の帰り道。

 昨日起こったことをこの目の前の悪友である樋口ひぐちたすく――タスクに話していた。


 昨日は俺の家族とユーリとで話が一段落した後、夕食を取ってそれ以上は話さないことにした。ユーリ自身、記憶がないことから疲れているだろうと母さんが言い、父さんが仕事部屋に使っていた部屋を空けて寝床を作ってやった。

 そのユーリは今家にいるはずだ。専業主婦の母さんが色々と面倒を見てくれているだろうから、特に心配はないだろう。


「ギイチ、お前馬鹿ばっかだなあ。そこが一番大事だろ?」

「そう言われてもなあ……確認しようにも裏面うらめんから出ちゃったし」


 ギイチというのはタスクが俺のことを呼ぶときのあだ名だ。

 裏面うらめんで手に入れた報酬――ジェムと言われるそれを、俺が調べ忘れたことにタスクからのツッコミが入る。こう言われることはなんとなく想像していた。


「ふっふっふ、そんなお前に朗報がある。聞きたいか?」


 そのタスクが立ち止まり何だか良からぬ顔をしている。

 家からそう遠くない位置にある公園の横でタスクが止まったため、恐らく『寄っていこうぜ』ということだろう。公園の中に入っていくタスクの後を追い、二人で適当なベンチに座る。


「で、なんだよ朗報って」

「実はな……俺も裏面攻略しちゃったんで〜〜す!」

「はあ? なんだよそれ、聞いてないぞ」


 タスクが両手でピースサインを作りながらそんなことを言ってくる。


「いやあ、お前に裏面に入らせろって言ってるのに全然家に行かせてくれないからよお。一人でその辺探し回って、手頃なやつを見つけたんだ。すごいだろ!」

「それで一人で行くってすごいなお前。裏面の中・・・・、酷かったろ? 俺死ぬかと思ったぜ?」

「俺が行ったとこはそうでもなかったけどな。なんかの奴しかいなかったわ」

「あー、骨かあ」


 タスクが一人行動を告白してくるが、俺からしたら案の定という感じだった。

 なんというか、一人で大人しくしてるタイプじゃない。小学校の時からずっと同じクラスの腐れ縁のようなもんだが、学校でも外でもコイツはやかましい。


「骨のところは初心者向けらしいな。俺のとこはネズミだったから最悪だったよ……生き物と大差ないから倒すのもちょっと気が引けるし」

「そんなこと言ってて死にでもしたら世話ないけどな。まあでも骨の奴は確かに楽だったよ。理科室にある骨の模型を壊してるくらいの感覚だな、ありゃ」

「骨の模型壊したことないけど、俺」

「俺もない」


 タスクが言っているのは、裏面リバースサイドの種類のことだ。

 インターネット上にある情報を見た限りだが、裏面の『扉』の先の世界はいくつかの種類に分かれているという。その一つは俺が行った洞窟のような場所だったり、他にも古城のような建物の中だったり、地下にある墓所ぼしょのような所だったりと様々なようだ。酷いものだと、島ひとつが丸々存在する空間もあるらしい。


 恐らくだが、話を聞く限りタスクが行ったのは墓所の裏面うらめんだろう。それらの種類は、『扉』の枠の色で分かるとあった。例えば俺が行ったような洞窟の裏面の『扉』は茶色の枠であったし、タスクが行ったであろう墓所の『扉』は灰色の枠だったのだろう。

 基本的に、この茶と灰の二種類の『扉』が初心者向けと言われていた。でてくる敵とその空間内の動きやすさが違うのだと言う。


 俺たちがの奴と呼んでいるのは、いわゆるスケルトン――ホラーやファンタジーの創作物でよく出てくる白骨死体が骨格のみで動いているようなやつだ。言い方はアレだが、このスケルトンが出て来る『扉』は攻略しやすいので、とても人気・・・・・である。

 何せ動きは遅く、大して腕力もなく、小さな『扉』の所で出て来るものはこん棒・・・のような貧相な武器を持っている奴だと言う。つまり見た目の気持ち悪さを問題視しなければ、倒し放題ということだ。


「しかしタスク、そのサイズの灰色の『扉』なんてよく見つけたな〜、すげえわ。どこにあったんだ?」

「すげえだろ! それがなあ、俺んちの横の空き地にあったんだよね〜!」

「マジかよ。ラッキーだな」


 タスクの家には何度か行ったことがあったが、確かに横が空き地になっていた。長いこと空き地になっているようで背の高い雑草が生え放題になっていたが、よくそこを探したもんだと思う。


「……しかもな」

「ん? まだ何かあるの?」


 自慢気にニヤニヤと話すタスクはまだ何かを持ってるらしい。

 聞いてくれと言わんばかりの顔に少し腹が立つけど、気になるのでタスクに促されるままに質問してしまう。


「同じ空き地で二個見つけたんだよ。同じ灰色の『扉』」


 そう言った後、タスクは再びにやっと笑い、そのタスクの考えに気づいた俺も一呼吸遅れて同じようににやっと笑う。

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