―3―
翌朝、ニュースと私の顔を交互に見た愛菜が泣き崩れた。
「何者かに暴行されて亡くなったみたい」
静かに言うと、すぐに愛菜は私に飛びついた。
「ごめんなさい、ごめんなさ、い。ごえんなさ……」
「愛菜だって暴行を受けて大事なものをなくしたわ」
肩に寄りかかるかわいい妹。涙で濡れたところが柔軟性を帯びていく。
ごめんなさい、これじゃあアイツと同種のような言い方ね。そんなこと、絶対にありえない。
愛菜は私のことを軽蔑しなかった。むしろ自分のせいで罪を犯したのだと思っている。私はそれに安心してしまっていた。罪の意識をさせることによって愛菜は私から離れない。離れられない……。こんな醜いことを考えるなんて、私はアイツを殺すとき、悪魔を呼び寄せてしまったのかしら。
「できたよ。お姉ちゃん」
「ありがとう」
渡された手鏡を見ながら首を左右に動かす。綺麗に毛先が整えられたショートボブ。長年ともにしてきた長い髪の毛を切ってもらった。これは誓いであり代償だ。愛菜をこの手で守ると心に決めた証、そして愛菜を泣かせてしまった懺悔でもある。
「これからどうするの……?」
すっかり犯罪者気分の私は考えた。手元にはしっかりとした貯金がある。ふたりで逃避行にでも行きましょうか。
「愛菜、今なにがしたい? 行きたいところでもいいわ。やりたいこと、ある?」
すぐにチケットを購入し、朝八時には仙台空港を旅立った。飛行機に乗ったのは高校生の修学旅行以来だからか盛り上がった。乗る直前に買ったおにぎりを食べて旅行雑誌を片方ずつ持って指さしあった。
昼前に伊丹空港につき、すぐにバスに乗って京都に向かった。それからおしゃれなカフェで抹茶パンケーキやあんみつを平らげ、観光を楽しんだ。なかでも稲荷大社と鳳凰堂は圧巻だった。隣の愛菜も子どものようにはしゃいではシャッター音を響かせる。最安のホテルでひっそりと眠った。
翌朝ははやめに起きてモーニングバイキングでエネルギーをたらふく溜め込んでから出発した。高速バスで兵庫県まで行き、神戸の南京町でちょっとお高め中華料理を楽しんだ。小龍包、シュウマイ、酢豚、中華スープ……。中央の回転式の台をくるくると回して手元の小皿に料理をとりわける。
「ああっ! シュウマイちゃん行かないでぇ」
「ごめんごめん」
景色も一緒に嗜むと、次は肉まんを食べながら周辺を歩き回った。客寄せしている中国語の青年や中年女性から愛菜を守ることで私は精一杯だったけれど、当の本人は終始はしゃぎっぱなりだった。本当に、この甘い時間がずっと続けばいいのに。警察の捜査が難航していることを願って、愛菜が手にする肉まんにかぶりつく。
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