―1―
松岡涼太に復讐したいと思った。考えられる作戦は二通り。愛菜がふたたび涼太に会って今度は誘惑し、無防備になったところを私が殺す。そしてもう一つは私が誘惑して涼太に睡眠薬入りの酒を飲ませたところで殺す。圧倒的に後者のほうがいいだろう。
今日も会社を休んだ。かわいい妹を置いて働けるものか。
「愛菜」
やさしく名前を呼ぶ。開いた瞼のまわりにはびこる目ヤニをぬるま湯で湿らせたタオルで拭う。幸せそうに頬を緩ませたのを見てこちらも微笑んでしまう。
「朝食は?」
カーテンをわずかに開け、日差しを室内に取り込む。こくんと頷いたのを確認してキッチンへ戻る。起き上がった愛菜はきっと、腹部の痛みに顔を歪めつい先日のことを思い出して泣くだろうから、ここはひとりにする。
「待って。わたしも手伝うよ」
しかし予想に反して愛菜は私に笑いかけた。ロンTの袖をまくってやる気満々だ。
「じゃあ、久しぶりに愛菜の目玉焼きが食べたいな」
笑いかけると、愛菜もにっこりとしてくれた。それさえあれば私は。
涼太は顔が広いことで同級生のなかでも一目置かれている。そのおかげで生徒会副会長になったこともある。とてもノリがよく、相手が求めているものを瞬時に察することができる要領の良さを持っている。しかも顔も整っていることから何人もの女性の注目の的だったはずだ。何度かそのベビーフェイスを使ったこともあるはずだろう。少なくとも今は、絶対に使っているはずだ。
「久しぶりだね、愛海ちゃん」
「そうね。この前はどうもありがとう」
昼間、愛菜が昼寝をしている間に家を出て涼太と会う。
「俺が主催した同窓会のこと? 最高だったっしょ!」
ワックスで固めた髪型、日サロでも行ったのだろうか肌も黒くなっている。
「ええ。松岡くんは場を盛り上げるのが大得意だもんね」
「相変わらず愛海ちゃんは相手を立てるのが上手いね~」
「心外。本音なんだけど、それを言うにはまだ早い仲だったかしら」
余裕な笑みには余裕な笑みを。傷ついた仕草で顔をそむけると涼太はすぐに慌てた。
「そっ、そんなことないよ! 俺たち友達でしょ?」
「もちろん。でも、私はそれ以上の関係になりたいと思ってるんだけどね……」
男の表情がなくなる。そしてすぐにライオンの目になる。
「俺のこと、そんなふうに思ってくれてたの?」
「……ええ。学生のころはいつも周りに人がいて、話ができなくて切なかったわ」
涼太が興奮していくのがわかる。覗いて見上げるだけでこいつはすぐに反応してくれる。なんて単純な男なの? こんな野郎にうちの可愛い愛菜は弄ばれたの? 考えただけで嫌だった。愛菜には綺麗なままでいたかった。だけどもいつかは恋をして、結婚する。わかっていた。だからこそ手放した。それなのに、それなのに――。
「今夜、空いてる?」
断るどころか、涼太は少しの間も与えることなく首を縦に振った。
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