比較的一卵性
愛川きむら
プロローグ
海沿いにある小さな高校に珍しい双子の姉妹がいた。そのふたりは一卵性双生児のようだけど瓜二つというわけでもなく、姉の愛海は美人でキリッとした目をしているけど妹の愛菜は可憐で垂れた瞳は可愛らしかった。二卵性と一卵性の間を取ったかのようなふたりに興味を示す者は少なくなかった。
卒業してそれぞれ大学に入学するでもなく就職の道へと進んだ。愛海は事務員で愛菜は介護士。ある程度の金ができたら家を出て、愛海は市内マンションに、愛菜は地元の小さな集合住宅に住んで二年が経った。
同窓会へ参加したところ、愛菜は恋焦がれていた同級生の松岡涼太と再会した。
「涼太くん?」
「……愛菜?」
ラフなスーツを身にまとって堂々とした立ち居振る舞いは学生のころから変わらない。
「久しぶりだね」
子犬のように人懐っこい笑顔にふたたび射抜かれた愛菜は二次会には向かわず、彼と市内の夜景が楽しめるホテルへ足を誘わせた。
愛海は心配だった。直接的には言わないものの、男とは怖い生き物で、それを愛菜が知っているかどうかわからなかった。しかし本気だった恋を諦めていた妹にふたたび希望が差し込んだのだ。邪魔するのは間違いだろう。愛海はほろ酔いの妹を涼太に任せてワイングラスを傾けた。
+++
腕の中には震えて泣き続ける最愛の妹がいる。どんなにやさしく包み込んでも泣き止まない。当然だろう、本気で恋をしていた相手に裏切られたのだから。愛菜はホテルにチェックインしたあと、涼太に暴行を受けたという。純潔を奪われた悲しみに明け暮れた愛菜は愛海のマンションを訪れた。当時午前四時だ。飲み足りなさを感じ宅飲みをしていたところ、フラフラでひどい顔をしていた愛菜が現れたのだ。
「ごえんなざい、おねえちゃ……」
「何も言わなくていいよ。つらかったね、こわかったね……」
ところどころ赤くなった肌を見てより一層心を痛める。松岡涼太を許さない。
私の親愛なる愛菜を虐げた罪を、魂で償ってもらいましょう。
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