第3話 きみは僕に似ている(よろこび)


⚪︎人物表

村内優菜(17)高校生

堂本陸(17)優菜と同じクラスの生徒

村内武雄(44)優菜の父



⚪︎通勤バスの中


少年A「追試とかまじだりー。森セン殺してえ。アイツ生きてる価値ないって」


村内優菜(17)に気づいた少年B、少年Aを肘で小突いて嘲笑。


少年A「うわ、ムラムラムラコじゃん」

少年B「あいつさ、見てるだけで不快にならね、足とかボンレスハムみてえになってんじゃん」

少年A「お前、ヤってやれば。ショックで痩せるかも」

少年B「無理無理無理。金積まれたってやだね、つーかまず、勃たねー」


少年A、ゲロを吐く真似。少年B爆笑。二人の会話を聞いていた会社帰り風のサラリーマンが優菜を見て、にやりと笑う。堂本陸(17)はその様子を見つめていたが、優菜と目が合いそうになって目をそらす。バスが停車し、無表情の優菜が降りていく。同じ制服の生徒が「バイバイ」と言いながら散らばっていく。ひとり歩く猫背の優菜。


⚪︎優菜の家


テーブルの上には空いたビール瓶が5本、空っぽになった状態で置いてある。赤ら顔の村内武雄(44)、優菜を見て、にやついた表情。片手を上げる。


武雄「よお」


優菜、何も言わず自分の部屋に向かおうとする。ビール瓶が床に落ちて割れる音。優菜、身体を強張らせて、深呼吸して振り向く。父親の拳が優菜の顔めがけて飛んでくる。


⚪︎校庭


陸を取り囲む少年C、D、E、F。


少年C「ふざけんなよお前。どこに目、つけてんだよ。俺の二の腕汚れたわ」

少年D「まあいいじゃんいいじゃん。ドモリー、俺らのボールになってくれるってさぁ」


少年C、ポケットから取り出したナイフで落ちていたサッカーボールの空気を抜いて、陸の頭にかぶせようとする。抵抗する陸の両手を、少年EとFが慌て押さえつける。少年C、優しく微笑みながら陸のお腹を右足で蹴る。


⚪︎優菜の家


優菜に馬乗りになった武雄、何かに気づいたように目を細めて


武雄「お前、胸でっかくなったなあ。顔も腹も尻も足もでっけえなあ。母ちゃんそっくりだなあ。お前、本ッ当にブスだなあ」


優菜、激しく首を振る。武雄、笑い声をあげて優菜の服をめくり上げる。優菜の悲鳴が響く。


⚪︎校庭


少年C、陸の頭を蹴り上げる。少年E、F、愛想笑いを浮かべながら拍手。陸の首が血まみれになっている。


少年C「いえーい、ラスト10てーん」

少年D「まだしぶとく生きてんの?ドモリー」

少年C「さあな。でも、普段から生きてんのか死んでんのかわかんねーから別にいいんじゃね」


少年C、D、E、F、去る。


⚪︎家から駅の道(夜)


乱れた制服のまま、トランクを引いて歩く優菜。バス停のベンチに腰掛ける。ハッピーメール(出会い系)の画面を開き、必死に文字を打ち込んでいる。


⚪︎携帯の画面


「助けてください。なんでもするから。ハチ公前、10時に待っています」


⚪︎校庭(夜)


校庭の中心でうずくまっている陸。血と涙を拭いながら、ポケットに入れた携帯を触っている。


⚪︎ハチ公前


乱れた服のまま顔を合わせる陸と優菜。


陸「う、うそ」

優菜「・・・・・」


⚪︎陸の部屋


吃音関係の本が並ぶ本棚に囲まれた無機質な部屋で、セックスをするふたり。


優菜「あっ」

陸「いいいいよ。も、もっと声出して」

優菜「あっあっあっあっ」


陸、汗で張り付いた優菜の前髪を愛おしそうに撫で付ける。


陸「・・・むむむ」


サイドテーブルに置いたペットボトルの蓋を開けて、水を飲み干す陸。


陸「むむむ、村内さんのこと、みんな、ブスって言うけど。ち、違う。全然、ち、違う。み、みんなはきみのこと、全然知らないんだ。な、何にも知らないんだ。きみはきれいだ。ほ、ほ、ほんとうに」

優菜「・・・私も、君のこと、見てた」


陸、きょとんとした表情。優菜、うつむいたまま、本棚をぼんやり見つめる。


優菜「あのね。無理に、話さなくていいと思う。大事なことだけ。それだけでいいと思う。ちゃんと、伝わるから」


優菜、本棚の本をビリビリと破き始める。陸の両目から涙が落ちる。陸は割れた眼鏡を指で直して、顔を隠す。


陸「あ、あ、ありがとう、今日まで、生きていてくれて。ぼ、ぼ僕、ずっとひとりだった。だけど、ふふふたりなら、き、きみがいるなら、も、もうちょっと、あと1時間、あ、あと1日、あと一週間、い、生き延びてみようって、そう、思う」


優菜、身体をぶるぶると震わせる。顔を歪めて、おんおんと泣き出す優菜。


⚪︎教室


掃除中。雑巾とほうきを使って野球ごっこをしている男子。少年Aが黙々と机を運んでいる誠に目をつけて、にやりと笑みを見せる。


少年A「おい。ゲームしようぜ」


たっぷりと濡らした雑巾が陸の顔面に当たる。どっと笑い声が上がる。ひとしきりゲームで盛り上がったあと、ずぶぬれの陸を残して、教室から生徒が次々に出て行く。俯く陸の前に、「村岡優菜」という書かれた上履きのつま先。「豚」「肉便器」などの罵詈雑言が落書きされている。じっと見つめたあと、微笑み、顔をあげる陸。



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