4。 精霊体と溢れる玉精霊
4。 精霊体と溢れる玉精霊
『ああ、大事なことを忘れていました』
そこで何かを思い出したのか、ルシルがそう言ってきた。
今の話以上に大事なことがあるのか?
「なんだ?」
『分かっていると思いますが、今の精霊王様は人間ではありません』
「それは分かるよ」
『はい。 人間という存在から精霊となりました。 なので今の精霊王様のお姿は本来のお姿ではありません』
は?
どういうこと?
「それって……もしかして我には精霊としての本当の姿があるってこと?」
『そういうことです』
そうなのか?
もしかしてルシルと同じような姿なのか?
『試しに精霊になろうと意識してみてください』
我は軽い気持ちで精霊になろうと意識した。
すると、たちまち我の姿が緑色の透き通った半透明なルシルと同じような感じに変化する。
「……マジかー」
『それが精霊王様の精霊としての本来のお姿です。 今の精霊王様は普通の精霊と同じように普通の人間には見ることも感じることも出来ません。 あと、やろうと思えば風と完全に同化することも可能です』
いや、なんか同化とかは怖いから今はいいけど。
うわぁ……えぇー。
薄々勘付いていたから気にしないようにしてたけどさぁ。
これ完全に人間辞めちゃってるじゃん。
神保 しぜん、今年20歳で人間卒業しちゃったよ。
やべえよ……母ちゃんにバレたら絶対泣かれるわ。
面倒くさいし絶対バレないようにしないと……。
「てか、どうやって戻るの? まさか戻れないとかないよね?」
『戻ろうと思えば簡単に戻れますよ』
我は人間の姿に戻ろうと思ったら、すぐに元の人間の姿に変化した。
よかったー。
ちゃんと戻れたわ。
『ちなみに精霊状態を【精霊体】。 今の精霊王様のような状態を【受肉体】といいます』
「へぇー。 ちゃんと名前があるんだ」
ん?
なんで名前が付いているんだ?
これは我みたいに人間から精霊になった存在限定じゃないのか?
「もしかしてルシルも受肉体になれるの?」
『なれますよ。 というか条件さえ満たせば精霊なら皆受肉体になれます』
「そうなんだ。 じゃあなんでルシルは精霊体なんだ?」
『精霊はみんな受肉体にはなりません。 なる必要がないですから』
「ふーん。 そういうものなんだ」
肉体があった方が便利だと思うんだけどなー。
まぁ今の我には精霊の考えることなんて分からないな。
そこでふと思い出す。
「そういえばルシルって前代に我を手助けするよう言われてるんだよな?」
『そうですが?』
「それってずっと我に付いてくるってこと?」
『少なくとも私が精霊王様に手助けが必要ないと思うまでは付いていきます』
やっぱりそうなんだ。
でもなー。
ずっと傍に居られるのもなぁ。
『精霊王様がどう考えているかは知りませんが、今は私が傍に居た方が良いと思いますよ』
「まぁ確かに今の我は色々と力不足だと思うけど」
『気が付いてないと思いますが、私はずっと精霊王様を中心にここら辺一帯に風の結界を張っています』
「え? そうなの? もしかして、それって他の属性の精霊から身を守る為?」
『いえ、違います。 というか襲われるということはあまりないと思いますが』
そうなのか。
良かった。
いきなり精霊に襲われたりなんか嫌だしね。
さっきは多分とか言ったから心配したわ。
「じゃあどういうこと?」
『先ほど説明したように精霊というのは基本的に何処にでも存在するんですが、その中でも玉精霊は大量にいるので何処でも見ます』
へぇー。
玉精霊ってのは精霊の中でも位が一番下の精霊だったよな?
『玉精霊というのは意識も薄く力がとても弱い為に新しく生まれては消えるという存在が殆どです』
「じゃあ玉精霊でも生き残った精霊が上の位の精霊に成長していくってこと?」
『そういうことです』
そうなんだ。
……ん?
「今の話と結界に何の関係が?」
『ここからが本題なんですが、玉精霊も意識が薄いといっても生き残りたいという願望があるため力が強い精霊に集まるという習性があるのです』
「……それってまさか」
『はい。 精霊王様ほどの力を持つ方となれば大量の玉精霊が集まって来ることでしょう』
「結界が必要なくらい?」
『数千……いや万は来るかもしれません』
マジかよ。
それは確かに結界必要だよな。
『なので高位の精霊は皆自身の周りに玉精霊が入ってこれないくらいの弱い結界を張っています』
こりゃあ、しばらくはルシルと一緒にいた方が良いな。
……でも気になるなぁ。
どのくらい玉精霊が来るんだろうか?
「その結界って少しだけ解除できる?」
『やめておいた方がいいと思いますが』
「いやぁだって気になるじゃん。 頼む! 少しだけでいいから」
『……わかりました。 一瞬だけ解除しますね』
「ありがとうルシル」
一体どんなのが来るんだろうな。
なんかワクワクしてきた。
やっぱり玉精霊って言うんだから球体のような姿をしているのかな?
それとも小人みたいな可愛らしい姿なのか?
『では解除します……張り直しました』
「速っ!?」
幾ら何でも結界を張り直すの速くないか?
これで玉精霊来るのかね?
そう思っていると窓の隙間から手の平サイズの綿みたいな物体が一つ部屋に浸入してくる。
「おぉ! これが玉精霊か! こんな感じなんだなぁ」
綿みたいな玉精霊はふよふよと浮遊しながら我に近付いてきて身体にピトっとくっ付いた。
「ほほっ。 可愛らしいじゃん」
『……来ますよ』
突然ルシルが呟く。
「え?」
次の瞬間、部屋の至る所から玉精霊だと思われる綿みたいなのが溢れ出し、我に向かって浮遊してくる。
「ちょ! ちょちょ待っ!?」
そして我は全身を玉精霊に覆われた。
前がまったく見えない。
なんとか息は出来るけど。
「……たふぅけて」
『はぁ……』
姿は見えないが、ルシルが呆れている姿は想像できた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます