5。 認められた精霊王

5。 認められた精霊王




『とりあえず首から上に結界を張りますね』


「おふぇがい」


 ルシルにお願いしたあとに我の頭にくっ付いていた玉精霊たちが離れる。

 はぁー良かったー。

 マジで焦ったわ。

 まさかこんなに早く大量に玉精霊たちがやって来るとは思わなかった。

 てか、なんで我の身体にくっ付いてくるんだよ!?


『私の言った通りでしたよね?』


「はい。 ……ところでなんでこの玉精霊たちは我の身体にくっ付いてくるのさ?」


『玉精霊は生き残りって力を得たいという生存本能から、強力な精霊から漏れ出ている魔力を吸おうとしているんですよ』


 え?

 そうなの?

 ということは……。


「我からも魔力が漏れ出ているってこと?」


『はい、バッチリ漏れ出ています。 ちなみに魔力を身体から漏らさないように出来れば結界を張らなくても玉精霊は寄って来なくなりますよ』


 マジかー。

 漏れ出ちゃってるのか魔力。

 そりゃ精霊になって魔法とか使えちゃってるんだから魔力ぐらい持ってるよなぁ。


「てことは今も我の身体にくっ付いている玉精霊たちは我から漏れ出ている魔力を吸っていると?」


『吸ってますね。 ただ、漏れ出ている魔力なんてのは、かなり微量ですから吸ったところで玉精霊には何の意味もないですし、精霊王様にも何の問題もありません』


 あ、そうなんだ。

 我は身体にくっ付いた玉精霊たちを良く見てみる。

 ……やっぱり綿にしか見えない。

 試しに右手をブンブンと振ってみるが、玉精霊たちは離れる気配がない。

 完全にくっ付いていらっしゃるわ。


「てか頭だけじゃなく、そろそろ身体からもこいつらを離してくれ」


 ルシルにそう頼んでみるが、彼女は首を振った。


『いえ、良い機会なので精霊王様ご自身でやってみてはどうでしょうか?』


「え? どうやんの?」


『簡単です。 先ほど精霊王様がやったように魔法を使えばいいのですよ。 身体に風を纏わせれば一発です』


「なるほど」


『ただ……』


 ん?

 なんか嫌な予感がするんだけど。


『今の魔法初心者の精霊王様がそんなことをやろうとして失敗したらこの部屋がボロボロになって大変な事になると思います。 そこに寝ている人間もタダでは済まないでしょうし、玉精霊は消滅するでしょう。 まぁ成功しても今の精霊王様だと、どっちにしろ玉精霊は消滅するかと』


 いやいやいやいやいや!?

 駄目だろう!?

 それは駄目だろうよ!?


「ここが何処だか知らんけどボロボロにはできないし、ましてや母ちゃんに怪我なんてさせられない」


『……』


「それにどっちにしろ玉精霊が消滅する……それって死ぬってことだろう? 我はこいつらを殺したくなんてない。 だから頼む! もっと穏便な方法で何とかしてくれ」


 我は表情の分からないルシルの顔をしっかり見て、そう言ってから頭を下げた。


『……ふふ』


 うん?


『ふふふふふ』


 何故か我の耳にルシルの静かな笑い声が聞こえてきた。

 我は不思議に思って顔を上げてルシルを見る。


「ど、どうしたんだ?」


『いえ……もしかして貴方様ならそう言うのではないかと思っていましたから、つい笑ってしまいました』


「なっ!?」


 ……まさか、こいつ!?


「我を試したのか!?」


『ごめんなさい。 でも私たちには新たな精霊王様がどんなお方なのか把握しておく必要がありましたから』


「だからって……なぁ」


『前代の精霊王様はとても自由な方でしたが、とても周囲を大切にする方でもありました。 その為、みんなからは、とても愛されていました。 だから余計に貴方様のことが気になったのです』


 そうだったのか。

 前代の精霊王ってただ自由な奴じゃなかったんだな。


 そこでルシルは空中で器用に跪く。


『改めて、私は風の上級精霊【ルシル】。 新たな精霊王様、貴方に忠誠を誓います』


「……それはよく分からないけど、よろしくルシル。 我のことはしぜんと呼んでくれ」


『自然様?』


「自然じゃなくてし↑ぜんだから!」


『分かりました、しぜん様』


「よしっ!」


『……案外あのお方はちゃんと後継者を選んでいたのかもしれませんね』


「え?」


『いえ、独り言です』


「そうか」


 なんか気になるなぁ。

 まぁいいか。

 大事な事ならいつか聞けるだろ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る