第5話 とろっとろはらめぇ

娘が友達から聞いて、興味があるのでとおねだりされてしまった。

少し悩んだが、やはり最初は私がしてあげるのがいいだろうと思って了承した。


娘は準備万端という形で待機している。

「もういい具合かな……」

私はそうつぶやくと、「早くぅ」と娘がせっつく。娘よ、ちょっと待ちなさい。お父さんも少し緊張しているのだ。

触ったら火傷するくらいの熱をもったソコ・・の具合を確認する。


私は、その真っ白な無垢のそれに突き刺し、ゆっくりと回転運動を始めた。

「おとーさん……動かしちゃ、らめぇ」

「ん?そうか?」

「だめ、やめてぇ」

娘が懇願する。何がまずいのだろうか。こんなにトロトロだというのに。

私は娘の静止の言葉を無視して、動かし続ける。

「うっ」

先端から、トロリと液状化したそれが落下する──

「おとーさんへたっぴ」

「ぐぬぬ」


娘に下手クソの烙印を押されてしまった。

「へたっぴ」

妻も笑ながら復唱した。酷い。何が悪いというのか。


「マシュマロは、ちゃんと焼き色がつくまで動かしちゃだめよ。溶けちゃうから」

「なんだって!?わかってたんなら教えてくれても…」

「動かしちゃらめっていった」

「……」

ぐうの音も出なかった。へたっぴで人の言葉を聞かないお父さんでごめんなさい。

「私がやるわよ」

といって、妻が娘の分を作ることになった。


私はというと、もう一つ袋から取り出して、リベンジした。

今度は表面にこんがり焼き色がつき、見た目おいしそうに仕上がった。

それをほおばると、表面はカリッと、中はとろふわ。確かにこれはうまい。

「マシュマロって美味かったんだなぁ」

と、しみじみ言う私に妻が補足した。

「あんまり、家ではこういう食べ方しないしね。こういうのはバーベキューとかでやるのが普通なんだけど…」

「そうか。確かにストーブとかそういうのじゃないと厳しいよなぁ。ガスコンロじゃ燃えちゃいそうだ」

「家でやるとしたら、一番簡単なのはトーストかな。パンの上にのせてトースターで焼くの」

なるほど、それは簡単だしおいしそうだ。

「パン、チョコ、マシュマロと乗せて焼くと、パンはトーストになってさっくり、チョコはちょっととろけて、マシュマロは……」


妻よ、ちょっとやめてほしい。

食べたくなるではないか。

板チョコ買ってこなければならないではないか。


「おかーさん」

あ、きた。

「おかーさん、それ食べたい!!」

やっぱ、言うと思った

「そういうと思って用意してきました!」

って、ええええ??

妻よ、あなたは素晴らしい。美味そうなおやつパンが食べられるとわかって小さくガッツポーズをする私。


「あ、あなたの分はないわよ?」

口をだらしなく開けて、絶望の顔をする私をみて、ぷっと噴き出すと、嘘、冗談よ。という。酷い妻である。

「そこまでこの世の終わりみたいな顔されるとは思わなかったわよ。作ればあるんだから、まぁ、ちょっと待ちなさい」


そういって、2枚目を準備する。

マシュマロトーストは確かにおいしかった。

娘の発案だったマシュマロパーティだが、こういうのもたまにはいいだろう。


紅茶をすすりながら、満足そうな笑みを浮かべる娘をみて、癒されるのであった。

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