第7話 ノギと乃木
ノギが決着をつけて数時間後。
ミフユは起きたばかりのラミナとレンナを連れて村まで来ていた。
「お前はどうなんだ?」
そう呟く、ノギ。
それに対して、ミフユは何も答えられない。
「お前がどう考えていても俺はどうだっていい。本当にどうだっていい」
「私は…」
ミフユが答えようとした時、
「「ノギ君!」」
ラミナとレンナの二人がノギに飛びつく。
「うぉっ!」
そのまま、押し倒されるノギ。
二人はノギに抱きつくような姿勢になっていた。
「二人とも急に…そうか…そうだよな」
ノギは二人の様子を見て文句を押し殺す。
手を二人の頭に添えて撫でる。
「落ち着くまでこうしてろ。出来れば今からする話は忘れて欲しいけどな」
彼はそう言って笑う。
「ミフユ、お前は何の目的でここにいる?」
「私は…分からないよ。ただ、私はこの身体で人生を楽しみたい」
どこか悲しい表情をするミフユにノギは何も言わない。
彼の中で彼女は少し侮っていた。
だが、今の言葉を聞き…
「俺には妹がいた。今の俺じゃない。俺ではない俺…昔の俺にはさ」
「うん、それで」
「聞いてくれるんだな」
「聞くよ。いくらでもあなたは多分…ううん、私の命の恩人だから」
「大袈裟だな。なんなら話すぞ下らない…ホントくだらない…失敗ばかりしていた男が世界に絶望した話を」
**
小学校の頃。
教室から賑やかな声が聞こえてくる。
どこのクラスよりも活気のある元気なクラス。
そこに一人の少年が入る。
「おはよう」
『…』
先程までの活気が嘘かのように静かになり、少年から誰もが目を逸らす。
そう、このクラスには少年…いや、俺、ノギの居場所はなかった。
故に俺はこの頃、いつも時間ぎりぎり登校しなかった。
このクラスが再び賑やかになるのは教師が来た時。
「みんなおはよう」
『先生おはよー!』
青年と言っても差し支えのない若い先生が入ってくる。
それだけでクラスは活気付く。
まるで、俺とは正反対の先生だった。
「出欠をとるぞ。朱莉偽」
「…はい」
その頃の俺は悪目立ちする生徒だった。
テストは一桁。運動もあまりできていた印象はない。
でも、
(きっとある。俺だって輝ける場所がある)
そう思っていた。
それはある意味正しく、そして…そんなことは俺は望んでいなかった。
その日の放課後の前、六限目の授業の終わりに差し掛かる頃。
「朱莉偽!ちょっと来てくれ」
先生から呼び出された。
その時の俺は呑気に帰って何をしようか考えていた時だった。
俺は先生の話を聞いて頭が真っ白になるのだった。
「ただいま」
家に帰る。
なんの返事も来ない。
作家で引きこもっているのに俺が帰ってくると必ず出てくる父親。
家事で忙しそうにしてる母親。
そして、俺より先に帰っていつも玄関で待ち構えている妹。
涙が溢れる。
『今日、妹は休みだったな?』
『はい、それがどうしたんですか?』
『…妹さんを病院に連れて行っている途中で君のご両親と妹さんが乗った車が事故に遭ったんだ』
今日先生に言われたことを思い出す。
それだけで涙が出てくる。
ここから先はショックで記憶にはなかったが三人とも瀕死の重体でいつ死ぬかも分からない、そして生きていたとして目覚めるかも分からないと告げられていた。
子供の俺にとってそれが絶望以外何者でもなかった。
理解はできなかったのではなく、理解ができてしまったのだ。
その苦しみが
だから…
待ってれば帰ってくると真剣に思い込んで何も食わず何も飲まずに一日…2日…3日と待ち続けた。
気がつけば疲れも眠気も感じなくなり、意識がずっと朦朧していて今にも死ぬのではと錯覚していた。
「喉…渇いたな…」
意識が遠のく…。
真っ暗闇な中
「朱莉偽!大丈夫か!?おい、返事をしろ!」
そんな声が聞こえた気がした。
そして、気がつけば俺は病院にいた。
「起きたか!朱莉偽!」
抱きしめてきた存在を見て俺は…涙を流す。
「父さん…母さん…ねぇ、先生…父さんと母さんは?」
「…」
それだけで答えは十分だった。
「嫌だ!来るな!」
俺は先生を突き放した。
子供の自分だ。
きっと、受け入れられなかったのだと思う。
「…朱莉偽…すまなかったな」
悲しそうに目を伏せて先生は病室から立ち去る。
俺はそのままふて寝する。
病室という特殊空間。
幸いにも誰も同室はおらず、俺は泣き続けた。
悲しみは減ることはなく、時間が経てば経つほどに実感が湧いてきて涙が溢れてくる。
受け入れたくない気持ちと認めなくてはいけないという認識が俺の精神を弱らせていく。
「何で!何で俺ばっかり…俺が。俺が死ねばよかった!何もできない出来損ないの俺が…」
故に…認めたくない事実を認めていってしまう。
無能な自分
無力な自分
まだ子供である自分。
幾つも幾つも夜が来るたびに泣き、そして、認め続ける。
自分がいかに無力であるかを…
生きた意味…そんなものは無いと知っている。
生きる価値…そんなものは必要ないと知っている。
欲しいのはそんなものではなかった。
誰かを救う力が欲しい。
生きた自分に意味が欲しい。
無力な自分を手放したい。
何度も泣いて…泣いて…泣いて過ごしたある日のことだった。
窓が開いていた。
普段は閉まっているその窓から一人の女が入り込んで来ていた。
「少年や失礼するよ」
その女はとても若い。
先生よりも若そうなその見た目とは裏腹にどこか底知れない何かがあるように思わされる。
「だれ?」
「私かい?ふむ、森羅万象と名乗っておこう」
「ダサッ」
「失敬な!」
女は怒ったように見せるが、本心では何も思っていないように当時の俺には思えた。
「君は何で泣いてるのかね?見たところ健康そのものなのに病室なんかにいて」
「…」
「答えたくはない…か。まぁ、私は名の通りすべて。見通すことができる。君の悩みも分かっている。助けたい…いや、無力は嫌なんだろう?」
図星を突かれた俺は目を逸らす。
「逸らすな!」
「え?」
「君が真にそれを望むなら立ち向かえ!何もできない?無力?当然だ!君は未だに子供だ!でも、それでも無力が嫌なら立ち向かえ!子供なんて関係ない!君に真に望むのはなんだ?自分の大切なものを失うまで無力を呪うのか?それとも、どうせ自分なんかと言い訳して大切なものを手放すのか?」
「違う!」
声を張り上げる。
周りの大人は自分の無力を棚に上げて同情と慰めしかしてこない。
状況の打破なんて考えてくれない。
俺はそんなのは嫌だ!
だから…だから。
だから、俺がなりたいのは…
「境遇を覆す力が欲しい!」
「よろしい!なら、まずは自分のすべきことを考えたまえ。…おっと、いつまでも私を追い回して本当に面倒だ。さらばだ少年!」
何かを持って俺は生きたのではない。
もう一度、たった一度でいい。
「ノギ、執筆が終わったから遊ぶぞ!」
「ノギご飯よ」
「お兄ちゃん!大好き!!」
家族のあの笑顔を見たい。そのために不可能だろうがやってやる。
そうして、俺はありとあらゆる手段を考えた。
ありとあらゆる事を講じた。
そして…僅か半月で俺は完成させた。
最新鋭医療ポッドを…
後にそれは世界の数世代いや、数十世代先の代物オーバーテクノロジーと呼ばれることになるのだった。
そして、俺は再び
「父さん!母さん!」
両親に
そして
「乃亜!」
妹と再会するのだった。
その日を境に俺の取り巻く環境が変わり、無能だっだいや、無力だった俺は消えた。
それと同時に医療ポッドの開発と共に手のひらを返した世界に対して俺は絶望するのだった。
**
「どの世界でも勝手なんだよ…人間ってのは」
ノギは空を仰ぐ。
「本当に勝手なんだよ…家族が大事と言いながら今も昔も未練がたらたらで…終わった後でも思うんだ。まだやりようがあったのでは?止める事ができたのでは?自分勝手に誰もかもを救えると勘違いしていた」
「うん、それで」
ミフユはノギに促す。
「俺は結局、アイツと変わらないんだよ。ただただ夢に夢想して、アノウに構っていたのも、今思えばその一環だ」
「そうかもね」
「俺はただアイツと同じでここを現実として見なかった!ただ、そう言う役割(ロール)をしてた!」
「うん、それで」
ミフユはノギの愚痴を一つ一つ聞いてくれる。
その様子に俺はふとラミナとレンナが気になるが寝息が聞こえてきて安心して全てを吐き出す。
まるで盤上として見ていたこと
自分が天才だと勘違いしたこと
まだ沢山ある。
でも、一番は
「俺は最後までここを現実として…今でも認められないんだよ。俺の人生はあそこで終わったんだよ!あの日、乃亜を助けたあの瞬間に!」
初めてミフユの返事が聞こえなかった。
今まで自分の心の底を認めてこなかった。
「そうか、だから俺は」
気づいてノギは涙を流す。
「馬鹿だな俺は…」
アノウを妹として見ていたのだ。
唯一ノギが捨てられなかったものとしてそれは残り続けていた。
「ありがとな…俺は…」
「ダメだよ」
二人を下ろして歩き出そうとする俺をミフユを止める。
「この現実を現実として見れない?ごめんね、私はそれだけは共感できなかった」
「だろうな」
「あっさり信じるんだね」
「だってお前は聡いやつだからな」
ノギの言葉にミフユはキョトンとすると笑う。
「違うよ。私はそんな素晴らしい理由じゃない。昔の私はずっと病室にいたの」
「え?」
ノギは…声を失った。
「でもね、ずっとある人にお礼を言いたかった。私にひとつだけ希望をくれたの」
空に手を伸ばす彼女にノギは目を見開く。
何故か分からない。
涙が溢れる。
「中学三年の夏、結局私は登校できなかった。そんな中でね。私は余命宣告されたの。卒業したい…そんなことも言ってられなかったんだ。でも、そんな時だったの。治すまではいかない。でも、ほんの少しだけ延命して…ほんの少しだけ私が自分の力で歩く手段が開発されたの」
知っている。
知らない筈なのに…ノギはそれを知っている。
「弱い者に助からないかもしれない人に使ってあげてほしいってそんなメッセージと共に私にそんな最新鋭の医療…いいえ、僅かな延命装置を使う許可を得た。私はその時、初めて外の姿を見たんだ。お母さんは泣いてたし、お父さんも泣いてた。あと少しの命、まだ僅かにだけ一緒に居られることに泣きながら喜んだ。そして、僅か数ヶ月私は学校に行って卒業できたんだ…一瞬だけの幸せな時間だった。そして、私はあなたに一つ言いたいの」
ミフユはノギを真剣な様子で見つめると。
「ありがとうございました。朱莉偽 乃木君」
笑う。
声を失う。
ノギは目の前の現実を受け止めて意識が遠くなるような感覚。それと同時に怒りが込み上げてきた。
「ふざけんな!!」
「ふざけてない」
「今の話を聞いていればわかるだろ!!俺は俺の事情で救えるはずの命をお前の命を捨てているんだよ!」
そう、彼女が受けた医療機器についてはノギは概ね予想がついていた。
しかし、その医療機器は世間に公開された時にはもう型の古いものとなっていた。
公表こそしなかったが既にノギは更なる医療機器をあの時完成させていた。
しかし、世界に失望した彼ははそれをしばらく公開することはなかった。
「俺はお前にお礼を言われるような人間じゃないんだよ!」
だから、彼は彼女の感謝を拒絶しようとする。
しかし
「なら、私があなたに感謝するのも私の事情。私の生に意味を与えてくれたあなたに感謝する」
「…だからって」
ノギは拳を握りしめてを逸らす。
自分はそんな人間ではないと、言い聞かせる。
だが、ミフユはそんな彼を見て。
「最低でもいいんだよ。私は救ってくれた貴方を救いたい」
そう言ってノギの顔を撫でる。
「だから、貴方がどう思っていても良い、私は貴方の隣にいて、望むように世界を見せてあげる。それが私の今の思い」
「だから…」
「今の貴方が朱莉偽 乃木ではないのなら私はそう接する。貴方がここを現実と認められないのなら私は貴方に夢でいられるようにする。貴方が事実を受け止めたいのなら、私は現実を見せてあげる」
彼女はノギにグッと距離を近づける。
「お礼を言われる存在じゃない?たしかにそうかもしれない。でも、私はそう思わない。私は、私が与えられた希望をあなたに与えてあげたい。この世界の生きる意味を生きる本当の意味を知ってほしい」
抱き寄せられたノギは呆気に取られる。
そして、すぐに突き放そうとするが…
「なぁ、お前はその選択に後悔しないか?」
「…うん、私は貴方がどんな選択をしても悪いことにならないって信じてる」
その言葉を聞いてノギは大人しくなる。
そして、
「全く、まだよく知りもしない相手を信じるのかよ」
そう呟く。
そして、ノギは笑う。
「ミフユ、明日の夜までに移動の準備しておけ、守りたい相手がいるなら連れて来い、あと二人を頼んだ」
ノギはそう言ってラミナとレンナのそばに近寄り、少しでも眠りやすそうな場所に運ぶ。
「私はいらない?」
「そんなことは言ってない。お前の言葉にはしっかり責任を取ってもらう」
「なら、何をしようとしてるの?」
歩き出す、ノギの背中に叫ぶミフユ。
それを聞いたノギは少し考えると。
「お姫様…いや、妹を迎えに行くだけだよ。まぁ、世界を敵に回すことにはなるが魔王だし今更か」
**
俺という人間の小ささを知った。
大人に敵わないこの身を知っていた。
しかし、大人を下す方法を知っていた。
でも、そんなものがあっても望んだものは何一つ手に入ることはなかった。
懐かしい記憶。
どこか別のものとして捉えてきた記憶。
「どっちがどっちだか…」
俺は朱莉偽 乃木なのか?
それともノギ ティーファナルなのか?
その答えは俺しか知らない。
でも一つ言えることは…
「本来あるべき姿…か」
システムに存在する魔王という力の一つにそんな力が存在していた。
その力は多分。
あの時望んだのは新しい自分ではなく、あの頃の朱莉偽 乃木だったからだろう。
でも、それと同時に現実と見ていない自分がそれを望まなかった。
故に半端なものとして存在している。
「けど、今はそれが良い。まだ、答えは決めてないが、俺の目的はより明確になった」
俺は跳ぶ。
街の外壁の上から飛び、屋根を伝っていく。
「この世界を支配するのに勇者の力は必要だ」
俺は窓を破り、着地して手を差し出す。
「一緒に付いて来ないか?アノウ」
「…ノギ?」
そこにいたのは目を真っ赤にしたアノウの姿だった。
「ノギ!」
「ぐへっ!」
俺と認識すると同時に俺に飛びついてくる。
勢いが強くて俺はえずくが、吐きそうな感覚を抑え込み、アノウを抱きしめる。
「俺が死んだとでも伝えられか?」
「…うん、村に魔王軍が来て、村が壊滅、一緒にノギが死んだって…」
「やはりか…」
「ノギは何か知ってるの!?」
「それは…」
俺が話そうとしてると人の気配を感じる。
どうやら、村に送った騎士が帰ってこないことで警戒が始まったところみたいだ。
タイミング的に間に合ったと言ったところか。
「話は後にしたい。けどその前に質問だ」
「?」
不思議そうな顔をするアノウ。
俺は少し緊張する。
けど、
「もう一度聞く、俺と一緒に来てくれるか?アノウ」
俺はそう言って手を再び差し出す。
アノウは俺の手と顔をじっと見る。
俺は息を呑む。
手を取って貰えなければ俺がここに来た意味がなくなる。
アノウはジッと俺の目を見ると
「喜んで」
笑って、手を取ってくれる。
それを見た俺は。
「なら、すまないが急ぐ」
彼女を引き寄せて、背中に背負う。
「ふぇ?ちょっとノギ!?」
「我慢してくれ。異変を察知してきてる」
俺がそう言って窓枠に足を乗せた瞬間。
「そこまでです!」
一人の騎士が入ってくる。
しかし、その時には俺は窓枠を蹴って空を駆けていた。
再び屋根を伝うには俺の脚力が足りない。
故に、
「これ怖い!!何!?なんで地面に降りないの!?」
「下には騎士が待ち構えてる」
俺は壁を蹴り移動していく。
そして、屋根を上り、走り抜けていく。
下にいる騎士たちは俺を必死に追ってるみたいだが、機動力はないようで突き放すことはできそうだ。
そう思って走ってる時、すれ違う。
すれ違ったのだ。
いつの間にか隣にいる少女。
それに対して俺はすぐに反応して、距離を離すように動く。
しかし、あの口の動き。
「逃げられると?」
舐められている?
いや、あの感覚は違う。
似た感覚を俺は知っている。
「アノウ、少し暴れるからしっかりと掴まれよ」
俺はそう言うとある言葉を口にする。
「俺ではない俺…俺は朱莉偽 乃木」
その瞬間、体の力が抜けていく。
それと共に冴え渡る思考。
「なるほど国が誇る剣聖、聖女、魔道士が相手か」
俺が周囲を警戒してると正面に鎧を来た初老の男が立っていた。
彼は剣を抜かずにただ佇んでただけに見えるが、違う。
一歩でもなんの対策もなしに間合いに入れば俺の首は切られていただろう。
「未完成とは言え、森羅万象の持ち主が後ろにいるんだ。悪いがすぐに通させてもらうぞ剣聖」
「老いた身とは言え若造に舐められるとはな」
剣聖は剣を抜く。
いや、正確にはこの瞬間に剣を振るっていた。
しかし、俺は間合いのギリギリで動きを止めて避ける。
「運が良いな。しかし、この程度で」
「いや、このやり方は好きじゃないけど、俺の勝ちだよおっさん」
通常、俺が剣聖に勝つ手段はない。
しかし、剣聖はわずかに慢心をしていた。
短距離転移、それにより俺は剣聖の居場所を超えて走る。
時間の都合や後ろにいる賢者たちに悟られない為に俺は距離や規模を落として連続転移を行う。
これは普段の俺、ノギにはできない小技であり、乃木の演算能力があってこそできる連続転移。
「逃すか!!」
剣聖が剣を振るう。
それは距離や時間を超越する一撃。
しかし、それはくる場所がわかれば対処は容易である。
「何!?」
必中とも言える空間を超えた一撃を俺は避ける。
その次の瞬間には無数の魔法が飛んでくる。
だが、
ドォン!
俺に届く事なく、極小の障壁により魔法は全て相殺される。
「化け物め」
「あんたこそ、今の威力は俺じゃなきゃ止められねぇよ」
魔術師の男に俺はそう言って、通り過ぎていく。
短距離転移によって常に景色が変わり続け、外壁まで後、数十メートルまで来た時だった。
「残念ながらここから先は行けないわ」
先ほどすれ違った賢者の少女が目の前にいた。
俺は足を止めることを余儀なくされた。
彼女の両脇には先程の魔術師と剣聖がいる。
「賢者様、通していただけないでしょうか?」
「あら、魔王が私に様付けとは嫌に下手ね」
「バレてら」
賢者の少女は意地悪な笑みを浮かべながら俺の前に立っている。
「さて、今度は流さぬぞ」
剣聖はそう言って俺の方に向かってくる。
「はぁ、おっさんは気づけよ」
正直、厄介な相手ではあるが俺は賢者以外の相手に負ける気がしなかった。
剣を避ける。
振るわれる剣を見ることはできない。
しかし、彼の体の向き、肩の位置、構え、癖、視線、表情、見え隠れする性格が全てを教えてくれる。
魔術師も同様だ。
二人とも考えてはいるようだが、まだ足りない。
俺が小突くと二人の動きは瓦解を始めて、動きを見失う。
そして、そう言った行動はミスを生む。
魔術師の魔法は剣聖に直撃して、剣聖の動きが明らかに鈍くなる。
ふらつく剣聖の足を俺は払い屋根上から落とす。
動揺した魔術師も同様だ。
「流石は天才と言ったところかしら?」
「そっちこそ、あんた一人で俺を抑えられるんだろ?」
「さぁて、私はそこまでできるかな?」
その瞬間、俺は浮遊感を味わう。
体が浮かび上がり空へと俺は放り出される。
それと同時に鎖が飛んできて俺を拘束しようとする。
「甘いな」
細かい制御が可能な今の俺は重力系統の魔法を使い俺は鎖を避ける。
しかし、
体が唐突に動かなくなる。
第二陣の鎖を避ける余裕はなく、俺は短距離転移を行おうとするが
妨害用の魔力があり、上手くいかない。
それを知った俺はすぐに作戦を変更して、鎖を障壁で抑える。
だが、次に来たものを俺は防げない。
先ほど外した鎖が再び迫り来る。
おまけに第三陣と共に。
「ふぅ、力強さはこっちだな。俺は俺だ。俺はノギ ティーファナル」
瞬間、力が湧き出す。
魔力が漲る。
「核魔法」
鎖を砕ける。
極少の破壊魔法によって鎖や妨害用の魔法等が破壊される。
そして、俺は城壁に向かって移動する。
それを許さないように城壁の上に賢者が待ち構える。
しかし、その位置なら何も巻き込むことはない。
「核魔法」
破壊の轟音が響き渡る。
格魔法を避けた賢者、その隙をおれは見逃さずに跳ぶ。
城壁の外まで飛び出して俺は呟く。
「引き分けと言ったところか」
そうして、アノウを外に連れ出すことに成功するのだった。
**
ガタガタガタガタ
二輪の馬車が道なりに沿って走っている。
そんな走行音で俺は目を覚ます。
周囲を見てみると眠っているアノウ。
俺は上体を起こして状況把握に努めると。
「あ、ノギ君」
「お、おはよう」
真っ赤な顔で挨拶してくるラミナとレンナが隣にいた。
「おはよう二人とも。今は?」
「えっと、…れ、レンナちゃん分かる〜?」
考えた結果答えに困ったラミナがレンナに助けを求めている。
ため息を吐きながらもレンナは俺の方をしっかりと見て答えてくれる。
「現在、ミラアの町から離れて2日目、元村のあった場所を超えて国境の方に向かっている途中です」
「なるほど、検問の超え方は聞いてるか?」
「…検問とは?」
「国を超えることがないから分からないか」
俺は頭を掻いてそう言うと二人にお礼を言って今御者をしてるであろう人物に確認をとりにいく。
「ミフユ、今平気か?」
「あ、ようやく起きたのねノギ」
「アノウは振り回しすぎて未だに目を回してるけどな」
「あはは、それで私のところに来るってことは何かあったの?」
「まぁ、そうだけど、理由が無かったら来ちゃダメなやつ?」
「んー、乙女的には来てもらいたいかなぁ」
「了解」
俺とミフユはそう言った冗談を言い合うと話を本題に移していく。
「検問はどうやって超える予定だ?」
「そうだった。国境には関所があったね」
ミフユは悩む様子を見せている。
チラチラと俺を見ながら。
多分俺なら何かいいアイディアが浮かぶと思っているのだろう。
「山の迂回ルートは馬車じゃ厳しいからなぁ、でも、俺とアノウ以外なら案外検問はどうにかなるな」
「うちの家族も犯罪者ってわけじゃないしね」
「一回俺たちを降ろして俺たちだけ迂回する」
「オッケー、んじゃ2日後くらいに着くらしいからそれまでゆっくりしててね」
「分かったそうしておく」
どこか嬉しそうなミフユを見ながら俺は御者の近くで眠りにつくのだった。
ひとまず、俺の目標は…
変わらず世界征服ってことで。
魔王になる予定なので勇者と仲良くしよう ARS @ARSfelm
★で称える
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