第6話 戻れない結末
「悪いなアノウ。俺たちは一回戻って報告しにいくよ」
俺は現在、馬車の前でアノウに一時の別れを告げていた。
アノウは不機嫌そうに俺を見るだけで何も言わない。
「仕方ないだろ?勇者が同時に失う可能性があるのは困るんだって。な?」
「でも、それならユウジにだけ行かせればいいじゃん」
「まぁ、それもそうだが俺の修行という名目もあるんだ。だから、許してくれ」
一応、今の言葉で納得はしてくれたものの未だ不機嫌である。仕方なしに適当にお土産などの話をしてご機嫌を取るものの何とかマシになった程度だった。
その後、機嫌をより良くする暇もなく俺は馬車に乗って村へと向かうのだった。
「あんだけ不機嫌になられるとは予想外だな」
俺はポツリと呟く。外の景色は特に行きとは変わらず馬車は走っていく。この調子なら、行きと同じようにミフユの町を経由してそこで一泊してから帰るだろう。
「にしても、まさか君が勇者とは思いませんでしたよ」
ユウジは皮肉気味に俺にそう言ってくる。まぁ、俺としてはもっと目立たないようにしたかったが勇者であるアノウといるならこれしかなかったので仕方ないことだ。
「俺としてはもう少し目立たない役職が良かったよ」
「僕は君の役職が羨ましいですよ」
ニコニコしながらユウジはそう言うが同じ転生者の可能性がある以上何か裏がないあるのではないかと思ってしまう。
「二人は分かりやすくていいけど…私は獣天って奴だよ。どんな天職かよくわからないよ」
おい、そこでボロを出すなミフユ。ひょっとしたら本当に聞いてないのかもしれないけれど、獣人なら知らない者はいないとされる伝説の天職だってよく村外れな狼の獣人の男が御伽噺と一緒に語ってたからな。
「にしても、なんの偶然かまさかみんな選ばれし者とは」
「そうだな、俺としてはある意味必然だったのかもとは思うがな」
「そうだね、私も一人じゃなくてよかったよ」
こうして、話していき俺たちはミフユの町にたどり着くのだった。
俺たち三人は馬車を降りてそれぞれ別行動を始める。
適当にお土産を見ようかと商店街の方に歩き出そうとした時だった。
「あの、ノギ君」
そうやって後ろから声をかけられた。
声からして女で俺に話しかけてくると言ったらラミナとレンナだが、彼女達は今、向こうで買い物中だ。ならば、ミフユかと思うのだが彼女は家に戻ってるはずだが…。
俺はそう思って振り向くとそこにはミフユがいた。
「あれ?どうしたんだ」
「あ、ノギ君にちょっとうちの店でご馳走しようと思ってね。それと、少し話があるの」
彼女のその表情は真剣そのものでからかうような雰囲気はない。俺は意図は分からないが大事なことだと言うことは察することができて頷く。
**
「相変わらず美味いな」
俺はそう言って次々に料理を口の中に入れる。
これでミフユのところの料理を食べたのは二度目だがハズレが無いと言えるほどどの料理も美味しい。
「それはよかったよ。それで話なんだけど聞ける?」
「ふぁいひょーふだ(大丈夫だ)」
「うん、なんとなく分かるけど飲み込んでから話してね」
「ゴクリ、悪い悪い。話さなきゃと思うとついやっちゃうんだよな」
俺はそう言って頭をかく。にしても、話ってなんだろう。この雰囲気からして甘酸っぱい何かとは思えない。
これはどっかで感じたことあるような雰囲気だ。
そう、例えば…あの屋上で…
「なんだか分からないけど私の獣天としての直感が言ってるの。ユウジには気を付けて…何か企んでるような気がするの」
そうだ…これは雰囲気が屋上で飛び降り自殺しようとした少女に似てるのだ。
とは言っても名前も違う。
そうではなくて、逆恨みさせて殺される覚悟で来た夕陽の照らす教室の出来事だった。
『ごめんなさい呼び出したりして』
『何の用だ?俺はそこまで暇じゃなんだが』
あの頃は本当に俺は病んでたな。逆恨みさせるための口調じゃなくてあの頃の俺にとってそれが素だったんだよな。
よく、殺されなかったものだ。
そして、確か次に言われた言葉は…
『助けてください!』
だったんだよな。あの時、何がいけなかったのか分からなかったんだよな…何で殺されなかったのか。まぁ、未だに分からんけど。
まぁ、話を戻して、言うならば今のミフユの目が信じてくれるか分からないけど言わなきゃと言う思いに駆られて何とか口にできた様子だった。
「詳しく…聞いていいか?」
「うん、実は…」
数十分後、俺は走り出していた。
それは、俺にとっては許容できないことであり許せないこと…。
**
俺は森を開いて作った道を走り続ける。
そんな中で一人の男が立っているのが見えた。
「おや、そんなに急いでどこに向かうですか?ノギ君」
ユウジが立っていた。
「邪魔だ…今すぐそこを退け」
「お断りします。これは僕の計画に必要なことですから」
「ふざけてんのか!テメェの親だっているんだぞ!それでも人間か!」
俺は叫ぶ。今、彼の建ててる計画はそれだけ非人道的であり凡そ人とは思えないものだった。
その計画は俺たちの村の壊滅を意味する。それによりアノウという勇者を煽る。要するに俺たちの村は捨てられたのだ。
「あなたには言っても分からないでしょうが僕にとってはあんなの親ではありませんよ」
「どういう意味だ」
「そのままの意味ですよ。僕は転生者であり、あんなのはただの他人なんですよ。君には分からない話ですか」
言いたいことはわかる。
でも、聞きたいことはそんなことではない。
「そんなこと、誰も聞いてねぇんだよ!」
こいつは根っから合わない人間だ。俺にとっては悪。
だから、容赦する必要はない。
「流石は勇者というべきか。なんていう魔力」
「テメェはここで叩く」
覚悟しろと言わずに俺はユウジにぶつかりに行く。
拳を握り締めて、顔面目掛けて拳が通る…はずだった。
「無駄ですよ。僕には転移魔法があります。魔道士たる僕だけに許されるような強力な転移魔法がね」
ユウジがそう言うと共に火、水、氷、土、風、雷の槍などが無数に降り注いでくる。
俺はそれに対して重力で強制的に落とす。
「重力魔法ですか、それなら上からではどうですか?」
雨のように降り注ぐ魔法の槍。俺はそれに対して空間を広げる。広がった隙間を縫い俺は走る。そして、手を突き出してイメージする。
あの日から封じてきた魔法を…
「ゼロ距離で空間もぶっ壊した。終わりだ『核撃魔法』」
指向性の持った破壊の権化のレーザーがユウジのゼロ距離で放たれる。
俺の腕は前と同じように消し飛び、目の前にある空間を大きく抉る。
この魔法自体は使うのは簡単だ。ただ、龍と竜魔法を同時に使えばいいだけだ。一番難しいのは転移魔法されないように世界を線と見立てることだ。
それは俺とユウジがいる空間を直線上にしか捉えないようにしてそれ以外の空間を一瞬だけ無にした。
まぁ、言うなれば究極的にこの辺りの空間を縮めたのだ。
「びっくりしましたよ。まさか、原子分解を使ってくるとは」
しかし、終わったと言う思いは一瞬にして砕け散る。
すぐ後ろから声がする。
この程度で終わるとは思っていない。
でも、今はそれでいい。
「おっと、行ってもいいのですか?」
俺が村まで走り出そうとした瞬間、ユウジのすぐそばにはラミナとレンナそして、ミフユが空間魔法か何かで固定されていた。
「理解が早くて助かります。君が今、一歩でも動けば彼女達の命はないですよ」
俺は動けない。三人には意識はない。多分、初めからこいつはこれが狙いだったのだ。転移魔法で人質を取るつもりだったのだ。
「さぁ、君は彼女達を裏切ることができるのですか?」
「ちっ、お前の目的は何だ」
答えが返ってくるとは思っていない。でも、少しでも目的は知りたい。こいつがペラペラ喋ってくれるとは思う。
でも、こいつの回答に俺は手を出さずにいられるのか…いや、するしかない。
「何当然なことを聞いてるんですか?いや、失礼しましたその年齢なら確かに聡明な方ですね。そんなの簡単ですよ。僕は名声が欲しい。そうすれば金も女も手に入る。そのためには手っ取り早く彼女に覚醒してもらおうかと、君を殺せばあっという間に覚醒してくれるだろ」
清々しいほどのゲスな答えに俺は思わず何度も手が出そうになる。しかし、さっきから何か引っかかるような感覚がある。
憎いとは違う。むかつくんだ。
「安心してください。あなたがいなくなった彼女の傷は僕が責任を持って癒してあげますから。それともあなたの扱いですか?簡単なことですよ村と同じように魔王の軍団と戦い僕を逃した勇者と報告しますから」
そうか、この感覚がむかつくんだ。確かに俺もそんな考えはあったかもしれない。でも、まるでこの世界の人間を物として見ていないこいつの考えがむかつくんだ。
「さて、そろそろ君には退場してもらいましょうか」
今の俺にはどうすることもできない。しかし、まだ手はあるはずだ。何かある…絶対に…だめだ三人を救う方法が思いつかない。なら、逆に考えろ。なら、俺じゃない俺が考えればいい。
朱莉偽 乃木ならどうした?乃木(オレ)ならどうしてた?教えろ…。考えろ。この状況を打破する方法を…。
奴より強力な転移魔法を…いや、そんな魔法持っていない。ならば…
先程と同じように魔法の槍が降り注がれる。俺はそれを目に捉える。
ここで死ぬのか?ダメだ。俺はここで死なない。こんな勘違い野郎に負けられない。
なら、ならば…そうか。
あるじゃないか…一番可能性が高いものが…。
夕日が見える。
俺は願った。後悔のない人生なんて無理だ。
でも、守りたいと思う。どこかで俺はアノウのことを妹と重ねていた。その笑顔を守りたいと…俺の手で…。
ザザッ
ノイズが走る。どうやら正解のようだ。あともう少し!
俺は…こいつが憎い!目の前にある奴を俺の幸せの為に…
考えろ!俺の願望を…それを叶えるための条件を…
それが魔王のプログラムを起動させる条件のはず。
「ノギ…君?」
その瞬間、聞こえてきた声に俺は目覚める。
ジジジジジジッ
不快な音が俺の中に響く。そこにあるのは無数の情報…。本来、そこから必要な情報の一部を抜き取るだけでいい。しかし、俺にはそんな暇はない。だから、
「いいから全部よこせ」
死ぬようなひどい頭痛が襲う。引き伸ばされた一瞬が永遠に感じる。これでも遅い。間に合わない。ならもっと無茶をするしかない。
強制的に埋め込まれていく情報の数々を自分の意思で自分の手で読み取っていく。そうして、得た答えは簡単だ。
魔王の覚醒が始まる。
**
轟音が鳴り響く。ユウジの魔法によりノギは飲まれた。要するに直撃したのだ。その威力は凡そ人の原型が止まっていれば運がいいというレベルで正直に言えば生存なんて見込めない。
「ノギ…君…私のせいで…」
「おや、ミフユさん起きてたんですか?」
ユウジはミフユが起きても動揺はせずにニッコリと笑うだけ…。そして、ゆっくりと手をミフユに向ける。
「な、何をする気…」
「安心してください。あなたにはまだ利用価値がある。それこそ同じ転生者じゃないですか」
「な、何で…」
ミフユは自分の正体がバレてることに絶句する。
そして、それよりもユウジのその目に恐怖を感じていた。
「それでも、ノギ君を殺した事実を覚えられてるのも困りますし、丁度いいので洗脳させてもらいます。そしたら、あなたは何も知らないしただ幸せな日々が訪れるだけですよ」
「っっ!」
その言葉の意味を理解して僅かにミフユは身を縮ませる。しかし、そうしてる間にもユウジは詠唱を始める。そして、詠唱が終わるその時…。
ユウジの目の前からミフユの姿が消える。
いや、ミフユだけではないラミナとレンナの姿が消えたのだ。
その事態に一瞬、理解が追い付かずにユウジは戸惑う。
そして、見た…恐ろしい…何かを
「あなたは…何者だ!」
「…」
何かは何も喋らない。ただ、目があるかも分からないその顔がユウジに向くだけ。
その状況の中で僅かにユウジは見る。三人を守るように立つ何かの姿を…
「まさか…あなたはノギなのか…」
しかし、何も言わない…いや、何も言わないのではない。ユウジが受け入れらないのだ。圧倒的な何か…それでいて常に向けられる恐ろしい殺気にユウジはノギに対して化け物と幻視しているのだ。
「僕は選ばれた人間だ!貴様のようなモブなんかに…」
そう言って得意の転移魔法を使うのだが、何も起こらない。ユウジは何度も戸惑いながらも繰り返す。そうして、やがておかしいことに気がつく。
「どういうことだ…転移…おかしい、何で引き寄せることも移動することもできないんだよ!」
ゆっくりと一歩、ノギが踏み出す。
ユウジは咄嗟に魔法を放つ…魔力の続く限り延々と…ひたすら壊れたように…。
ただ、その魔法がノギに届くことはない。目の前でずれる。逸れる。まるでその場の空間が歪んでるのかのように…。
しかし、本能的に恐怖しているユウジにはそれだけの理解は及ばない。化物は口を開く。
「く、来るな…やめろ…やめてくれぇぇぇぇぇ」
その瞬間、起きる閃光…不可避の破壊がユウジの体を粉々に分子…いや、電子レベルにまで崩壊を起こす。
『核撃魔法』
それの完成形が無駄な大地を抉ることなくユウジだけの崩壊を起こした。
残った四人のラミナとレンナは起きることなくその状況をミフユは見ていた。
殺気が向けられてるわけでもない、幻視してるわけでもない。しかし、ミフユにとっては恐怖意外の感情が湧かなかった。
「ノギ…君…」
「悪りぃ、詳しい説明は後だ。ミフユは二人を連れて安全なところにいてくれ」
ノギはそう言って黒い魔力を纏って走り去っていく。その光景は所々途切れており、まるで一瞬一瞬で転移してるかのように…。
「私は…」
ミフユは頭を振る。自分の失敗や後悔…それらが一気に押し寄せてくる。
(私は助けてくれたノギ君に対して一体どんな感情を抱いた!)
それは許されるものではないと彼女は自分を叱責する。
何もできない自分や助けてくれた相手への恐怖…ありとあらゆる思いで自己嫌悪に至る。
しかし、ここで引いたらダメだという思いもある。
「なら、ここでやるしかない」
ミフユは立ち上がる。二人を背負ってノギの行った先へと向かう。
**
破壊が撒き散らされる。
放たれた火に逃げ惑う人はもういない。
目に見えるのは撤退を始めてる騎士達と大量の村人の死体…そこには、俺の父や母…アノウの…ラミナとレンナの…目に見える光景に絶望しか浮かんでこない。
そんな中で騎士達が俺に気づく。
「お、こんなところに生き残りがいやがるぞ!」
「一人も生きて帰すな!」
そう言って俺に迫ってくる。
目に見えるものは剣や槍を持った…鎧に包まれた男達…。
馬鹿げている。
必死に頑張って、必死にここまできて…ここに来てこれかよ…
あぁ、そうかよ…
世界は否定した。
何も変わらない。
今も昔も…この目も…
異物を見るような目…軽蔑の目
恨みや憎しみ…欲望や怒り…
世界が違うからって何も変わりはしない。
だからって…理不尽を許していいのかよ…
魔王を殺すため?
ふざけんな…そんなことで殺されてたまるかよ…
俺なんかよりお前達の方がよっぽど魔王じゃないか。
欲望、名声…ふざけんな!くそくらえだ!
なら、正そう…間違いとして
ー覚醒の条件が揃いましたー
ーこれより覚醒のフェーズIIIに移行しますー
ー生贄を要求しますー
あぁ、いいさ。魔王は元来よりそういう生き物だ。
人類の敵であり、幾多の死を作り出してきた。
なら、始めよう…人類の粛清を
重力が騎士達を襲う。
地にへばりつく騎士達の首を騎士の持っていた剣で切り落とす。
「まだ、足りない…」
俺は騎士の本隊へ突っ込む。抵抗や魔法なんてユウジと比べればお粗末なものだ。
手加減なしの核撃魔法が放たれる。
それは、地を抉り山を抉り騎士達を一人残らず消滅させる。そんな中にも生き残りはおり、恐怖で腰が抜けてるもの、逃げようと必死に自分を奮い立たせる者…。
「逃すと思うか?」
核撃魔法を今度はホーミングとして放つ…それは生き残った騎士の一人も残さずに殺す…はずだった。
「チッ、やっぱりいるよな」
「全く、一人で全滅させられるとは思わなかったぜ。確か勇者ノギだったか?」
そこにいるのは核撃魔法を自力で耐え切った化け物の騎士。聖騎士の天職を持つ者。しかし、聖騎士は選ばれしものではないようで経験からここまで強くなったようだ。
俺は重力魔法、空間魔法、拡張と縮小で簡易転移をする。
直接空間を歪ませてその場に移動する。しかし、その行動も読まれたようで聖騎士は防ぐ。
「へぇ、すげぇな」
ただ騎士剣のままだと攻撃する以前に砕かれる!
そう悟って今持ってる剣を手放して無属性魔法の具現化によって剣を作り出す。
ひたすらに打ち合う。聖騎士の鎧にはおそらく今の俺程度の魔法なら無効化される。
なら、直接攻撃せずにやるだけだ。空間を捻じ曲げて上下前後左右全体から攻撃する。
「なるほどな、賢者が言ってたのはそういうことか」
聖騎士の呟きを俺は聞く。賢者とは何か?それはシステムの一環にあったことは覚えてる。しかし、何故だかそれが気になった。
「でも、今はテメェらをぶっ潰すだけだ!」
より速く…もっとだ。
情報の処理が追いつかないというのなら、もっと速く。
そして、その時は訪れる。
ー覚醒を開始しますー
その瞬間、溢れ出す力に身を任せる。
それでも聖騎士を倒すには足りない。
ー天職『勇者』天職『魔王』を消費ー
ごっそりと何かがなくなる感覚に俺は一瞬おくれる。その隙を聖騎士に疲れて剣を持っていた右腕を持ってかれる。
再生の時間が惜しい、左手で剣を握り振るう。
ー天職の統合天職『裁きの魔王』を付与ー
その瞬間、更にごっそりと力が抜ける。次は左腕を失う。その間に再生した右腕を俺は使う。
ースキルの統合を開始ー
どんどんと力を失う感覚に俺は息を切らす。再生がなくなる。魔法が使えなくなる。剣のキレが少しだけ落ちる。スピードが下がる。魔力がなくなる。動体視力が悪くなる。
それでも、無くても使えなくてはいけない。
無理矢理、再現する。剣技も魔法も、再生も、魔力も何もかも。スキルがないからってできないものではない。スキルが無くても実行するんだ!
ー存在の開花を確認ー
ーレベルの統合…
ー天職の統合…
ー更なる覚醒…
永遠に引き延ばされたような時間の中で俺は剣を振るう。
魔法を誤る時もある。剣技が失敗する時もある。それでも弱点だらけでも負けられない。
ーさぁ、問おうー
ー君は何を望む?ー
ここで俺は初めてシステムの声を聞く。
何を望むかって?何当たり前のことを聞いてるんだ?
こんなバカげた野郎どもぶっ飛ばす力を望んでんだよ!
ーそれは誰のために?ー
誰の為でもない!自分の為だ!魔王なんて名目を使うならやってやるよ!魔王としてこいつらをぶっ飛ばすんだよ!
ーそうか、面白いー
そこから俺は再びシステム声が聞こえなくなる。
俺はただ、戦い続ける。
聖騎士をようやく捉え始める。俺は次の行動を予測し、行動を潰していく。
ースキルの統合を確認『魔導』『剣技』『裁き』『魔王』に全て統合を確認ー
一手一手潰し、最後に行き着く先が見えて来る。次の事が見えて来る。そして、決着の時が来る。
ー天職の変更を確認『勇気の魔王』ー
ーそれに伴いスキル『勇者』の再付与確認ー
ースキル『勇気ある者』を確認ー
聖騎士は俺の隙を見つける。そして、剣を振りかぶる。俺はそれを好機と見て突っ込む。おそらく、一歩でも間違えれば俺が死ぬ。
「そんなもんどうだっていい!」
剣が光を帯びる。自分の持つ力を俺は知らない。
ただ、強くなったとしか漠然としか分からない。おそらく、こうして戦ってる間にもシステムが稼働していたのだろう。
それはあくまで補助的なものだ。理解しろ。感じろ。システムのその先まで!
加速する。まるで時が…空間が立体が平面のように見える感覚。
間に合わない訳がない。
俺は剣を突き出すだけで勝てる。
聖騎士よりも速く届く!
血が俺に降りかかる。その感覚すら感じないほどに俺は集中して剣を刺したところから抉る。
この一撃で終わりにする!
剣がすんなりと通る。そして、ゆっくりとした時間の中で剣を通すように振るいあげる。
それは、聖騎士の腹から頭へ伸びる。
それを確認さと共に時間の感覚が戻っていく。
気がつけば火は消えており、雨が降っていた。
「そうだ…誰か…」
俺は僅かな希望に縋るように村中をくまなく探す。焦げて崩れ落ちた瓦礫の中…井戸の中…僅かに原型の残ってる家の中…そして、自分の家…
誰もいない。
嘘だと思いたい…願いたい。
俺は死体の一つ一つを確認する。
燃えた死体もまだ判別は可能で一人一人確認していく。
「こっちは村外れの獣人の…こっちは薬屋のおばさん…これは父さん…母…さん…」
確かにユウジの言う通り他人なのかもしれない。それでも家族だった。妹以外に気を許せる家族だった。
それなのに誰一人として生きてはいなかった。
「くそ…」
認めたくない…それでも目の前にある光景は現実だ。
涙が溢れ出て来る。確かに、ユウジの言った通り本物の親とは言えないかもしれない。
「それでも!俺にとってはもう一つ家族だったんだよ!」
妹以外に本当の意味で家族と言える存在だった。
「俺は…俺は…」
どうすれば…いいんだよ。
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