第5話 選ばれし者達?

俺達は今現在、教会に俺含めて四人集まっていた。

俺とアノウとユウジとミフユの四人である。


そして、俺たちの前には教会のお偉いさんが立っていた。


「君たちを読んだのは他でもない。

君たちは選ばれた者だから私はこうして呼ばせていただいた」


まぁ、俺は魔王だけどな…名目上は勇者だけど…。

しかし、やはりあの二人だったんだな。

俺は横にいるアノウ以外の二人を見る。


ユウジとミフユはこれで転生者の可能性が高くなった。

友好的か非友好的かはその人によるか…。

とりあえず、しばらくの間は勇者として活動をしていた方がいいな、そしてある程度までいったら『無制限隠蔽・偽装』を使って覚醒したように見せたり徐々にスキルなどの開示やレベルアップしたように見せればいいだろう。


問題は俺のことを魔王とか関係なしに邪魔だと考える人がいた場合だ。

教会側からいえばこの状況は好ましい。

実際、システムの働いている天職とは言えでも覚醒を行なっていなければただ天職が勇者の少し強い人間なのだ。

その覚醒の可能性が二人出るということは一人が魔王に殺されてももう一人が覚醒して勝つ可能性もゼロではないからだ。


逆に俺達からしてみると面白くないと思う輩も多いだろう。

あの立場に立ちたい自分が勇者だったら…。人によってはアノウのとなりに立つに相応しいのは自分だと言う人間も出てくるだろう。

あとは魔王側の天職の持ち主くらいかな?


おっと、考え過ぎた。

話を聞かないと。


「君達は選ばれた天職の持ち主なのです」


「そうなのか?あまり実感はないが…」


俺はワザととぼけたように言う。


「何か勇者と言ってもしっくりこないのだけど…」


アノウも俺の後ろに下がり不安そうにつぶやく。

逆に二人は冷静に聞いている。

やはり、二人は転生者の可能性が高いな…。


「はい、実感は持てないと思います。

あなた方の称号には『選ばれし者』があります。

それは来たる大いなる覚醒の為の称号…。

あなた方はその天職に応じた覚醒を起こし、魔王を倒す力を手に入れることができるのです」


なるほどな、あながち間違いではない。

ただ一つを除いてな…。

天職に応じた覚醒ではなく、システムに応じた覚醒である。

それは天職に勇者があるからって勇者の覚醒が行われるわけではない。

システムが稼働している勇者の天職ならばその覚醒は行われる。


要するに、俺は勇者の覚醒が起こることがないのだ。


「しかし、選ばれた者と言えでも油断は禁物です。

魔王もまた然り、選ばれた者なのですから」


「ちょっと待ってくれ」


俺はその言葉を言われた瞬間に声を上げる。


「何ですかな?」


「魔王も選ばれた者ってどういうことなんですか?」


俺の質問は簡単だ。

それに聞かなくてもそんなもの分かる。

しかし、これはここで今、聞くことに意味があるのだ。

自分が魔王であるという疑いを少しでも逸らさなくてはならないのだ。


「これは神が我々にお与えになった試練だからです」


俺は瞬間、目を見開いた。

あまりにも的を射た答えに驚きを隠せなかったのだ。

いや、でもよくよく考えれば当然だ。

この世界での神の見方を考えれば敵でも無く味方でも無く、ある程度の条件さえ揃えば圧倒的な力で味方してくれる。

それが神なのだ。


「いや、おかしいだろ!

要するに俺達は神の遊戯に参加させられたということだろう?」


「いいえ、確かにそう見えます。

しかし、これは私達人間が生きるのに必要なことなのです。

そして、もしあなた方の中から魔王を倒したのなら私から何でも渡しましょう。

そして、神からはたった一つ願いを叶えさせてくれるでしょう」


嘘…じゃない?

おかしい、なぜここまでの事情を…。


俺は不思議に思い鑑定をした。


ーーーーーーーーー

名前

職業:採点者、審判、采配者

スキル

称号

神造物

意思無き者

採点者

代弁者

ーーーーーーーーー


なんだこれ名前が空白でレベルが無い?

そして、神造物で代弁者…間違いない…敵対してはいけない相手だ。


「これ以上はありませんか?

一度、報告などもしますのでどうぞ教会に泊まってください。私から言っておきます。

そして、ノギ君はここに一度残ってもらいたい」


どうやら俺が鑑定を使ったことがバレたようだな…。


「わかりました。アノウ、話が終わったら戻るから気にするな」


「う、うん」


俺はアノウたちが出ていくのをそうして見送った。

そして、入口が閉まった瞬間、俺は全力で警戒をする。


「そう、警戒しないでください。

魔王ノギ殿」


「っ!」


「あなたが先ほど鑑定した通り私は代弁者です。

気がつかない訳ありません。そして、私はこのプログラムに決して介入しないことを誓います。

あくまで私は審判としているのですから」


「介入は…しないのか?」


俺は警戒を解きながら問う。


「はい、私はあくまで調整者でもあります。

そして、魔王が発覚するこの日に私は魔王というプログラムが刻まれている人間にある程度の情報を与えるのです」


「情報はプログラムにあるんじゃないのか?」


「いいえ、それはあくまで基礎知識にすぎません。

今から与えるのは中立のプログラムの情報です」


「中立のプログラムだと?」


「はい、敵が味方かはその時々に変わる人達のことです。

今からそれぞれの中立の現在の方針だけを教えます」


そう言って俺の頭に手を当てると一気に情報が入ってくる。

その情報は主に中立とされている天職のある程度の情報である。


「…これは」


「3秒ですか…情報の処理は今までの魔王の中では一番ですか」


少し前なら俺はこの言葉の意味が分からなかっただろう。

しかし、今なら分かる。

プログラムやシステムというのは打ち込んだから使える訳ではない。

それ相応の頭と魂などの波長や高さなどが必要なのである。


要するに根号の分数を使った計算で10桁の基本的な和差積商までしか出来ない電卓に計算を行わせるのとそれに加えて自乗、分数、根号の計算などの高度な計算ができる電卓に行わせるのでは明らかな違いがあるだろう。


前者の電卓でもやり方次第でな出来なくない計算だが、後者の電卓と比べると時間がかかる。

他の例としてはパソコンのスペックなどの違いだろう。


まぁ、例をあげたらキリがないがおそらく魔王や勇者、その他のシステムやプログラムの組み込みはそれを見てそれぞれの役割を決めていたのだろう。


「この情報を見せたということは仲間を集めろということか?」


俺は今、頭の中を駆け巡っている情報を整理しながら聞く。


「はい、そうなりますね。

中立の人達は魔王側に付くか勇者側に付くか決めずに第三勢力となることもあるので狂わないように出来るだけ多くの人を取り込んでもらいたいですね」


「ここまで話してもあんたらは大丈夫なのか?」


俺がそう聞くと少しだけ意地悪そうな笑みを浮かべられた。


「あくまでこれも調整ですよ」


そう言って奥へ去って行った。

ここまで聞いただけの話だとあくまで平等に魔王も勇者もあるようにしているようだ。


「とりあえず、俺が取り込むのは獣天のミフユかな?」


俺は頭の中の整理を行っていた。

世界統一するにはある程度の協力者は絶対必要である。


その為には最初のうちは隠れてやり過ごすのが適切だろう。

まぁ、それでももしものことがあるのでそれとなく準備はしておこう。


しかしながら…選ばれしものか…。


その言葉がどれだけ空っぽなのか今の俺にはよくわかる。

なぜなら、才能がないと選ばれないのに…選ばれしではないだろう。



そう、俺のようなプログラムやシステムが働いているものは才能を持つだけの魂の器を持っている。

実際、転生特典とか抜かしたあのスキル選択も普通の人間ならあんなに取ることなんてできない。


神は言っていた。

魔王と勇者が特別だと…しかし、それと同時にそれになる素質を持つ人間も特殊なのだ。


「はぁ、意外と厄介なのに巻き込まれたな…。

昔は天才と呼ばれていたが今はそんな頭を持っていないから辛いな」


俺は状況の整理と共に前世と今の自分の違いを考えていた。

そこで分かったのは朱莉偽 乃木という男の才能は頭と運動神経に回るだけの魂のスペックがあったらしい。


最悪だ…要らない要らないと思ってきた才能によって現状があり、それを楽しもうとしている自分がムカつく。

今をのうのうと生きる価値など実は無いのにそれを誤魔化して生きている自分がいる。


「この自傷癖も直さないとな…。

俺は朱莉偽 乃木じゃない…だから関係ない」


俺はそう考えて今は抑える。

それでもイラつきは収まらない。

理由は明確だ。

プログラムなどを知り過ぎたせいで自分がここにいる理由が才能だったと知ってしまったからだ。


俺は少し自分を落ち着けてからアノウ達の後を追った。



**


「ノギ!」


俺が来客用に用意された場所に行くといきなり俺に抱きつく奴がいた。

もちろん、アノウである。


ここは俺の部屋というわけではなく純粋なロビーみたいな所だった。

故にアノウは俺が来るのをこの部屋でずっと待っていたのだ。


「ほら、離れる。

後で相手をしてやるから荷物とかをとりあえず部屋に置かせろ」


「うん、わかった」


素直にアノウは俺から離れる。

俺は珍しいと思いつつ部屋を近くにいた神官に聞いて向かう。


そして、部屋に入ると綺麗な部屋だった。

ベッドがあり、椅子やテーブルなどが揃っていた。


「へぇ、私の部屋と同じだ」


「アノウ、なんでここにいる?」


横から飛び出して来るアノウに呆れながら聞くがむしろ、こっちがなんでという表情をされて気が抜けてしまう。


「そういえば、ラミナとレンナはどうだったんだろうな?」


俺としてはあまり気にしていなかったが、ふと気になりアノウに聞いてみてしまった。


「え?知らないけど…」


そう、聞いてしまったのだ。

アノウに聞いてもろくな答えが返ってこないと分かっていたはずなのにだ。


「今から会いに行くか…」


「うん!」


俺は荷物を置いてラミナとレンナを探しに行く。



**



「お、二人ともどうだった?」


俺は教会に出て、辺りを見回すとすぐに二人の姿を見つけた。


「へ?

あ、ノギ君…いや、ノギ様?」


「そ、そうだね。

ノギ様に…アノウちゃ…様…どうかしたのですか?」


どうやら、二人とも俺たちの結果を知っているようでどこがよそよそしかった。

ふと、俺は前世で世話したばかりの頃の妹を思い出した。

だからだろうか?


「今更なんだよ。

前までの無遠慮さはどこ行ったんだ?」


俺は二人の頬をつねっていた。

そして、伸ばし縮して縦横に動かす。

そして、俺が手を離すと…。


「「す、すいません。

私達何か失礼なことを…」」


二人の目は怖がっていた。

怯えていた。


「あぁ、したな!

一番ムカつくことを…」


俺は気がつけば高校の頃に浴びた視線を思い出す。

異物を見る目…手の届かない人を見る目…まるで自分だけが違う生物のような空気…。

気付けば俺は歯ぎしりをしながら言っていた。


「の、ノギ?

ど、どうしたのそんなに怒って…」


アノウは急に怒り出した俺に対して戸惑っているようだ。

しかし、今は何故かアノウを気にするようなことをしなかった。


「お前達もなのか?

なぁ、やめてくれよ…俺はノギだ。

勇者だって?

違うだろ…俺はお前達の相談役兼友人のノギだぞ?

それとも何か?

お前達はそれをやめて一市民と勇者ノギの関係がいいのか?」


何故だろう…なんで今日はこんなに感情を揺らされるのだろう。

ここ十二年間意識的に思い出さなかった前世の記憶がさっきから思い出したばかりだ。


「え…ノギ君?」


「ど、どうして?」


二人は俺をみて戸惑っていた。

気付けば俺は涙を流していたからだろう。


「なぁ、答えてくれ…お前達も勇者という括りで俺の目の前から去るのか?

お前達はアノウと仲良くしたいと言ってただろ?

あれは嘘なのか」


俺の言葉は卑怯だ。

それでも…

二人は一瞬だけ目を見開いた。

まるで何かに気付いたかのように…


「違う…よ。

だって、ノギ君ともアノウちゃんとも仲良くしたいもん一緒にいたいもん…」


「そうだよ、私もラミナと同じだよ。

でも、私達は平凡な魔術師でノギ君達は勇者だもん…」


二人は気付けば泣きながらそう言っていた。

時折、嗚咽を漏らしてギュッと俺の裾を握ってくる。


俺は嫌いだ。

選ばれたとか選ばれていないとかで隔たりが生まれることが…。

かつてそれによって孤立していた記憶がある俺にとってはそれがいかに残酷なのかよく分かる。


「なら、また始めようぜ。

今度は同じ村のじゃない。

凡人と勇者の友人としてよ…例え道が別れても俺たちは他人じゃないだろ?」


「「うん!」」


そうして、俺は何とか二人との仲を保つことができたのだが…。

アノウだけは何のことがよくわかっていない様子だった。

というか、途中からついて行けずにいじけていて三人で何とか機嫌を取ったのはまた別の話だったりもする。


しかし、俺は気付いていなかった。


もう既に一人の人間が動いていることに…。




**



空中に本棚や机、ありとあらゆるものが浮かぶ中、一人重力を感じるように寝そべって本を読んでいる薄い青色の髪をした少女がいた。


「相変わらず不気味ですな」


「…」


一人の男がその部屋の中に入りその様子を見て呟く。

しかし、少女は気にする様子も無く本をめくる。

そして、読み終えたのか本を閉じて無造作に投げる。

すると、本は本棚の空きへと向かっていき綺麗に入る。


すると、少女は手招きするように手を動かす。

それと共に一冊の本が勝手に本から出てきて少女はそれに手を取る。


「それにしても流石というべきですな…いやはや、どんな魔法を使ってるのか全く…」


「うるさい…無駄話は辞めて要件だけを言って」


少女は男の言葉を遮って自分の要望を突きつける。

一瞬、男の顔を歪めるがどうすることもできないと思ったのか男は平静を取り繕って話し出す。


「どうやら、勇者が二人出たそうです。

両者共に『選ばれし者』ですが、どうしますか?

今代、賢者様」


それを聞いて賢者と呼ばれた少女は初めて笑う。


「そう、なら一人は魔王ね。

この私に頭で勝負しようとは面白いわ」


あっという間に正解を導き出して少女は本を閉じた。

その目には確かな期待が宿っていた。

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