第2話 朱莉偽 乃木という男の人生

 俺は目を覚ます前に一つ昔話、朱莉偽 乃木という男、即ち元俺の話をしよう。


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 俺は世界がつまらなかった。

 どうしようもなく…。

 面白いものが好きだった俺はひたすらそれを求めて色々なことをした。

 結果としてはつまらなかった。

 俺は空前絶後と言っても誇張ではないレベルの天才だった。

 どんな数式だって、パッと思い付く。

 やはり、つまらない。

 色々なスポーツをした。

 しかし、アスリートなど程では無いが高成績を残してしまう。

 これもつまらない。

 何か面白いものが無いかと色んなことをした。

 高校生ながらにして会社を興したが、すぐに社長を辞退。

 理由は簡単だったから。

 人との交渉や商品開発は上手くいった。

 行き過ぎたのだ。

 ならば、と思い下働きになるが簡単にこなせてしまう。

 逆に手持ち無沙汰になってつまらなくなる。

 だから、次は間接的に死ぬ方法を考えた。


 逆恨みさせるようなことをしたが、途中で冷静になられて死ぬことは出来ず。

 御老人を助けて崖から転落するが、何の後遺症も無く生き残る。

 俺の考案した医療機関によって助けられてしまうことも大半だった。


 そこからは俺は引き篭もりネットを漁り始めた。

 その時にネット小説にハマった。

 中でも異世界ものはかなりハマった。

 なぜなら、自分の知らない常識や知識がそこにはある気がしたしから。

 そして、数年が経ち親は死んでしまった。

 子供の俺と妹を残して…。

 俺はそれから6つ下の高1にの妹の世話をした。

 最初の頃は世話なんていらないと言っていたが、少しずつ慣れてきたのか、うけいれてくれるようになった。

 俺も妹という存在が生きる意味となっていた。

 何もかもがつまらない中で、妹だけが俺の唯一の喜怒哀楽を表せさせてくれる相手だった。

 それかというものの俺は自分で興した会社に向かい通い、ありとあらゆる仕事をした。

 少しでも多く儲けて妹を楽させたいと思い働いた。


 しかし、それも長くは続かなかった。

 妹が横断歩道を歩いている時だった。

 明らかにスピード違反の車が妹に突っ込んできたのだ。

 俺は最大限の身体能力を生かして妹を押し飛ばした。


「兄さん、何を…」


 自体を理解した妹の目には絶望の表情が浮かんでいた。

 目の前だったのだ。

 もう既に車が俺を撥ねとばす瞬間だったのだ。


 バンッ


 と撥ねられた音が盛大に響く。

 俺吹き飛ばされて倒れる。

 どうやら頭を打ったようで意識がハッキリとしない。


「兄さん、しっかりして!」


 妹が心配そうに叫ぶ。

 俺にはその声が子守歌みたいだ。

 妹は俺の好みドストライクというわけでは無い。

 でも、妹はたしかに誰よりも大切な存在なのだ。

 妹が俺のここまで生きた意味なのだ。

 本来なら未だに人生や才能を無駄にするか、死のうとするかの二択しか無い。

 でも、今なら様々なものを残した。

 たとえ、俺がいなくなっても何とかなる。

 会社も、妹も…。

 でも、やっぱり心配だ。

 そんな顔するなよ。

 逝き難くなるだろ?

 俺はもう疲れたよ。

 人生にさ、でもな悪くなかったんだ。

 最後の最後でお前と過ごした、そして、大切にしてきた時間は悪くなかったんだ…。

 だから、最後に言わせてくれ。


「ありがとうな、乃亜…」


 そうしてゆっくりと瞼を閉じる。


「兄さん!兄さん!お兄ちゃん!ねぇ、起きて!

 死なないで!お礼を言うのは…」


 声少しずつ遠く…遠く。

 泣き叫んでいる声が聞こえる。

 乃亜、最後までこんな俺を兄と慕ってくれてありがとう。

 だから俺は嘘ついた。

 俺は本当はもっと生きていたかった。

 後悔も未練もたらたらだ。

 でも、あの世に逝って乃亜待つのも悪く無いと思えたんだ。

 だから俺は安心して死ねた。

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