第22話

「え、でも、レン様、人探しは……?」


 取りあえず、落ち着こう。

 有名人のレン様と一緒にダンジョンだなんて、かのん頼んでないのに、レン様がどうしてもってー。

 かのん、困っちゃいます……。

 とか、言う素材に喜んで飛びついて、自慢してた昔の私の居場所は何処にもない。

 逆にいまの状況では、レン様の足手まといもいい処で、仲良くなる打診をしたところで、絶対にマイナスな印象になるのは否めないじゃん。

 でも、レン様がどうしてもって……。

 レン様がどうしてもって、かのんの事、好きって事……?

 いやいや、嫁いるって言ってたし。

 何よりも、甘い言葉に飛び込んで、色々と痛い目見たでしょ!? 私っ!

 人の好意に恋愛絡めていい思い、したことないじゃんっ! もう、十分に学習済みでしょっ!

 

 ここは、断るが絶対吉っ!

 

「待ってるだけだし、暇だからいいよ」

「待ち合わせしているんですか?」


 ポチと言う人物といい、喜介といい、今日の人犬族は人を待たせる様だ。

 またったくもって、何様だ。犬様め。

 

「いや、待ち伏せって言う方が正しいな。で、かのんは何探しているの?」

「あ、いえ、自分で……」

「モンスター一匹倒せれないのに?」


 仰る通りでございます。

 ぐうの音もでない正論まさか、直球でぶつけられるとは……。

 何だろう。レベル高い人って、どうしてこうハキハキ物を言ってしまうのか。

 レベルが上がるにつれ、察するとか、出来なくなるのかな……。

 しかし、そう言われると余計に言いにくい、私の探し物。

 でも、言わなきゃ言わないで、先に進める事は出来なさそうだし……。

 

「氷の、月です……」

「ボスドロップの?」

「はい……」


 それこそ、モンスター一匹倒せれないのに? で、ある。

 自分でも十分に分かっている回答だ。

 しかし、レン様の口から出たのは、予想もしない言葉。

 

「いいよ。ボスを一緒に狩ろう。ここで出てこない可能性もあるし、ちょっと勉強して帰ろうか」


 え。弱いからだとか、お前じゃ無理だとかじゃないの?


「え? 勉強?」


 勉強って、何?


「このゲーム、別にレベルが強い奴が強いって訳じゃないからね。勿論、攻撃力とかは違うけど、弱くても戦えるんだ。歩きながら、話そうか」

「あ、はい」


 え。レベルが強い人は無条件に強いんじゃないの?

 だって、それがゲームじゃないの?

 

「かのんの職種は?」

「闘拳士です」

「猫で闘拳……? ……ああ。成程、だからか」


 レン様、そのああって何!? と、思わず問い詰めたくもなるが、理由は聞かなくても悲しかな分かってしまう。

 レン様も頭悪い組み合わせって思ってるんだ……。

 まあ、散々言われて来たし、猫人族と闘拳士の組み合わせは、虎女の言う通り相性が悪いんだろうな。

 

「じ、自分でも、頭の悪い組み合わせだって……」

「いいんじゃない?」

「え?」


 あれ? 否定されない。

 

「闘拳士もハンマーも、近接、中距離物理攻撃の職種は、レベルよりもプレイヤースキルが重要。と、言ってもどの職種も上に上がるほど、プレイヤースキルの方が直接的な強さに繋がってる」

「はあ……」

「例えば、攻撃力が高くてもモンスターに倒される奴と、攻撃力が低くて狩る時間が長くなるが必ず倒せる奴、どっちが強いと思う?」

「え」


 んー……。

 ちょっと難しい問いかけだな。

 攻撃力が強い方が強いって感じちゃうよね。普通。

 でも、態々質問にしたって事は、それは違うと言う事だと私は思う。

 でも、後者の強さの意味が私には理解が出来ない。

 だから、簡単に攻撃力が低い方だなんて言えないの。

 

「時間切れ」

「えっ!?」


 タイムリミットがあるクイズなの!? これっ!

 

「正解は、後者の攻撃力が弱い奴」

「あの、何でですか?」

「強い方だと思った?」

「……はい。でも、クイズだから、違うんだろうなって。でも、後者が強いと言う意味が私には理解できなくて」

「ちゃんと考えてるね。弱い方が強いってのは語弊があるけど、ゲームで大切なのは、結果だから」

「結果?」

「そう。ゲーム程、過程なんてもんを必要としないものはないと俺は思ってる」


 過程……。

 

「頑張ったとか、強くなるためにこれ程、努力したとか、どうでもいいんだよ。勝って、何かを手にする方が大事」


 何かを手にする……。

 そうか。

 

「いくら強くても、倒せれずに負けたら何も意味がないって事か……」


 攻撃力が強くても、レベルが上でも。

 相手を必ず倒す方が強い。

 倒さなければ、何も得れない。

 報酬も、経験値も。何もかも。

 それについて、どれだけ努力したとか、確かに意味がない。勝つ事が必要となるだけであって、過程はどうでもいいんだ。

 

「そう。大切なのは、倒されない事」


 レン様は前を見ながら、答えを私に教えてくれる。

 この人は、このゲームでも上位にランクインするほどの強さを持ってる。

 古参と呼ばれ、このゲームが出来た当初からプレイヤーとしている人。

 レベルだってもちろんカンスト済み。

 誰が前に立ったって、すぐにレン様だと分かるぐらいの有名人。

 この位置に立つのに、どれぐらいの時間と労力を、いや。『努力』をして来たのだろうか。

 なのに、この人自身はその努力を『必要』としないものだと、はっきりと言ってしまえるのだろうか。

 

「勿論、攻撃力が強ければ、倒せれる確率はその分だけ上がる。HPは無限じゃない。こっちも、相手も。削れる量が多ければ、多いほど戦闘時間の短縮にはなる。戦闘時間が短ければ、倒される確率も下がる。でも、倒されていたんでは、意味もないし偶然勝ったは強さじゃない」

「ちょっとだけ、わかります」


 私は弱いけど。

 その理屈だけは、よくわかる。

 強さは偶然じゃない。倒さる強さなんてない。少なくとも、このゲームの中では。

 

「ポチより賢い」

「え?」

「いや、ポチはそれを何度言っても、理解しないからな」


 嘘でしょ!?

 これだけ、分かりやすいのに。

 

「力こそ、強さって奴なんだよ」

「あー……」


 いたなぁ。喜介って駄犬もそうだった。

 犬って、そう言うタイプの人が選ぶ種族なんだろうか。

 

「でも、そう思うの、わかります」

「ん?」

「相手に攻撃決まった時、何ていう言うんだろ? 気持ちいいって言うか、別にすっきりするとかじゃなくて、今、自分が攻撃入れれたって気持ちが、こう、ぶわって……」


 言葉にするのは、難しい。

 ただ、私は、喜介の姿を羨ましいと感じた。

 あのゴーレムの正面に立って、攻撃を入れる喜介の姿を。

 あそこに立てたら。あの攻撃を入れたら。

 想像するだけで、胸が高鳴る。

 だって、それが、強さの証じゃない。

 相手よりも、強いからこそ。

 

「そん事ないよ」

「え?」


 ま、そうだよね。

 そっちは強くないって言ってるし、それは否定されるよね。

 ただ、今まで肯定して貰ってばかりだから驚いちゃっただけだし。

 

「敵に強い攻撃を入れたら、気持ちいいとか」


 そこまで、はっきり言わなくても……。

 

「そんなもんよりも、敵を倒した後の方が何倍も気持ちいいから。そこで満足するのは少し早いよ」


 レン様が私の顔を見る。

 それは、私がゴーレムを倒した時と同じような顔だったかもしれない。

 ああ――。

 

「えぇ。知ってます」


 今なら、胸を張って言える。

 あの、勝利の味を。

 あの景色を。

 あの気持ちを。

 

「私も、体験しましたから!」


 強さって、こう言う事なのかと、何かが自分の中でストンと落ちた気がした。

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