第14話

 と言っても。わざわざダンジョンに入ったのだからボスぐらいは倒しておきたい。

 ジャスロガン狩はその後でもいいでしょ。

 周りには強い人はいないし。

 周りを見たら、レベルが一桁の冒険者しかいないのだから、当たり前だ。


 強い者しか見えない世界、味わいたくない?


 虎女の言葉を再び思い出す。

 味わえるものなら、味わいたいに決まってる。

 今は、最弱だけど。

 最弱のボス相手にだけど。

 弱くて指を指されるだけの私には、こんな世界に来てまでも、もう戻りたくない。


 回復薬を飲み終わり、私はこのダンジョンの更に奥へと進む。

 大抵の雑魚は倒して来たけど、ボスって言うぐらいだし、少しぐらいは強いよね?

 アイテムショートカットの回復薬はまだストックがあるけども、足りるか足りないかは未知だ。

 ドキドキと音を大きくする心臓を深呼吸で冷まさせる。

 初心者でもないレベルだし、HPは満タン。行くしかないっ!


「よしっ! 行くよ! かのん!!」


 私は、ボスのいるダンジョンの一番奥にある暗い洞窟の中に入った。大きく描かれた薄紫色に光る魔法陣。

 その中心に、岩で出来た大男の像がある。


「これが、ゴーレム?」


 いつ動き出しても良いように、極力ゴーレムから離れているが……。


「動かない……」


 何これ、バグ?

 恐る恐る相手の視界に入ったり、周りをウロウロするが、攻撃されるどころが、動き出す様子もない。

 え、何で?

 基本的に、モンスターの視界に入ればターゲットに切り替わるはずなのに。

 何だろ? 他のモンスターと違うのかな? ボスだし。

 でも、今迄連れていかれたダンジョンのボスでも、こんな事はなかった。


 もしかして、起動させるイベントやアイテムが何処かにあったり……?

 私、見落としてるとか。

 全エリアを通って来てたけど、何処かでミスったかも。

 人が多いエリアだと、それ程動けなかったし、そこに何か秘密が?


 急いでマップを広げていると、遠くから声がする。

 何だろ? 叫び声?

 周りを用心深く見渡していると、急に洞窟の入り口が光り……。


「おりゃぁあぁっ!!」


 遠くで聞こえていた叫び声の主が転がり込んで来た。

 え? 誰!? イベント始まったとか!?

 でも、NPCじゃなさそうだけどな。

 て言うか、人犬族の男の子? 垂れ耳にクルンとした尻尾を持ってる所を見れば、PC、プレイヤーキャラクターだ。

 しかも、装備ダサい。何その中途半端な甲冑?擬き。

 着てる人の神経を疑いたくなってくる。

 初心者だから手に入れたもの手当たり次第に付けるとか、分からなくもないけど、カッコ悪いと私は思うの。

 一式揃えてから装備すればいいのに。

 私が、ジロジロと転がり込んで来た犬を見ていると、彼は急に顔を上げて、立ち上がる。


「やったー! 俺が一番乗りだ!!」


 はぁ?

 ちょっと、何こいつ!


「ま、俺の実力を持ってすれば、楽勝だしな! さーて」


 そう言うと、彼は背中から大剣を抜く。

 ちょ、ちょっと待って!?

 職種と言うことは、こいつ、私と一緒でレベル15以上!

 ルーキーじゃないじゃない!!

 私が、倒す計画が!


「待って!」


 犬男が、大剣を手にゴーレムに向かって走り出す所を、思わず大声を上げて追いかけた。

 ここまで来て、冗談じゃないわよ!

 こいつ、行成出て来て、横取りする気!?


「へ?」


 犬男が振り返った瞬間、私は彼の服を掴む。

 おっしゃー!

 捕まえたー!!

 しかし、そんな声を上げる前に……。


『愚かなる侵入者達よーー』


 え?

 画面が薄暗くなって、中央に文字って……。

 何かイベント始まっちゃったー!?


「すげぇ、映画見たいだ!」


 ヘッドホンからは、ゴゴゴと言う効果音に混じって、何とも能天気な声が聞こえてくる。

 本気かよ。おい。

 何、その感想。


『貴様らが真理に近づけるかどうか、今試させて頂くーー』


 隣の犬男に気を取られていたら、どうやらイベントムービーは終わったらしく、決定ボタンの催促が出ている。

 しまった。何も聞いてなかった……。

 ムービーだし、ストーリーに関係ある部分だけのはず。

 取り敢えず、決定ボタンを押して……。

 あれ? 押したのに、中々進まないんだねど。

 あれ? ボタン押せてるよね?

 

「あれ? 動かねー。パソコン壊れた」


 あ、こいつのせいだわ。

 

「す、すみません、あの、決定ボタン押してもらっていいですかぁ?」

「え? 人いんの?」

「はいー。お兄さんが入ってくる前から、あの部屋にいたんですよぉー」

「え? マジで!? なんだよー、俺一番じゃないじゃん」


 知るか。あんたが勝手に間違えて騒いでたんでしょう!

 早くボタン押せよ!


「あのぉー、決定ボタンをー……」

「押す押すー。それにしても、何でそんなに鼻声なの? 風邪引いてんの?」


 こ、この野郎ー!!

 人が気にしてる所に土足で!!


「ひ、引いてないですよぉ」

「あ、決定ボタンってこれ?」


 聞けよ!

 本当に、なんなの? こいつ!

 意味わかんないんだけど!

 いや、意味が分からないのは今の状況だ。

 イベントムービーって、基本パーティ全員に流れるよね?

 私はソロの筈なのに、私と同じムービーをこの犬男も見てるって、どう言うことなの?

 普通では、あり得ないことが、今、起こってるってこと?


 私はその理由を、漸く動き出した画面で知る事となる。

 ムービーが終わった後に表示されたのは、ビギナー向けのボス戦への説明だ。

 ここの場面が狙い時ですよ! とか、カーソルは外れないようにロックしよう!とか。

 雑魚倒してたら分かることのおさらいって感じ。

 でも、そんな見慣れた中に、自分の目を疑うような説明が一つ。


『 ゴーレム起動時に魔法陣の中にいる仲間を強制パーティと致します。

 また、ゴーレムはパーティメンバーの平均レベルに設定される為、レベルが低い仲間を守りながら戦いましょう!』


 は、はぁー!?

 何この、地獄の仕様!!

 それに、レベルって! ゴーレムのレベル、変動するの!?

 あ、でも、待って? パーティの平均なら、自分より上にはならないし、あの発言、ムービーあまり見た事なさそうな犬男、レベルは一桁前半……。

 私のレベルが、25だとしても、15レベル前後なら何とか勝てる!

 20レベル以上だと、怪しいくなってくるけど……。

 これなら、何とか。

 さて、私はこの時点である事をすっかり忘れているのを、気付きだろうか?

 そう。ビギナーは、レベルが15以上にならなければ、片手剣しか装備できないと言うこと!


 画面がまた切り替わり、バトル用のBGMが流れてくる。

 かのんをコントロール出来るし、始まったんだ。

 えっと、まずは……。


「おっしゃー! 漸くバトルだー!」

「あのぉ」

「お前、ここで見てればいいよ。俺、こん奴よりも、めっちゃ強い奴、一杯倒してるから!」

「え、でも……、お兄さんレベル……」


 低いでしょ?

 そう続けようとした瞬間、ゴーレムの腕が犬男を吹き飛ばす。


「……え?」


 ちょっと待って!?

 犬男を見れば、HPが半分以下になってるじゃないか!

 いや、それよりも……。

 多分あの攻撃、私が受けてもHPが悲惨な事になりそうな予感が……。

 いや、でも、レベル低い筈だし!

 レベル15なら、何とか倒せる!

 ここの雑魚が平均5レベルだったし!

 強気で行け、かのん!


 そう心の中で叫びながら闘拳士かのんがパンチを繰り出す。

 ダメージは、三十前後。

 ボスは多少硬いし、何よりもレベルが低ければ、このダメージでもHPはガンガン削れて……。


「は?」


 そう思って、敵のHPバーを見れば全然減ってない。

 透明になってる所、何処!? のレベル。

 現に、ゴーレムは元気に腕を振り上げている。

 ちょっと待って?

 何か……。


「おかしくない!?」


 攻撃音と共に、視界が周り気づいたら犬男のいる壁側へと飛ばされていた。

 あ、攻撃、直撃したんだ。私。

 ううっ。吹き飛ばされるって何だよ。

 それより、HPは……。

 私は今日一番の目を疑う事となる。


「え!? じ、十って何!?」


 残りのHPの数字を読み上げ、私は思わず回復薬を使った。

 あり得ない。

 どう言う事なの?

 幾ら何でも、おかし過ぎる。


 この、ゴーレム、強すぎじゃない!?

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