第6話
お金を錬成する方法って知ってる?
ネットゲームの中ではお姫様だけど、リアルはただの女子高生である私は、それぐらいの、常識ぐらい知っている。
では、どうするか。
簡単だ。
「そうだっ! 要らないアイテムや装備、売ればいいんだっ!」
結局の所、貢がれても使っているものは数が少ない。
回復系のアイテムは、今後もあのオリオンに出向く際に理不尽だけどお世話になるから、売れないけど……。
使わないアイテムや装備なら床に散らばっているぐらいあるんだった。
そう、散らばったアイテムやら装備に足を取られて転んだ私は、漸く彼らの存在意義に気付いたのだ。
「何、このアイテム。よくわかんない。売っちゃえ」
何この『七つの光』ってアイテム。特定の敵ボスのドロップ率を上げる? 要らないわ。
何この『聖三人姉妹』ってアイテム。必ず敵の行動を遅らせる事が出来る? 要らない、要らない。
何この『ゴス・ペクト』ってアイテム……。
よく効果の分からないアイテムは手あたり次第、ショップに売るボックスに入れて行く。
持ってたところで、使わなきゃただのゴミだし。
使う予定もないし。
これだけ必死にお金集めてるなら、使う予定が出来るわけないし。
迷うぐらいなら売ってやるっ! が、信条である。
それに、これは思い出を捨てる意味を込めていた。
どんな気持ちで、私にこれ程多くのアイテムを皆くれて居たんだろうか。見下していたから、可哀そうだから?
そんな事を考えたくもなかった。
人の心を想像するなんて、不毛だと、知っているからこそ、これはいい機会だと私は手を動かす。
このゲームを続けて行くんだ。
過去を恨むのに清算しようだなんて、おかしな話だけど。一人で歩くために。一人で歩けなかった自分との決別をしようとしていた。これは、ある意味決意の証なのかもしれなかった。
「これぐらい売れば、百万なんてすぐかもー」
こればっかりは、姫をやっててよかったと、今の時点で思うかも。
極限までアイテムが入った売る用ボックスを手に、私は町のアイテムショップに行く。
入るのは勿論、初めて。
売った事は勿論、買ったことなんてある筈がない。
少なくとも、五十万リゴンぐらい。多くて、八十万リゴンぐらい。
結構、目利きはある方で、テレビのお宝の価値当て番組では脅威の正解率叩き出してる実績がある。
私は、自信満々に店に座っているNPCに声を掛けた。
一時は絶望してたけど、今日中にクリアしちゃうかもー。
そうすれば、あの偉そうな虎女も悔しそうな顔するだろうし、村正だって、私の事を見直して、もしかしたら、あの虎女と副団変わって欲しいとか!?
私が、あのオリオンの副団になるとかー!?
いや、一日で揃えた人なんてきっと前人未到だから、きっと、団長の座も――。
私、オリオンの団長になるんだっ!
弱くても、全然問題ないじゃんっ!
必要なのは、やっぱり、可愛さだよねーっ!
そんな文字通り夢を、私はNPCの一言で砕かれる事となる。
「ありがとうございます。十五万リゴンになりますが、本当に売却しますか?」
「え?」
画面を見れば、十五万リゴンの文字。
う、嘘でしょっ!?
「全部売るって……っ!」
これ、一ページだけのペイじゃないの!?
ちゃんと、全ページで計算したの!?
しかし、詳細には、全アイテムの表記がある。
嘘っ! あれだけ売って、これだけっ!?
「如何いたしますか?」
無常に響く、NPCの声。
嘘……っ。え、だって、私は団長で、姫で……。
私は……っ!
「ありがとうございました」
私は、アイテムショップの扉を開けて重いため息を一つ。
結局、私は画面に出ているYESを押して、所持金は四十五万リゴンとなった。
たった、これっぽっち……。
氷の月、一つも買えないじゃん……。
もう一回、ルームに戻って売れるものを探して……。
いや、止めよう。
もう、売れるものなんて一つもないのは、自分が良く知っている。
とか言って、残り五十五万リゴンの当てはこれ以上ない。
どうしよう。
やっぱり、もう一回ルームで……。
とぼとぼと町を歩いていると、ふと掲示板が目に入る。
掲示板……。
それは、運営もプレイヤーも書き込める瓦版と言ったところだろうか。
アイテム無限回集中とか、そんなくだらない募集事も載っているのだ。
氷の月可愛い姫に二個お譲りしますとか出てないかな?
ここまでくれば、誰よりもどれよりも貪欲にならざる得ないだろうに。売るものすら残っていない極貧生活で、なりふり構っていられるわけないでしょ。
しかし、そんな都合の良い書き込みなんてなく。
分かっていたけど、落胆はしてしまう。
他は、パーティー募集、後、ギルドメンバー募集に……。
「新しいクエスト……」
あっ。
「クエストっ!」
そうだ。高額クエストクリアすれば、問題なくない!?
一回一万オーバーのクエスト。特定の条件をクリアすれば、クエストはアイテムと報酬金が支払われる制度なのだ。
これを、上手く利用すれば……。
血眼になって、私は報酬金額の高いクエストをいくつかピックアップする。
ボスを倒すとか系は無理だから、雑魚モンスターを数体狩るとか、アイテム納品!!
えっと、そうなると……。
「秋の味覚キノコ、狩り?」
一つのクエストが候補に上がる。
モンスターを倒さず、特定のイベントアイテムを数個納品するだけで……。
報酬額は!?
「三万っ!?」
割のいい仕事過ぎない!? これ!
このクエスト十八回やるだけで、五十五万リゴンが手に入るじゃんっ!
運営さん、もしかして、可哀そうな私の為に、こんなクエストを……?
やっぱり、見てる人はいるんだーっ! 本当に、人を尊重するとか、思いやるとかすると、自分に返ってくるんだーっ!
私は、早速クエスト登録所で『秋の味覚キノコ狩り』を登録すると、足早にダンジョンへの道のりを急いだ。
回復薬? 蘇生薬?
そんなもの、持ってたらキノコ多く取れないじゃんっ!
皆、かのんより頭悪いんだからっ!
一人でも、簡単にクリア出来るし。
流石に、採取ぐらい、私だって……。
そう、思っている時期が私にもありました。
「敵、滅茶苦茶いるじゃんっ!」
勿論、ダンジョンだろうと、フィールドだろうと、敵はわんさかいるわけである。
そこで、キノコ狩り?
命を懸けて、キノコ狩り……?
可笑しくないっ!?
こんな事ってある!? 騙されたっ! 私、運営に騙されたっ!
敵モンスターがうようよいるフィールドの岩陰に隠れながら、私は運営への非難の言葉を認めるのだが、これを送る前に私はこのダンジョンから脱出する方法がない。
今度こそ、八方塞がり……。
回復薬もないし、多分見た目からして、あのモンスター私より強い……っ!
何とか、隙を見て逃げ出さなきゃ。
また、一からクエスト探しなおし……? はぁ……。
ため息ばかりが口を吐く。
今回は、何のアイテムもない。
流石に、オリオンの時みたいにはいかないだろう。
「どうしよう……」
一発食らえば、即退場。
ゲームオーバーだと、クエストに払った前金が返ってこない。
つまり、勝手に三千リゴンを失うわけである。
今は、一リゴンだって無駄に出来ないと言うのに、三千って……。
痛い所の話じゃない。
どうしたら……。
そう、膝を抱えていると、私の視界に影が広がる。
えっ! まさか、モンスターに見つかった!?
「ちょっと、待っ……!」
言ったところで、待ってくれるわけがないのは分かっているが、何とかしたい一心でついつい言葉が口に吐く。
楽しようとしてすみませんでしたっ!
世間を甘く見てるかもしれなくて、すみませんでしたっ!!
心の中で何に対しての懺悔だと突っ込みたくなるぐらい、手あたり次第に謝って神頼みに縋りつこうとする。
しかし、もう駄目だと、覚悟を決めるが、一向に攻撃される気配はない。
何でだろ?
姫だからー? とか、調子のいい言葉は流石に出てこないが、何が原因で、私に攻撃がこないのか。
ゆっくり目を開けると、そこには……。
「げっ!」
思わず、思ったことが口を吐く。
な、何でアンタがこんな所にいるのよっ! 寝るから、ログアウトしたわけじゃないの!?
この、泥棒黒猫姫女っ!!
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