第2話
一体何が起きているのか、わからなかった。
決闘を承諾した後、即、ブラックアウト。
あの村正って人が、私を倒したんだなって、わかるけど……。
どうやら、一発K.O.負けしたみたい。視点合わせる暇もなく、斬られた瞬間は自分で見る事すら叶わなかった。
倒れるモーションでモニターが空を映すのところを、茫然と見ていた。
最後に、あの男が言った言葉が、ヘッドホンを通して、私の耳に入る。
『最悪。クソ、弱っ……!』
クソ弱って! クソ弱ってっ!!
最悪って!!
仕方がないじゃないか。
私は、25レベルの姫であり、戦闘なんて、スライムぐらいしかしたことないし。騎士の皆はさせてくれなかったんだしっ。
なのに行き成り、ラスボスも野良で倒せるぐらいの双剣士相手に何が出来るって言うのかっ!
馬鹿じゃないっ!?
姫に何が出来るって言うのよっ!
無理矢理、あんな事しておいて。
心底引くぐらいの声で、弱いって!
信じられないっ! だから、男は嫌いなのよっ! 暴力的過ぎる。
ゲームで強いだけのただのキモイオタクなくせにっ! 強くて何になるのよ。
レベル300って、最高レベルだし。そんな奴は絶対にニートだし。
キモっ。強さ誇示して、弱い者いじめして、最低の屑っ!
私は、強さであのゲーム楽しんでないし。
仲間と協力して、あの世界観を楽しんでいるだけだしっ。
弱いから、何だって言うの?
「……最悪」
倒された後、自分のルームに転移された『かのん』を見て、『私』はそう呟く。
皆に愛される可愛い姫の『かのん』は何も動かさないと、首を傾げてきょろきょろと首を動かす。
誰からも、慰めのチャットもメッセージもこない。
だから、男って嫌い。いつもなら、うざいぐらい来るのに。
最低だ。最悪だ。
自分勝手な人しかいないじゃないか。
私は、程なくして、ゲームを閉じた。
明日ログインしたら、源十郎太さんにタッツーと琳を厳しく罰してもらう様に言ってやろう。
あの二人は私を置いて逃げたんだ。
簡単には絶対に許してやるものか。
絶対に、絶対に……。
村正って男の事、私、絶対に許さないんだからっ!!
学校も終わり、親やお姉ちゃんが寝静まった後、私はこっそり自室のPCを起動させ、『ララ・エル』についもの様にログインをしていた。
昨日の今日でも、ログインをする健気な私。
きっと、皆心配してくれているから、怖かったと、村正のある事ない事、想像ででっち上げた事を団の皆に言いふらそうと思っていた。
性格が悪いと思われるのは心外だから言っておくけど、これは仕方がない事なんだらね。
また襲われる可能性があるんだから、徹底的に周りに守らせなければ、安心できないじゃん?
自分の身を守る術なの。
弱いんだから、仕方がないしょ?
正当防衛なんだから。
でも、その計画は、簡単に頓挫してしまうのだ。
何故なら……。
「えっ……?」
私は、フレンドを見て驚いた声を上げる。
ごっそりと、フレンドが半分以上いないのだ。
何これ?
運営のミス? バグ?
昨日といい今日といい、何なの? 最悪過ぎるっ!
私が何したって言うのよっ!
少し気になるのは、消えたフレンドの中に昨日、私を守らなかった裏切り者のタッツーと琳の両者がいる。
まさか、私が怒って源十郎太さんに告げ口する事がばれたとか……?
は? そんな姫だと思ってたって事?
違うし。反省して欲しかっただけだし、悪意はないし。
人の心って不思議なのものだ。
あれだけ、何があったか許せないと憤っていた私は、心なんて読まれる筈がないのに、思い当たる節がある途端、簡単に手の平を返す様な真似をしてしまう。
後ろめたさを、隠そうとしてしまう。
この時、私はまだ、自分の事が誰よりも力がある特別なお姫様だと思っていた。
現実は、ただの一プレイヤーに過ぎないし、力なんて、あの村正団長に言われた様にクソ弱の、ただの何処にでもいる猫人族の初心者だ。
思い出しても、馬鹿だったなと思うけど、気付けない私は、『自分は悪くない』と言う、腐った固定概念を正当化するのに必死だったのだ。
まるで、陸に上がった魚が、必死で呼吸をしようと口を必死にパクパクと動かす様に。
私は、源十郎太さんと連絡を取ろうとするが、彼はオフライン状態。
いつもは絶対にいるはずなのに、どうして今日に限って!
折角、私が、連絡取ろうしてあげてるのにっ!
埒が明かないと、私は、ルームから飛び出し、白猫姫騎士団のギルドルームに向かう。
ギルドルームとは、各ギルドに割り振られた秘密基地みたいなものなの。
街を歩いていると、いつもの様に視線が私に向かうが、今日は何処か違った。
皆、本当に見ているだけで、何も言わない。
言い表せない、不気味さを感じてしまう。
姫が一人で歩いてるから、可笑しいと思われているとか?
昨日は感じなかった不安が、あの男一人せいであふれ出てくる。
取りあえず、今は、そんな事は考えないようにして、このバグ誰がに助けてもらわなきゃっ!
当然、バグが起きているのであれば、速やかに運営に連絡した方がいいに決まっている。
この時の私にも、それぐらいの知識はあった。
だけど、人に頼る行為に日夜覚えていた自分は、その手間を誰かに委ねようと言う、腐りきった心理が働いていたのだ。
だから、私はこれから起きる事に、自分勝手に喚き散らして被害者だと決めつけ、信じられない行為に走る。
今まで払ってこなかったツケを払う事になるだなんて、そんな発想自体が出来ない程、私自身がクサっていたのだ。
ギルドルームに付くと、数人の一人の騎士がいた。
余り話た事はないけど、顔は知っている人だ。
確か、源十郎太さんの友達で、私はこの人が酷く苦手。だって、言葉少ないし、褒めても来ないんだもん。
でも、他に誰かの影はなく、ただその人一人が席に座っていた。
「……げ、源十郎太さんは……?」
バグの事を話そうかと思ったが、この人が私の為に何かしてくれそうな気配はない。
突然そんな事を言っても、この人は助けてくれないと、頭のいい私は直感で感じ取り踏みとどまったのだ。
「君か」
君かって!
姫が話しかけてるのに、その態度。
やっぱり、この人は怖い人なんだ。
余り関わりたくはないけど、選択肢は今はない。
「あの、源十郎太さんは?」
「オフラインになってるね」
そんなこと、フレンドリスト見れば分かる事だしっ!
普通、どうしたの? とか、困った事があったの? とか、そんな言葉が出で来るものじゃないの?
本当に、この人コミュ障過ぎて、怖いんだけどっ!
「あ、あの、何でオフラインなんですか?」
「さあ? 別にリアルで知り合いなわけじゃないし、用事でもあるんじゃない?」
はぁ? 意味わかんない。
何でこんな人がここの団の副団なわけ?
もっと相応しい人がいいって、源十郎太さんに言わなきゃ。
強いだけで、副団とか、絶対に可笑しいし。そんな世界不公平過ぎだし。
私の騎士には相応しくないんだし、退団させて方が絶対にいい。
「……あの、私、今……」
最後の最後ぐらい、こいつを使ってやろう。
そう、私は心に決めてバグの事を打ち明けようと口を開いた。
その瞬間、ふと、団員リストが張り出されている掲示板が目に入る。
すぅと、一つ、また一つと名前が消えて行く。
「……えっ?」
どう言う事?
ここでも、バグが起こっているの?
「オリオンの村正と戦ったらしいね」
「え、あ、はい」
初めて私に話しかけてきた声は、いつも以上に冷たさを感じる声だった。
でも、この人がこの話を振って来たって事は、私の事を心配しているって事だよね?
私の事が心配だから話しかけてきたんだよね?
だったら……。
「本当、突然で怖くて……。私、嫌って言ったのに、無理矢理……、本当に酷くて、私……」
「君が村正と戦ったから、この団がオリオンに目を付けられたと噂が流れてた。だから、皆退団していくんだよ」
「……は?」
思わず、素の声が出る。
「オリオンは古株のギルドの中でも一番古くて強いギルド。トップの村正は元より、闘技場の歴代・現チャンピオンも多く在籍している所なんだよ」
「……それぐらい、私だって……」
「じゃあ、うちみたいな弱小ギルドが目を付けられたらどうなると思う?」
「弱小って! 皆頑張って……」
「強いのは一部だけ。主に源十郎太の功績だ。その源十郎太が負けたんだぞ。まあ、オリオンに比べたら、何処も大抵は弱小ギルドになるけどな」
「でも、それは、無理矢理、あの村正って人がっ!」
「それが、目を付けられるって事なんだよっ!」
初めて聞く大声手に、私は小さく悲鳴を上げた。
「……もうこのギルドも終わりだよ。源十郎太が努力して此処まで大きくしたのに……」
「わ、私のせいじゃ……」
「お前が、弱いせいだろ」
「なっ! 何で私のせいになるのっ!? 私に悪い所なんてないでしょっ!? 決闘だって、あの男が勝手にやっただけだし、私だって被害者じゃないっ! 大体……」
突然、私より『下な人間』に噛みつかれて、この理不尽に受けて来た行為に感じた憤りが爆発した。
弱さが悪?
何言っての?
そんなもの、関係ないじゃないっ!
私が悪い? 何処が!?
私のせい? 何で!?
理不尽過ぎるし、全部全部、言いがかりだっ!!
「源十郎太さんが負けたのが悪いんでしょっ!? 私を守るって言っておいて、負けて……。弱いのが悪いのなら、源十郎太さんが一番悪いじゃんっ!!」
姫だって人間だ。
チヤホヤしておいて、行き成り、最強ギルドに目を付けられたから抜ける?
最低なのは、悪いのはそっちじゃないっ!
裏切ったのは、そっちが先じゃないっ!!
「……あんた、本当に最低だな」
目の前の男の声に、私は唇を噛む。
最低なのは、どっちよ。
「……何でそんな酷い事言うの? 私が何したって言うの……?」
「あんたが言った事全部、あんたにも言えてる事だから。源十郎太がログインする迄はこのギルドにいるつもりだったけど、あんたの為のギルドだと思うと、反吐が出る。退団するよ」
彼の姿と共に、彼の名前が、団員リストから消えた。
もう、団員リストには数人しか残っていない。
何で、こんな事に……。
そして、次の日も、次の日も、源十郎太さんがオンラインになる事はなく、私は一人で始まりの町、『マハティス』で誰かを待っていた。
私を助けてくれる誰かを。
だけど、誰一人、私の前に現れる人なんていなくて……。
もう、いいや。
何処に言っても、私の事を笑う人しかいないし。
このゲーム辞めてやる。
男なんて、皆自分勝手で最低。皆、本当に根が腐ってる奴ばっかり。
辞める前に、私は何としてでも、あの村正って男に、何か仕返しがしたい。
強くもないから勝つことは絶対に無理だけど。
あいつのギルドルームに入って、大声である事ない事叫んであいつもこのゲームを出来なくしてやる。
絶対に、してやる。
私を倒した事を後悔させてやる……。
私は一人暗く汚い決意を胸に、初めて、自分一人でフィールドに降り立ったのだった。
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