第5話
「お前ってほんと頭悪いよな……。」
「いやそれ言わないでよ。私も気にしてるんだから……。でもなんだろ、やっぱり英語はまったくわかんない。」
「ま、バカにはわからなくて当たり前。」
「……日渡君賢いもんね、前の模擬も全国1位だったって?」
「なんで知ってるんだよ……まあ、そうだよ。」
「有名だもん。よく聞くよ。」
「まじかよ……まああんな勉強出来ない馬鹿どもには噂話がお似合いだと思うわ。」
「……私、席につくね。」
最後の言葉を俺が言った瞬間、何故か彼女の表情が曇った気がした。
彼女はいつも笑顔でいたが、ただ唯一自分と話す時だけ、時々顔を曇らせることがあった。
「……なぁ、日渡ってさ、天才だけど感じ悪くね?」
「仕方ないだろ、家は大金持ちのぼっちゃんで、成績は常に1位。誰でも憧れるものなんでも持ってんだから。」
「性格はすっげぇ腹黒ってきいたけど。」
「……でも聞いたか?こないだの、c組の松橋の事件。」
「あぁ、なんか大変だったらしいじゃん。持ち物はいくつもなくなってって、ぼこぼこに殴られてたんだって?」
「そうそう、俺の友達からきいたんだけどな、」
「あいつらを唆して、やらせたの、日渡らしいぜ。」
その男子生徒同士の会話を、密かに聞いていた女子生徒が1人。
「日渡君……?どうして……。」
それは10年前の記憶だった。
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