奥越奇譚拾遺
美木間
ツチノコ
蛇は、山では食べものだった。
山でも野っぱらでも、葉っぱの下を、カサカサカサと這う音がすると、身構えた。
「アオダイショウなら恐くないが、マムシだと用心せにゃならん」とのことだった。
用心しながら、とっつかまえる。
蛇は、皮をむいてから、枝に刺して焚火であぶって食べた。
炭火で、カリカリにして食べた。
アオダイショウはまずい。
マムシはうまい。
シマヘビもうまい。
「ツチノコは捕まえられなんだで、食べたことはなかった」とのことだった。
村のもんはみんな、そういう生き物がいると知っていたそうだ。
藁をつく槌の一種の横槌に似ていることから、ヨコヅチと言った。
丸太のようにまん丸だった。
谷川の岩で、日向ぼっこしているのを、見たもんがおった。
番いの時もあった。
ごろんとした形をしていた。
祖父は、捕まえようとしたが、よう捕まえられんかったそうだ。
動くのが、ものすごく速かったのだ。
跳びかかってくるかと思って、祖父は芝刈りの鉈を構えた。
それは、向かってこずに、転がるように岩から跳びはねて、藪に隠れてしまった。
「ねずみか何か飲み込んだんじゃなかろうか」
「大きなトカゲを見間違えたんじゃなかろうか」
と言うもんもおったが、見たもんがたくさんおったので、
「ヨコヅチは、普通の蛇とは違うじゃろ」
ということになった。
幻の蛇などと言ってつちのこ騒動があった時、祖父からそうしたもんがおったという話を聞いていた父は、「どうしてあんなに騒ぐんじゃろか」と思ったそうだ。
村がダムに沈んでからは、見かけなくなったそうだ。
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