ティア~私が王城で過ごした日々~①


 ×月×日


 ついに、明日だ。


 この日記を書き終えて、明日の朝が訪れた頃にはお城から迎えの人がやってくる。そう書くとなんだかとてもロマンティックだけれども、お姫様ではない私が理由もなくお城に招かれたわけでは決してない。


 妹と同じ病を患って長い間苦しんでいらっしゃる国王様に薬草療治を施すという大役を授かったのだ。


 一年前に一度だけあのお城に訪れたことがあるけれども、正直、自分があの大きなお城で働いて、暮らしている姿は全く想像がつかない。実感がわかなさすぎて、なんだか心がふわふわしている。夢でも見ているみたいだ。


 もちろん、不安が全くないわけではない。

 この国を治めている尊いお方の大事な命をお預かりするのだから、当然だ。


 でも、ひたむきに、真摯に向き合っていけば、きっとまた奇跡を引き起こせると私は信じてる。


 暗闇に引きずり込まれそうになった時は、二年前まで寝たきりだった妹が、今では元気に学校に通っていることを思い浮かべよう。それは何よりも私を勇気づけて、温めてくれる光だ。


 正直なところ、今の私に、仕事方面での気がかりはそれほどないし、家族や友達が心配してくれるているほどは、プレッシャーにもなっていない。だって、やってみる前から失敗する未来を想像して、暗い気分になっていても仕方ないもん。


 私があのお城に着いてからやるべきことは、唯一つ。

 自分の力を信じて、できる限りのことを精一杯やりきることだけだ。


 それに……お城に行けば、またあの王子様にお会いできるかもしれない。


 冴えわたる銀の髪に、宝石よりも綺麗な紫の瞳。


 一年前にたった一度お話しただけなのに、

 私はあの美しい王子様のことを、忘れられないでいる。

 彼は、絶対に覚えていないだろうけれども。


 また、あの王子様とお話しできたりするかな……?


 ……って、いけない! もう、こんな遅い時間だ。

 明日、万が一にも寝坊してしまったら、洒落にならなさすぎる。


 早く寝て、明日に備えなきゃ。

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