私とあなたとそれから桜

炭の使い魔

私とあなたとそれから桜

────また、会おうな

少年はスウッと力が抜けその場に倒れる

その場に居た少女は何もすることが出来なかった



「…!?」

少女は飛び起きる

またあの夢を見た

桜の下であの少年が泣き力が抜ける様に倒れる夢を

私はこの結末を知っている


少年は病院に運ばれ死んだという事実


泣きそうになるあの映像を私はもう十年見続けている

あの時に死んでしまった少年は私を恨んでいるだろうか

「…やっぱり…恨んでるよね」

少女は俯いた

あの時、何もすることが出来なかった自分に責任を感じて

「もうあなたが死んで十年になるんだね…」

そして今日は少年の命日だ


─私はあなたを十年間忘れなかった

─それはあなたとの約束で

─そして私の責務


少年が死んだと聞いて泣いたあの日、少女が自身の心に刻んだ誓い


それは至極当然と思いやり遂げてきた

私の罪はそれだけの重さがある

私が自身に課した罪だとしても



少女は少年の命日には欠かさず少女の地元から電車を使い遠出し長い距離を歩いて丘の上にある桜の大樹へと向かう


そう、そこが少年の倒れた場所であり私が少年を殺した現場だった


桜の根元に墓石が一つ建っている

「………一年ぶりだね…元気に…してた?」

もう既に泣きそうになりながらも少女は語りかける

「私は…元気だよ」

無駄だと理解している

しかしまた会話が出来るんじゃないかと心のどこかで期待し言葉が止まらない

「咽、渇いた…でしょ……コー…ラ…好…きだった…よね?…今…コップにいれて……あげる…から」

コップにコーラを注ぎ墓石に置く


「…………」

少女はもう嗚咽を止めることが出来ずに泣いているだけだった



──十年前

ある春の日の夜

「へへっあの桜まで競争だよー!」

「ちょっと、待ってよぉー!」

少年は少女を連れて桜へと向かった

「ねぇ帰らないと怒られるよ…」

少女は心配した

二人は入院しており、夜になって抜け出して来たのだ

少女の考えは当然のことだった

だがやんちゃな子供はそれで終わることを知らない

「…っ、大丈夫っ…、大丈夫っ!」

少年は息切れしながらも桜へと走っていく


そして二人は桜へと辿り着く

「はぁ…よっしゃー!はぁ…俺の勝ちー!」

「はぁ…はぁっ早いよぉ」


「着いたし、まぁいいだろ?」

と少年がニッコリ笑うのを見て

「でも、私はここに来るの…最後だよ…」

少女は退院の前日だった

だから最後に入院中二人で何度も遊んだこの桜の大樹に来ることができて嬉しかった


「最後じゃねーよ!」

「えっ?」

少女は少年の言葉に驚く

「俺はお前の名前を覚えた!もう絶対忘れない!だからさ…この桜で…また、会おうな」

少女が「うん!」と返すその直前

少年は力が抜ける様にその場に倒れる


そこに看護婦が駆けつける

どうやら抜け出していたのはとうの昔にバレていたらしい

そんなことはどうでもいい


結局、少女は何もすることが出来なかった



そして少年は死んだ

後から知ったが少年の命は永くなかったらしい

少女は少年が死んだということを聞いて泣いた

一日中泣いた

まだそんなに生きてないけど生涯で一番泣いたに違いない

死にたくもなった

死んだら会えるんじゃないかと思った

少年が死んだのは私のせいだと思った


泣きながらも、死にたくもなった少女はあの桜の大樹に立っていた

未だに信じられなくて

またここで会えることを信じて


そんなことは起こるわけがない

だが少女は不思議なことに


桜の声を聞いた


─生きなさい

─生きて彼が生きていたことを心に留めなさい

─いつか会えるその時までは


まるで天命だった

だが同時に呪縛でもあった

少女は迷いなく決断し誓った


「生きる!…生きて彼を忘れない!いつか会えるその時までは!」

───

──



そして今、誓いから十年たった

今でも私は忘れていない


あれから桜の声も聞こえない

私はそれでも覚え続ける


ふわっと風が吹いた

十年前、何度も浴びた懐かしい風だ


その風は佐保姫の贈り物か

またあの懐かしい声が

私の耳を駆け抜けた


─また、会えたな!

─また、会おうな!


私の中で何かが動いた

まるで止まっていた時計がまた動き始めたように


私は無意識に笑顔だった



「うん!また、会いに来るね!」


 ─終─

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