第1話 スザンとの出会い

 その事態が起こった五月半ば。

 全国の学生が生活に充実感を感じている頃、俺は何もない平凡な日常を楽しんでいた。毎日、窓の外を見て、ボーっとしている、そんな自分が、俺はなんとなく好きだった。


 この日も、いつもと同じようにボーっとしていた。


 何も考えずに、ただ動いている雲を眺め、ああ、キレイだななんて思っていたその時、俺の視界に、級友の直人なおとの顔が飛び込んできた。


圭人けいと-、またボーっとしてんのか?高校に入ってから多くなったよな、それ。大丈夫かあ?」

「…え?…ああ…大丈夫だよー」

「…ったく、そのクセ直せよ。あー、なんっつーか、イラつくんだよ…そういうの見てると…」

「…ふーん…」


 直人は軽くため息をつくと、俺の机の前にしゃがんだ。そして、俺の脚をつんつんと指でつついた。


「人の話をまじめに聞かなかった罰だー」

「…やめろよー…」


というか、くすぐったい。


「だいたいさー、お前、『高田 圭人たかだ けいと』ってカッコいい名前なんだからさあ、ちょっとははっきりした性格になれよ」

「…そういうもんかなあ…」


 もちろん、俺は自分の名前がカッコいいなんて一度も思ったことはない。思っているやつはただのナルシストだ。あと、性格と名前は関係ない。


「はあ…せっかく朗報をゲットしてきたのに、こんな調子じゃあ言えないな」


 直人がそう言った瞬間、俺の意識が窓の外から帰ってきた。


「ろっ朗報って何!?」

「な、何だよ?急に元気になりやがって…」


 直人は驚いた顔をしていたが、すぐに元に戻って、ゆっくりとそのニュースを話し始めた。


「転校生が来るらしい」

「ふーん…」


 また直人の『そういう系の』話か。どうせ、また美少女がとか何とか言い出すんだろうなあ…。俺はまた、意識を窓の外へ向けた。


「ああーもう!聞けよ!人の話をさ。それが、転校してくるのがうちのクラスで、『超』がつくほど美少女らしい。ハーフなんだってさ」


 ハーフの女子…ちょっと興味があるかも…。俺の何もなかった高校生活にも花が咲くのかな…。


 朝のホームルーム。

 直人が言ったとおり、転校生は本当に来た。

 俺は基本、直人が言った『美少女』はそこまで美しいと思わないのだが、今回ばかりは認めざるをえなかった。

 その少女は、長いツインテールの髪をゆらしながら、教卓の前へ来て、ペコリとお辞儀をした。


浅海あさうみ スザンといいます。えっと…私、ハーフなんですけれど…気にせず仲良くしてくださいっ。よろしくお願いしますっ」

「じゃあ、浅海さん。窓側の前から四番目の席に座ってください」

「私、ここがいいです」


 そういって浅海はひとつの机を指差した。


「はい?」


 そういった先生の反応は正しい。マジで、何言ってんだ…あいつ。しかも、なんでよりによって、俺のななめ前の席なんだ。


「浅海さん、その席は他の人のものです。今日は、たまたま遅刻の連絡があるだけで、ちゃんと来ます。空席ではありません。自分の席に座りなさい」

「…はい…」


 浅海はがっかりとして、自分の席に座った。


 浅海が席に座る直前、浅海は俺に悲しそうな目を向けた。…何も言ってやらんぞ、お前のためには。というか、なぜ俺…?うすうす期待はしていたけれど…まさか、あいつは俺に興味があるのか…?

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