第16話 別の世界では

?A「御館様おやかたさま! ついに婚約まで持ち込みました!

 半年前の段階では予定から遅れが出ていましたので、多くの方にご迷惑をおかけしました。家族ぐるみで追い込むよう誘導したのが功を奏し、無事、この段階までこぎつけました。」

?B「御館様は恥ずかしいからやめてくれ、って前に言ったじゃないか。それに、わかってると思うけど、婚約だけではまだまだ安泰とは言えないぞ。」

?A「そうですね。媛巫女には娘をできるだけ早く産ませます。その後、念のために娘をもう一人。気が向いたら、ですが、その次は息子でしょうか?」

?B「未来は流動的だが、娘2人は規定事項だ。卒業したら、できるだけすぐ、だ。3番目の性別はどちらでも構わん。」

?A「そうすると、大学院進学はなし。大学は4年生の2月半ば以降はやることがないから、その時点で手早く結婚。このように進めていきたいと思います。

 婚姻に関する親族の承諾ですが、既に両家とも二人の結婚が暗黙の了解となっているようなので、異論は出ないはずです。

 ふと思いましたが、むしろ出来婚のほうがいいでしょうか?」

?B「男の態度次第だが、確実に事を進めるなら既成事実は積み上げたほうがいい。

詳細な予定は任せるぞ。」

?A「媛巫女の腹が大きくなりすぎるまでに学業を終わらせてやりたいので、逆算すると出産は5月ごろが適切と思われます。一方、大学4年の8月に大学院の入試があるため、それまでには進学か就職かを決める必要があります。そうすると、男は一旦大学院へ進学する方向で進め、媛巫女の妊娠に伴い、責任を取って在学中に結婚。一つの家庭の大黒柱として働くことを決め、もったいないけど進学を放棄する。いまさら就職活動は遅すぎるので、家業を継ぐ。この筋書きなら大きな問題はなさそうです。」

?B「さすがだな。その方向で進めてくれ。」

?A「お褒めのお言葉を頂き、至極光栄です。

 速やかに月単位の工程表を用意しますので、後ほど確認をお願いします。」

 また、家業がうまく行くよう、多少の根回しをする許可を頂きたいのですが、よろしいでしょうか。」

?B「不自然でない程度の成長を目指してくれると助かる。

 日本のためになっている会社だから、今の心がけを忘れないまま頑張って欲しい。大きくなって変な方向に向かうのもよくないし、だからといって資金繰りに悩まれるのもよくない。」

?A「はっ。そのように手配いたします。

 それにしてもこの十年、長かったです。

 お館様が母親を拒絶した時は、どうなるんだろうと肝を冷やしましたよ。」

?B「残念この上ないことに、適性があまりにもなかった。無用な争いを避けるために、候補者を多く用意していなかったことを後悔しても遅すぎた。幸い、母より娘のほうが潜在的な適性が高かったので、一代飛ばすことを決断した。娘に覚悟を決めさせ、しっかりした心構えになってもらうためには、いい影響を及ぼす伴侶と友人の調達は重要事項だ。わかると思うけど、伴侶には媛巫女の全てを受け止めることができる資質が求められる。もともと己自身をしっかり持っておったから目を付けていたが、世間の一般常識にとらわれずに飛び級の試験を受けることを決断できた時点で、大学をえにしの合流地点に設定できることもあり、あの男を伴侶にすることに決定した。

 媛巫女の環境を整えていたこの十年間、大儀であった。」

?A「ありがたき幸せでございます!」

?B「よいか? そのへんの人の目を通し、時代劇を見て小さい頃の自分を懐かしむのもいいが、時代はどんどん進んでいく。取り残されるなよ?」

?A「はい!」

?B「で、次はそちらのお嬢たち。」

?C「はーい♪」

?B「あの男をちゃんと動かせていなかったら、我々はもっと手こずっていた。初めての割には、よく頑張ったな。」

?C「そんな、わらわにはもったいないお言葉です!」

?B「ただ、あの男の媛巫女に絡んだ役目は、殆ど終わったようなものだ。当分の間、大きな要求をすることはないだろう。」

?C「それでは、わらわはもう、お役御免ですか?」

?B「なあ。自分でわかってるよな? 少々、いや、ものすごくやりすぎていたことを。」

?C「えーと、それはぁ……。」

?B「若い見習いということもあり、結果うまく進んだから見逃していたが、あそこまで人の心をもてあそぶのは我々の流儀に反する。本来なら懲罰ものだ。」

?D「申し訳ございません。見習いの粗相は、監視役の責任です。本来なら道を踏み外さないよう監督、指導すべき立場のわらわもつい、悪乗りしすぎてしまいました。」

?B「だが、あの男は我々と深すぎる縁を結んでしまった故、もう放り出すことは出来ない。そして、媛巫女絡みで今後あの男が必要になる可能性はなきにしもあらず。そのときは改めて頼むことになる。」

?D「はい、そのときは、全力でお役目、全うさせていただきます!」

?B「まったく。裏の巫が必要だという神社の都合がなかったら、お嬢たちごと見捨てようと思ったことが何度あったか。」

?D「申し訳ございません。」

?B「いいか。こんな状況にしたことの責任は、お嬢たち自身で取れ。

 乗りかけた船だ。あの男はお前たちの好きにしろ。

 ただ、徹底的に幸せにしてやれ。我々と人との、新たな前向きな・・・・接し方を模索しろ。あれは、そのための実験台として使え。

 いいか、若く非常識で無鉄砲なお嬢たちにしかできない仕事だ。他の者にはできない、よい仕事を期待しているぞ?」

?C「はいっ! 不束者ですが、頑張らせていただきたいと思います!」

?D「もう一度、活躍する機会を与えて頂き、ありがとうございます。このご恩は決して忘れません。」

?C「わらわがいないと生きていけないよう、わらわにベタ惚れさせて、たっぷり甘やかして、いっぱい可愛がってあげちゃいます!」

?D「おいっ!」

?C「だってぇ、好きにしちゃっていいんでしょ? 可愛いは正義、可愛いわらわと可愛いあの子の、相思相愛でラブリィな激甘生活のどこがいけないんですかぁ?」

?A「人と馴れ合って何が楽しい。我々の誇りを捨ててまで人ごときに入れ込むのか。」

?C「オジさん古ーい! いつまでたってもモテナイ理由、自分でわからないの?」

?E「まあまあ、好きにする許可が出たのだから、よいでしょう。確かに、萌えは正義だと私も思いますよ。」

?A「人に情がわくのは軟弱者のあかし。嬉々として色情狂に身を落とすなぞ以ての外。」

?C「禁欲的に生きてたって、何も楽しくないのに。オジさん、もっと自分に素直になったら?」

?A「いつまでも小娘のままでいたいなら止めはしないが、もっと成長しようと心がけてみてはどうだね?」

?E「人間の世界がこれだけ変化している以上、我々も人間の文化を理解せねばならぬでしょう。

今は明らかに我々には辛い世界になっていますが、それでも我々はこの世界を守っていかなければならない。その相棒として人間と接するのであれば、お嬢たちのような接し方はありだと思うのですよ。」

?C「そうそう。若いからこそ、いろいろ試行錯誤してるんだから。男の子をかわいがるのも、その一環。」

?B「そして、最後。」

?E「この度、私めみたいな若輩者に声をかけて頂き、身に余る思いです。」

?B「媛巫女の心を成長を促す手練手管、見ていて鮮やかであった。」

?E「少々、やりすぎたかと思いましたが、お褒めいただけて感激しております。

 実は十年近く前から目をつけていたこと、高校受験にわざとしくじらせたことと、大学で態度の悪い男に喧嘩を売らせたことが巫女にバレたら大目玉を食らうでしょうが、我々の目標のためにはやむを得ませんからね。」

?B「つつがなく、波風立たない平和な人生を送らせる、そんなつまらない生活のためには我々は動かない。我々の目的を達成するために必要な人が、途中に立ち向かう数々の難局を確実に切り抜けられるよう、手助けするのが我々の役目だ。まあ、困難のいくつかは我々が持ち込むわけだがな。途中で潰れてしまっては本末転倒なので、何としても乗り越えさせる必要がある。

 わかってると思うが、巫女の気持ちは二の次、我々の願いの成就が第一だ。」

?E「そういえばそうでしたな。基本を忘れてはいけません。」

?B「そなたの巫女はこれからも媛巫女を精神的に支えていかないといけないし、本人に直接伝えられないことを、そなたの巫女を通して間接的に伝えていかないといけない。これからも頼りにしているぞ?」

?E「はいっ!」

?C「あのぉ、何でわらわたちだけ悪く言われてるの?」

?D「馬鹿者! 後で説明する。ここは頭を下げておけ!」

?C「はぁーい。」

?E「巫女の進路はどうしましょうか。大学院に進学、修士取らせてすぐに結婚。男とともに、長距離の転勤がない、地元のマイナーな優良企業にねじ込むのが最善と思います。」

?B「それがよさそうだ。どうせ大手企業を受けたがるだろうが、全部、不採用にする方向で頼む。文句言われるだろうが、入った後に『これでよかった』と思えるような会社を協力して見繕ってくれ。」

?E「異論はありませんが、実に鬼畜極まりないですな。

 結婚相手とも同じ会社のほうがいいでしょうか?」

?B「そうだな。変なのに狙われたらよくない。特に男の方は、誰か・・のせいで無駄に庇護欲をそそられる雰囲気になったせいか、社内の妙齢の女に過剰に可愛がられそうだ。無駄に関係がこじれるのはぜひとも避けたい。

 うん、同じ会社にしておくのがいいだろう。内定取った二人が入社時には結婚しちゃってました、となると会社の人たちはびっくりだろうが、それで顔を覚えてもらい、社内で活躍できたら、いい感じに出世させられそうだ。」

?E「確かにそうですな。その頃にちゃんと結婚するよう、誘導しておきます。

 入社早々の産休はまずいですから、一年くらい待ちますか。」

?B「悪くないな。

 お嬢たちもわかったな?」

?D「承知いたしました。」

?C「はーい。」

?B「巫女と巫の結婚だと、子は理解ある親のもとで育つことになる。双方の神社的にも都合がよかろう。」

?E「では、一人ずつ頂きましょうか?」

?D「わかりました。神社の上の者に言伝しておきます。」

?B「我々の存在が子の心に障りを起こすかもしれないが、その際は互いに支えられるよう、媛巫女の次女と三番目、そなたらの長子と次子の年は揃えておくか。」

?A「御意。」

?B「よいか。これは終わりでなく、まだまだ始まりだ。

 我々の彌栄いやさかえのために、お互い、力を尽くすように。」

?A「はっ!」

?E「もう腕が鳴っていますよ。」

?C「もっともっと、頑張っちゃいます!」

?D「期待を裏切らないよう、力を尽くさせていただきます。」

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表の世界、裏の世界 第四部 払暁の媛巫女 禪白 楠葉 @yuzushiro_kuzuha

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