第9話~明日への希望~

 数日後、五艦の部屋で休んでいると、いつものようにワタルくんが来た。事件がまだ完全に解決するまでの間、五艦にいてもいいという話らしい。

「アリスさん、どうだった?」

 最近はアリスさんの事情聴取が主な仕事になっているから、会った時は必ず聞いてる。愚痴を聞く意味もあるけど。

「まだ黙秘してる。なんか、半分は意地になってるみたいだね。」

 そう言って笑った顔は、かなり疲れていた。

「そっか~。大変だね。」

「うん、まあもう少しの辛抱かな。」

「え?どういうこと?」

 意味が分かんなくて聞いてみると、ワタルくんは「ここだけの話ね。」と釘をさした。

「実は、あの3人の本部移動が決まったんだ。」

「本部?」

「この組織の親元っていうか、一番偉いところ。三波西呉と佐藤はもう最初から自白してたからあの3人が犯人だってことは確実だし、移動になったら本部での事情聴取が始まる。俺がやらなくてもいいんだ。」

「そうなんだ、良かったね!」

 そう言うとワタルくんは「まあね。」と笑った。

 でも、その前に一つだけ、やりたいことがある。

「ねえ、ワタルくん。一つだけ、わがまま言っていい?」

「ん?うん。」 

「お父様とお話がしたい。」

「え…?」

 そう、ちゃんと誤解を解きたかった。私がお母様を殺したんじゃないって…。

「…うん、いいよ。移動は明後日だけど、いつがいい?」

「そっか、明後日なんだ。…じゃあ、明日でもいい?」

「いいよ。手続きしとくね。」

「うん、ありがとう!」

「いいって。それよりご飯食べに行かない?俺、お腹減っちゃったんだ。」

「あ、もうそんな時間なんだね。私もおなか減ってたの。行こ!」

 

 翌日。ワタルくんと一緒にお父様との面会をした。

 事情聴取の時、ワタルくんが色々話してくれたみたいで、顔を見るとすぐに謝られた。その時、お母様を殺したのは佐藤さんだと言う事も知らされた。

「西呉さんはそんなに重大な罪を犯した訳ではないから懲役刑になっても2、3年で出てこられると思う。」

 面会が終わるとワタルくんはそう言った。

「ただ、西呉さんはかなり情報操作やパソコンに強いみたいだからもしかしたらMEAの職員の話が出てくるかも。」

「お父様、もともとはITのお仕事してたの。もう、私の世界じゃ就職は厳しい年齢だし、ここでお仕事出来るなら願ったりかもね。」

 私がそう言うと、ワタルくんは私の前に来た。ちゃんとこっちを見て。なんか、ドキドキする…。

「ねえ、そら。そらはこの先どうするの?」

「え?この先?う~ん、どうしよう。学校も退学しちゃったし、行く当てもないからな~?」

「そうなんだ…。」

 ワタルくんはそう言うと真剣な顔をした。

「この先どうするか決まってないなら、お願い、俺のパートナーになってよ!」

「え!?パートナー!?」

 確かに、私はこれからの事なんて考えてないし、当てもない。今行ったことだって全部本当だけど…。

「その、ただ、任務とかを一緒にやってくれるパートナーが欲しいって言うか。そらだったら、俺安心して任務が出来ると思うんだ!」

「で、でも私、魔導ちゃんと使えないし…。」

「俺が教える!だから、お願いします!」

 そう言って頭を下げられる。確かにワタルくんとこれからも一緒にいられるのは嬉しいけど、でも…。

「本当にいいの?私みたいな役立たずで…。」

 そう、それが心配だった。学校にいた頃は皆から『役立たず』と言われ続けた。だから、役に立てる自信がない。

「なんで?俺、そらに助けられたよ?」

 なのに、ワタルくんはそう言ってくれた。

「え?」

「だって、西呉さんが襲って来た時、俺瀕死だったけど、そらが女王様の魔力を増幅させてくれたから手当てを早くしてもらえた。アンジェロ王国では傷を癒やしてくれた。こんなに色々してくれた女の子が『役立たず』な訳ないんじゃない?」

 そう言って優しく笑ってくれる。初めて言われた言葉に、少しだけ泣きそうになった。

「それに、そらの力ならもっと色んな事ができる。その出来る事、俺と一緒にやってみない?」

 そう言って手を差し出された。

 ワタルくんはいつだって強制はしない、強引な事はしない。優しく、手を差し出してくれる。その手を、私は何回もとってきた。だから、今回もその手をとる。今までそうして来たように。これからも、ずっと、

「よろしくお願いします!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る