第8話~終焉~
悪い夢。夢なら覚めて欲しい。だって…。
「艦長…。」
なんで、私達の味方であるアリスさんがいるの?しかも、バドさんと女王様を小脇に抱えて。お父様と佐藤さんを連れて。
「ここにいたのね、2人とも。ほら、こんな人達に騙されてないで一緒に行きましょう?楽しいわよ。」
「ふざけるな!」
笑いながら話アリスさんに向かってワタルくんが大声を出して。ワタルくんだって怖い事だと分かる。ずっと手が震えてるから。
なのに、私の事庇いながら、いつものように一歩前へ出た。
「誰があんたのような裏切り者と一緒に行くもんか!そらだって絶対渡さない、守るって決めたんだ!」
「…邪魔よ。」
ワタルくんの叫びが聞こえていないかのようにアリスさんがそう言うと、ワタルくんは横の壁まで吹っ飛ばされた。
「ワタルくん!」
「うっ!」
バドさん達も同じように吹っ飛ばされ、同じようにうめいた。
「何が…何が目的なんですか!?」
耐えられなくて、でも、近付いたらきっとまたワタルくん達が痛い思いをする。せめて、この怒りをぶつけたくて、私はアリスさんに向かって怒鳴った。
「なんで、こんな事するんですか?分からないです!なんで、こんな事酷い事…。」
「あなたが欲しいから。」
そう言って私に手を伸ばして近づいてくる。お父様と佐藤さんは何もしない。ただアリスさんがそうしてくるだけなのにすごく怖い。
「あなたの力が欲しい。そうすれば、私はもっと強くなる。ねえ、私と一緒に来て?」
そう言って、私の髪を掴んでくる。
「大丈夫。私といれば怖い事なんてなくなる。楽しい事だけになる。ね?」
「…いやです…。」
「え?」
髪を掴んでいる手を自分の手で払うと、真っ直ぐアリスさんを見た。
もう、臆病な私は、嫌だから。何もできないのは、いやだから。
「絶対に行きません!」
そんな私を、アリスさんは厭わしそうに見ていた。ここで引き下がる訳にはいけない。私を守ってくれてる人達の為にも。
「そう…。でもね、ここで退く訳にはいかないの。」
そう言ってもう一度手を伸ばしてくる。
「…!なんで!?」
逃げなきゃいけないのに動けなかった。身体が固まってしまった感覚。私の身体は、まるで自分の物じゃないみたいに動けなかった。
いつかの夢のように…。
そう思っている間にもどんどんアリスさんの手が近付いてきた。
全てゆっくり動いて見えたのに、私とアリスさんの間に入ってきた『影』だけは、すごく速かった
その影は、私の身体を包むと、私をワタルくんの所まで移動してくれた。
「間に、合った…!」
「バドさん!」
声のする方向を見ると、バドさんが剣を支えに立っていた。
「そら、ドームを、光のドームを、思い、浮かべるんだ。自分の、守りたい、人達を、守るような、大きさの。」
「ど、ドーム…。」
とりあえず、ワタルくんとバドさん、女王様と自分が入ればいい。
「思い、浮かべたら、足元に、集中するんだ。」
「う、うん!」
言われた通り、足元に集中する。そしたら、私を中心に魔法陣が出て来た。ワタルくん達全員がその魔法陣の中に入るとそれ以上大きくならない。
「そしたら、緑を、イメージ、するんだ。やすらぎを、与える、ような。」
そう言われて、イメージすると、イメージした緑色の光の幕が、私のイメージしたドームの形になって現れた。その途端、バドさんの傷が消えていく。
「なに、これ?」
「回復の、結界。ワタルを見てみな?」
そう言われてワタルくんを見ると、受けてた傷が塞がっていった。
「すごい…。」
バドさんを見ると、もう普通に立ってて、びっくりした。女王様とワタルくんも立ち上がる。
「そらの魔力って、本当に強いんだな。」
バドさんはそう言って少し笑ってから、アリスさん達の方を見た。
「くっ…!小賢しい真似を!」
アリスさん達は、バドさんの影が絡みついていて、身動きが取れない感じだった。
バドさんが近付こうとするのを、ワタルくんが止めた。
「ワタル…。」
「行かせてくれ。…身内の過ちは身内がただす。」
その言葉にバドさんは頷いた。でも、私は心配で、声をかけてしまった。
「ワタルくん。」
そんな邪魔をしてしまった私に、ワタルくんは怒るのではなく、優しい微笑みと言葉をくれた。
「そら、さっき艦長と話してたの、かっこよかったよ。それと、この結界もありがとね。…ちょっと行ってくる。」
「うん、気をつけて。ここから見てるね。」
「うん。」
そう言ってワタルくんは結界から出て行った。
なんでだろう?なんだか、こんなやりとりを、昔、ワタルくんとしたことがある気がする。
「…俺が初めて手錠を掛ける相手があなただとは思いませんでした。」
「なら、掛けなければいいじゃない。」
笑ってそう言うアリスさんに向かって、ワタルくんは静かに首を振る。
「そうもいかないから。」
そう言ってワタルくんはアリスさんの手を掴む。
「業務執行妨害、一般市民への魔力行使…その他諸々の容疑であなたを逮捕します。」
そう言って、アリスさん、お父様、佐藤さんの順に手錠を掛けた。その背中は、見たことないくらい辛そうだった。
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