第7話~悲しき現実とそらの力~
しばらくしてベッドを降りて周りを見渡す。かなり大きい部屋で日本の、私の部屋じゃない。どちらかと言えばヨーロッパとかの、お洒落な街のお嬢様のお部屋みたい…。
「ここどこ?なにこれ?」
もう一度呟くと、タイミングよくノックの音がなった。何がなんだか分からなくて、とりあえず扉を開けるとワタルくんが抱きついてきた。
「え!?わ、ワタルくん!?」
私が聞いても無言で、どうしたら良いのか分かんなくて固まっているとワタルくんの後ろにバドさんを見つけた。
「あ、バドさん。あ、あの、ここ、どこ?その、どうなってるの?あと、何でワタルくん抱き付いてきたの?」
私がそう聞くと、バドさんも苦笑いしながら答えてくれた。
「とりあえず、ワタルはそらが起きてかなり安心してるんだ。何せそら、丸3日寝てたんだしな。」
「そ、そんなに!?」
「そんなビックリするなら早く起きてよ。」
ようやくワタルくんが顔を見せてくれた。でも、き、距離が…。
「わ、ワタルくん。その、か、顔が…。」
「かんけーない。」
そう言ってまたワタルくんは顔を伏せてしまう。なんかワタルくん、怒ってる?
なんかバドさんもワタルくんの事を「仕方ないな…」って感じで見てる。まあ、心配かけちゃったし、これくらい、いっかな。
「っと、話逸れたな。確かどういう状況なのか説明しろ、だったな。」
部屋に入ってバドさんが話の軌道修正をしてくれた。ちなみにワタルくんは私の手を掴んで放してくれない。
「まず信じられないかもしんないけど、ここは、アンジェロ王国だ。」
「え!?ここが…?」
私がそう聞くとバドさんもワタルくんも頷いた。
「俺も信じられなかったけど、もう信じるしかなくなったんだ。」
「俺たちをここまで連れてきた人の話を聞いたら、な…。」
バドさんはそう言うと立ち上がった。
「百聞は一見に如かず、だっけ?会いに行こうぜ。そうすれば分かるさ。」
バドさんの言葉に私とワタルくんは頷いてついて行った。
たどり着いたのはこの建物の最上階、アニメとか、ファンタジー小説によく出てくる王座の間だった。そこには、第五艦で見たきれいな女の人がいた。
「あなたは…。」
「第五艦で俺たちを助けてくれた人。」
ワタルくんがそう言うと、女の人は軽く頭を下げた。私もそれにならう。
私が頭を上げたのをみてバドさんが話を再開した。
「まあ、現アンジェロ王国女王だな。俺をそらの世界に行くようにしたのもこの人。で、俺はその家来って感じ。なんとなくわかるか?」
「あ、固く考えないでね。女王って言っても、あまり権力はないから。」
「はあ…。」
女王様にそう言われて、曖昧に頷く。でも、正直ピンと来ない。助けを求めようとワタルくんを見ると一緒に首を傾げてた。
「えっと…、つまり、バドはその人の命令でそらに嫌がらせみたいな事したって訳か?」
「嫌がらせって言うな!まあでも、考えは合ってる。」
そう言ってバドさんは答える。なんだかもう、訳が分からなくなってきた…。
そんな私を見て女王様は少し心配そうな顔をした。
「ねえ、バド。今日はこれくらいにしない?また明日でもいいと思うの。」
「で、ですが…。」
「とりあえず、三波西呉からこの方をお守り出来た訳だし、ここにいれば安全よ。それに、この続きは第五艦の方々も一緒の方が物事がスムーズに進む。それに、そらさんも起きたばかりで疲れてしまうでしょ?」
そう言って私に同意を求められた。どうするべきか分からなくてとりあえず頷く。
私の反応を見てバドさんも頷いた。
「分かりました。…とりあえず、それぞれの部屋で休むか。ワタルはどうする?」
「う~ん、そらといるよ。混乱してるだろうから少しでも安心出来るように。」
「分かった。俺は女王と一緒にいるから何かあったら呼んでくれ。」
「ああ。…そら、行こう。」
「うん」
部屋に戻ると、ワタルくんは慣れた様子でお茶を入れてくれた。
「ありがとう。えっと…私が寝てる間の事とか聞いてもいい?」
実はずっと聞きたかったけど、雰囲気的に聞けていなかった。
「いいよ。えっと、まず五艦の人達は無事だから安心してね。」
「あ、そうなんだ。良かった…。」
それも心配してたから最初に教えてもらえて良かった。
「うん、じゃあ、まず襲撃を受けたところから話すね。」
ワタルくんはそう言うと、少し真剣な顔になった。
「まず、襲撃犯なんだけど、やっぱり、三波西呉と佐藤の2人だった。」
それは気を失う前にワタルくん達が言ってたし、自分の目でも見てたからショックは小さかった。
「で、目的はそらだった。でも、殺す為じゃない。…誘拐する為に。」
え?誘拐?何のために?
「ゆ、誘拐!?だ、だって実の娘だよ!なんで…?」
そう言ってからハッと思い出した。
「佐藤さん、『渡してもらう』って言ってた…。」
「そう、本当に欲しかったのはそらの力だったんだ。それだけ君は強い力を持ってる。まあ、数百年前に失踪した姫様なら驚く事じゃないんだけどね。」
そ、それもそうか…あれ?でも…。
「話を戻そうか。」
「うん。」
疑問は後回しにして、まずはワタルくんの話を聞く。
「そんな訳で、五艦を襲った2人はまず、艦長を襲った。隊員全員で守ったから、艦長は無事だった。でも、いつの間にか三波西呉が消えていたんだ。それに気づいた艦長の指示で俺とバドはそらの所に行った。その後はなんとなく分かるよね?」
「うん、女王様が出てきて、足元に魔法陣が出て来て…。でも、そこから先は気を失ってたから分かんないの。」
私がそう言うと、ワタルくんは「そうだよね。」と笑った。
「でもね、俺達をここに連れてきたのはそらと女王様の2人の力なんだ。」
「え?私も?女王様一人の力なんじゃ…?」
するとワタルくんは少し笑った。
「だって、五艦にいた全員をここまで転送するのは一人じゃ無理だよ。」
「え!?全員だったの?」
「そう、でも、それを可能にしたのがそらなんだ。」
「え?」
ワタルくんはただ混乱している私の頭に手を乗せて撫で始めた。
「そらが女王様の魔力を増幅させたんだ。しかも、無意識に。だから、誰も介入出来なかった。」
「だから呼ばれたんだ!」
私がそう言うと、ワタルくんは「そういうこと」と笑った。役に立てた事が何より嬉しくて、私も笑った。
「だから、ずっとお礼が言いたかったんだ。でも、そら起きないしさ。」
そう言うワタルくんは少しふてくされているように見えた。なんだか、いつもの私達で、すごく安心した。
「ありがとね、そら。」
それはこっちのセリフだよ。そう思いながらもう一度笑った。
「さて、これが、あの日の出来事の全て。質問は?」
そう言われて、結構序盤に思った疑問を言ってみた。
「さっき、お父様達の目的は誘拐だったって言ってたけど、でも、お父様は前に『殺す』って言ってたよ?」
そう、私もワタルくんも、バドさんも聞いたはずなんだ。『次は殺す』って。
それを言うとワタルくんは指を立てた。
「そう、そこが問題で、もしかすると三波西呉は操られてる、もしくは騙されていると考えられるんだ。」
「だ、騙されてる?」
訳が分かんない。だって、お父様はお父様の意志で動いてるんじゃないの?
でも、ワタルくんは更に言葉を重ねた。
「例えば、そらのお母様が殺された時にそらが見たのが、男性ではなく女性だったら?」
「それって!」
それって、つまり佐藤さんがお母様を?
声に出さなかった疑問を聞き取ったのか、ワタルくんは頷いた。
「まだ仮説段階だからなんとも言えないけど、その可能性だってない訳じゃないんだ。」
その続きをワタルくんは真剣な顔で話す。
「でも、この仮説が正しいのなら全て辻褄が合う。三波西呉が今まで姿を見せなかったのに、この1ヶ月の間で急速にそらと接触したこと。佐藤と三波西呉の発言の違い。そして何より…。」
そこまで言うと、いきなり扉が開いた。そこにいたのはバドさんと女王様。
「やっぱ、五艦の牢屋、強化すべきだって!…あいつが出て来た。2人は地下に逃げろ。」
バドさんの言葉にワタルくんは頷く。誰が来たんだろう?
「そらごめん、一回話は中断。とりあえず身を隠そう。」
「う、うん。」
そう言って、私達は地下へ行った。
「ね、ねえ、誰が来たの?」
地下の部屋に着くとすぐに私は聞いた。
「…三波西呉の後ろ盾をしてた人物がいたんだ。」
「後ろ盾?」
そう言われてもピンと来ない。後ろ盾ってどうやって…。
「そして、その人物がかなり危険な所にいてね。いつでも逃げれるようにはしてたんだ。思ったより早かったけど。」
「その人って、誰なの…?」
私がそう聞くとほぼ同時に扉が開いた。入ってきた人物を見て、私は悪い夢だと思った。
「…アリス、さん…?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます