14話:再会
人々が行き交う通り道の一角。
通りの交差点に当たる道には、いつものように通行人が忙しげに歩いていた。
最近の王都の出来事を囁き合う噂好きな住人や、馬車の中から不安げに帳簿を何度も確認している商人。
そのどれもが、いつもと変わらない様子を映し出している。
『――そんな、いつもと変わらない一角の酒場が突然、粉微塵に吹き飛んだ』
破壊音を響かせ、通り道にはパラパラと石の破片や木片が降り注ぐ。
通行人が何事かと不安げに見守る中、破壊され、もはや出入り口の役割を果たせていない入り口から、白銀の鎧を着た金色の騎士が静寂の中に足音を響かせながら出てきた。
腰まで伸ばした金色の髪をなびかせ、白い人形のような肌を持つ女性は粉塵が舞う破壊の名残を受け、名画の様に見るものを引き付ける美しさを持っていた。
その溢れんばかりの美貌に憤怒の表情を走らせた女性はふんっ、
と鼻を鳴らし酒場に一瞥すると踵を返し、不愉快な場所から立ち去ろうとして――
――全力疾走してきた茶髪の少年に腰を抱き抱えられた。
「おらあぁぁああぁぁっ!!!
リーゼロッテさん確保だぜっ!
キャッチアンドリリースッ! リリースしたら駄目か! よっしゃぁ! 間に合っ――」
「きゃっ! な、なにをする。こいつっ!」
「――うわらばっ!」
リーゼロッテの腰に抱き付いたハルトの頭に拳骨の鉄槌が落とされ、ハルトは悶絶。
一瞬で、その行為の対価を払わせられる。
もっとも、リーゼロッテの腰は白銀の鎧に覆われていたので、褒美の様なものは何もない。
収穫と言ったら、妙に可愛らしい驚いた声を聞けたことぐらいだろうか。
地面で転がりながら悶絶するハルトは収穫はあったとばかりに、親指を上げサムズアップ。
頭はズキズキと痛みながらもまぶしい笑顔も忘れない。
リーゼロッテは不審者にしか見えない男を睨みつける。
「何だお前は! こう見えて私も女性だぞ!
いきなり抱きつくなど恥を知らないのかっ!」
「抱き付いても肌のぬくもりを感じられなかったのは残念至極。
………それにしても、はは、『何だお前は』か」
肉屋のおっさんの所で随分と時間を掛けてしまい、
ここまで急いでくる中、ハルトは必死にこれまでの出来事を考えて、『こうなる可能性』も予想はしていたが実際に目の前にすると心に来るものがある。
この反応を見るに、これまでは確信できなかった『リセットしての時戻り』が確信を帯びてきたということだ。
だが、これはあまりにも………
「――俺にこんな能力を授けた神様か誰だか知らないが、趣味が悪いぜ。馬鹿野郎が」
「――何を言っている?」
不信感を隠すことなくハルトに向けているリーゼロッテに心を抉られる。
それは、二回目のリセットされた世界であんなに苦労して信頼関係を築き上げたのに、またゼロからリスタートしろ。と暗に告げられていた。
リセットされて、またリセットされて、何度繰り返せばいいのか………。
その能力? と呼べばいいか分からないが、それに助けられたのも確かだ。
だが、この破裂しそうな感情はどうすれば良いというのだ?
楽しかった思い出は今やハルトにしか残っていない、悲しみに暮れる思い出もハルトにしか残っていない。
一体、こんなに弱くてちっぽけな自分にどうしろと言うのか?
自分はそんなに強くない、こんなことを続けていたら、いつか自分は壊れるかもしれない。
心が軋む音を聞いていると、壊れるのは近いかもしれない。
だけど、それでも………。
――それでも、ヤガミハルトは『知っている』のに見逃すことは出来なかった。
歯を食いしばり、前に進まないといけない。
知れば知るほど、重さを増していく『宝物』を守らないといけない。
ハルトが静かに静かに決意を高めていると、後方からとてとてと歩いてくる少女の姿が見えた。
先端が少し青い真っ白な髪をふわふわとなびかせ、どこまでもふわふわと飛んでいきそうな子。
真っ白なワンピースを揺らして、見知った騎士を見つけて喜び一杯の顔をしている子。
――ハルトがこの世界で一番会いたかった女の子。
自分の背の向こう側をじっと見つめるハルトにリーゼロッテも気付いて、振り向くと、金色の騎士の胸にふわふわの塊が真っ直ぐ飛び込んでくる。
「えへへ、ロッテ捕まえた!」
「モニカッ! なんで、ここに居るんだ?
宿で待っているように言ったじゃないか!?」
リーゼロッテは心底、驚きながらモニカを優しくキャッチする。
それから、少女の目を真っ直ぐに見て厳しく言葉を紡いだ。
モニカは騎士の言葉にしゅんと気を落としながらも、
「あっ、ごめんなさい………。
でもね、でもね聞いて! これがあれば美味しい物を一杯食べれることに気付いたのっ!!
ロッテも一緒に食べに行こう!!」
「そうか、勉強に使ってた硬貨か………。
私も行きたいけどなモニカ、私はこれから大切な用事を済ませないと行けないんだ
明日一緒に行くことにしよう、今日はお留守番だ」
「………お留守番したら明日は一緒に行ってくれる?」
「あぁ、必ずだ。私が約束を破ったことはないだろう?」
唇をほころばせ微笑みながら、ふわふわした髪を優しく撫でると、モニカも嬉しそうに笑う。
それから、自分のことを見つめるハルトに気付くと、宝石のような青い瞳を向けて、モニカは口を開いた。
「えっと、あなたはだーれ?
あっ、違う、あなたはどなたですか?」
無邪気に興味だけを示して、ハルトに質問を投げかける。
その少女の純粋な言葉を聞いて、ハルトは唇を噛む。
――決意は固めたはずだ。
仮面を被れ、仮面を被って進まないといけない。
強靭な意志で心にポッカリと開いた穴を塞いで歩け、歩くのだ。
ハルトは今にもひび割れて壊れそうなつぎはぎだらけの仮面を被る。
張りぼての笑顔を顔に張り付かせ、喉から声を出した。
「俺はヤガミハルト。ハルトって呼んでくれ」
自分の声が震えていないことに安心して、事前に考えていた次の言葉を紡ぐ。
「『ジークフリード宮中伯』の使用人をやらせてもらってる。ハルトだ。
突然だけど、二人にはこの街からすぐに出ていってほしい。
貴方達は殺人者二人に狙われてる」
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