猫部feat俺

@yamaru

第1話【猫部】は猫部ではなかったfeat俺

 俺が思っていた猫部はこんなものではなかった。


 「1年B組の白尾佑くんだよね?入部届け来てるよ。私は部長の2年A組鐘音和です。どうぞ入って」

「うす」

やたらに短いスカートの、黒髪短髪の美少女に促されるまま部室の生物実験室に入る。

「ここ座ってて。そのうち他の部員も来るだろうから」

とりあえず指定された場所に座った。

 ハァ。心の中で巨大なため息をつく。

 猫部。俺はてっきり猫たちと戯れる部活だと思っていた。

一週間くらい前の入学式の日に配られた、部活動紹介のパンフレットには「可愛い猫がいっぱいいるよ!」って書いてあったはずだ。だが、実際に今ここに居るのは、俺と部長の2人だけだ。本当にここ猫部なの?根昆布か何かの間違いじゃないのか?って心の底から思っている。

 「あの…ここって猫部ですよね?」

俺は恐る恐る聞いてみた。

「そう。ここは猫部だよ。何かおかしい点でもある?」

キョトンとした顔で返された。

ふむ。おかしい点しか見つけられないのは俺だけなのでしょうか?いいえ誰でも。だよね?

「いや…猫が見当たらないんですけど?」

「それがどうかしたの?」

「パンフレットには猫がいっぱいいるって書いてあったんですけど?」

「ああ。アレ?アレはプロパガンダっていうやつよ。本当は猫いないよ。私はアレを書くのには反対だったんだけど…。他の部員が聞く耳を持たなかったからね。騙しちゃってゴメンね」

これは詐欺だ。YouTubeで、サムネイルと動画内容が全然違ってるみたいなもんだ。いや、今のショックはそれ以上だ。

「じゃ、じゃあ、猫がいないのに、なんで猫部って名乗ってるんですか?」

「それはね…」

部長が話し始めたのと同時に扉が開いた。そこには茶髪短髪の女子生徒が立っていた。いかにもSNSのメッセージの語尾に「www」ってつけてそうな感じだ。どんだけ最近の若いもんはワールド・ワイド・ウェブが好きなんだよ?IT系の企業でも目指してるんですかね?それに相変わらずスカート短っ。しゃがんだら見えちゃいそうなんですけど。親とか許してるれてるの?

「なごみ~、遅れてごめ~ん」

「あっ莉緒、遅いよ」

歩いた方が絶対に速い小幅の駆け足で部室に入って来る。どうやら他の部員らしい。俺を騙したやつかな?っていうか猫部の名前の理由聞いてる途中だったんだけど。まあ後でまた聞けばいいか。

 その部員は俺に気づいたらしく声をかけてきた。

「あ!新入部員の子?私2年A組の香浦莉緒で~す。よろしくね~。部活紹介のパンフレット見てくれた?私が書いたんだけどー、猫の絵とか超可愛かったでしょ?」

俺を騙したのはこの人だったのか。それに、出来損ないのドラえもんだと思ってたあの絵は猫だったのか。いくらなんでも絵心なさすぎるだろ。


 「ほし。部員が全員揃ったことだし部活始めよっか」

部長が言った。え?部活って俺含めて3人だけ?こんなんでよく部活として成立してんな。

「あの。部活の前に、猫がいないのに猫部っていう理由教えてくださいよ。さっき言いかけてたの、まだ聞いてないんですけど」

「あー、忘れてた。ゴメン」

忘れるの早すぎでしょ?まだ全然時間経ってなのに。やっぱここ猫部じゃなくて、ニワトリ部かなんかなんじゃないの?3歩歩いたら忘れちゃうんですか?俺がそんなことを考えていると部長が言った。

「なんでかというと…この部の正式名称が、『懇ろな関係を築いて高校生活を楽しもう!部』だからです」

「…。フェ?」

ちょっと何言ってるかわからないですね。俺が困惑している中、香浦が言った。

「だから、「『懇ろな関係を築いて高校生活を楽しもう!部』を省略して猫部ってこと!これも私が考えたの。センスあるでしょ?」

ねんごろなかんけいをきずいてこうこうせいかつをたのしもう!ぶ。だと?。省略して猫部にするなんて強引すぎるだろ?てか、これ考えたのもお前か!

どうやら入る部活を間違えてしまったようだ。あきれ返る。

「じゃあ、気を取り直して部活始めよっか」


 これからこんな謎の部で過ごすことになるとは先が思いやられる。俺の凍えている心の中とは逆に、猫部部室は4月上旬のほのぼのとした陽気に満ちていた。

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