大人で子供な君に
・何かを買おうとした時、聡明を自負するお前は、まずネットで調べものをする。評価を見てから決定しようとする。
だが、実際はそんなこと意味がなく、当初買いたかったやつは買うし、そうでないものは買わないんだ。買いたい時は良い点しか見ないし、そうでなければ悪い点しか見ないからな。
評価なんて関係ない……ただ単に、自分を安心させたいだけなのさ。
・「世界にひとつだけの花」は良い歌だと思うけど、きっとSMAPも、毎日をぼんやり生きて、やること為すこと嘘と見栄ばっかりのお前を、「花」とは想定していないだろうな。
……当の本人はオンリーワンになるのに必死なのにな。
・そもそも「自分にしか出来ないこと」なんてあるわけねーだろ。代わりの人なんか売るほどいるわ。
誰一人欠かせられない世界なんて、脆すぎて安心して暮らせるか。
・大人の真似してブラックコーヒーを飲みたがる子供と一緒だな。
親がいない間に背伸びして挑戦してみるわけだ。
見よう見まねで珈琲豆をドバドバ入れて、お湯を注ぐ。一口飲んで苦さのあまりカップを放り投げる。
親が帰ってみると、泣いている我が子と、割れたカップと、染み付きのじゅうたん、部屋中の珈琲の匂い。
微笑ましい光景だろう?
だったら……この「子供」が既に30近いやつなら、どうだ?
・とにかく失敗しろ、と有名な経営者は語ったりする。
失敗は成功のもとだの、若い時の苦労は買ってでもしろだの、経験を積むことの大切さは広く知れ渡っているよな。
だが、失敗にも「身になる」ものと、「身にならない」ものの二つがあって、お前のやる失敗は後者になるんだなあ。
・身にならない失敗っていうのは二つ。
一つ、反省をしなかった失敗。「運が悪かった」「あいつが悪かった」などと言い訳し、原因や対策を考えない……そんな失敗は、ただの汚点だ。
一つ、何もしなかったことによる失敗。どうしようもないよな、何もしてないんじゃ。人生空っぽ進行形のお前の十八番だ!
・経験しないってのは本当に致命的だ。60過ぎても相も変わらずユニクロにすら行けず、お古のよれよれチェック柄と染み付きジーパンを着ることになるからな。
・型にとらわれない人生なんて、ある程度の経験をしなくちゃ選べない代物だろ。
ロマンだとか、男の性とか語るのも良いけどよ、その前に最低限の義務を果たすべきだよな。
・ああ、分かった。お前は「絶対に叶わない夢」を追いかけているんだ。
会社を興したいだの、本を出したいだの……内容なんてどうでも良かったんだ。
「夢があるから」スポーツもしない、身だしなみも整えない、人との交流を深めない。
夢、なんて引き合いに出されたら、周りからすれば、責めづらいしな。
お前からすれば「他人とは違う」ことをやっている自分に酔いしれ、他人を見下すための絶好の理由と言うわけだ。
求道者ごっこは、さぞや楽しいことだろうな?
・その結果がどうだ?
残せたのは、歪んだ思想を吐露したエッセイ、ぴくりとも記憶に残らない短編、ずるずると引き延ばされる連載小説……
子供には過ちを止めてくれる保護者がいるが、成人したお前にはブレーキもない。延々と壁に落書きをし、ほろ苦い珈琲を床にぶちまける。
そういった意味では、子供よりもチルドレンなんだよ、お前は。
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