第2話 魔王様、訓練かと。

「よしよし、皆の者よく聴け。今日はメルトンの勉強をする。」

「「「「は!!!!!!」」」


新人魔王軍1万人の前で魔王様はうんうんと満足そうにうなずく。


「いい返事だ。それではそれぞれ11人の小隊を組め!」

「「「は!!!!」」」


従順な部下たちはすぐさま11人のグループを作った。


「よろしい。ではそれぞれこれを授けよう。」


魔王様が右手を天に掲げると、辺りの空気が震える。

大気に存在する魔力が魔王様に集まっているのだ。


「おぉ・・・!」


魔王軍のルーキーたちはこの圧倒的な光景に畏怖と同時に尊敬の表情を明らかにしていた。


「受け取るがいい!」


そうして放たれた光球はそれぞれの小隊に放たれる。


「・・・?」


ルーキーたちは目を見開いた。


「行き渡ったであろう・・・それでは、サッカーのルールを説明する!!!!」

「「「は!!!!」」」


今日も魔王城は鍛錬。それも王自らが監修している。なんと健全でたくましいことだろう・・・


「いや、魔王様。ちょっと。」

「どうしたベルゴーン。貴様も参加したくばあと10人集めてくるがいい。」

「参加したいとは申しておりません、これはどういうことでしょう?」

「知れたこと。敵を知ることは戦略の基本。人間のことを学ぶことは重要事項だと思わんか?」

「私の知る限りでは、人間は毎日欠かさずサッカーをしているわけではないかと。」

「・・・何が言いたい?」

「遊びたいだけではないでしょうな?」

「・・・何を馬鹿なことを。よいかベルゴーン。サッカーとはいわば戦争だ。攻めと守りの交代が常に行われ、戦況をいかに読めるかが重要となる。」

「はぁ。」

「強力な兵器があったとしよう。それを手に討ち滅ぼさんと敵国を目指す。敵はそれを阻止、および兵器の強奪を行う。数々の敵をかいくぐり敵の領土に兵器を発動させることで勝利を得るのだ。だが・・・一人で敵国にはたどり着けない。仲間と協力し、兵器を受け継ぎ、勝ちを貪欲に目指す・・・その姿勢はサッカーから学べるのだ。」

「ボールをゴールまで運ぶだけですがね。」

「ふん、まぁ見ておれ。戦場は、われわれは一人ではないということを人間界の文化とともにこの若人たちにも教えてみせるぞ。」



~50分後~


「何をしている!!右が空いたぞ!!2番のサポートに回りつつ穴をつくのだ!」

「焦るでない4番よ、ボールを取られたとて取り返せばよい。前衛に2名を残しほか全軍後退、冷静にボールを奪いかえすのだ。」


盛り上がっていた。

私の支持するチームと魔王様の支持するチームがいま熱い戦いを繰り広げている。


「ぐ!」


一人ドリブルで我が軍に攻め入る魔族が一人。もう息も切れ、あきらかにふらふらしていた。


「うわ!」


魔王様の支持するチームの魔族と足が絡み、派手に転げまわった。


「ストップだ。皆そこを動くな!!」


通りの良い声を発した魔王様は観戦席から一瞬でコートに出ていくと、負傷した兵のそばで身をかがめ回復魔法を発動させた。


「ありがとうございます・・・!」

「かまわん。お前はよくやっていた。だがもっと周囲をみよ。お前は一人ではない、一人で抱え込む必要はないのだ。いいかよく聴け皆の者!戦争とは一人一人が勝利の糧となる。だが犠牲になることが糧になると思うことは間違いだ。立ち上がり、歩を進め、強い意志を曲げないことこそが勝利へのカギだ。敵の牙城だけがゴールではない、生きて叩く家の扉こそが皆のゴールなのだ。」

「「「は!!!!!!!」」」


魔王様はコートを後にしようと、すっと立ち上がる。


「すみません・・・」

「謝るでない。ここまで果敢に攻め入ったお前を誰が責められようか。だが無理はするな。これは模擬戦、チームワークを存分に学ぶがよい。」

「は!!!」

「すまぬな皆のもの!続行するがいい!」

「「「は!!!!!」」」


魔王様は姿を消すと、いつの間にか私の隣の席へもどり、優しく微笑んだ。


「いいな、人間の文化も。」

「・・・ええそうですね。」


ここは魔王城。

今日も我々はいい汗をかいている。


「後半戦は始まったばかりだ!!!戦う者、応援するもの、もちろん我も含め尽力するのだ!!」

「「「は!!!!!」」」


今年もいい兵が育ちそうだ。






後日談。

「では始めようかベルゴーン。」

「お手柔らかにお願いいたします。」


今私と魔王様は2人、コートで向き合っている。


「一本勝負だ。」

「えぇ。いつでもどうぞ。」

「それでは魔王様とベルゴーンの試合を始める。試合・・・始め!!!」


カリムが声を張り上げると同時に、私は魔王様の右側を抜けようとした。


「甘いなベルゴーン。そのスピードでは抜けれん。」

「く、ならばこれでどうです!」


私は地面を左足で強く蹴り右へ跳ね、右足でボールを進行方向へと連れ出す。


「甘いといった。」


どういうわけか、魔王様はすでに背後。ボールはもちろん私のもとにはない。

振り向いたころには魔王様はボールを蹴って走り出している。


「はぁ!」


私は反射的に肉体強化魔法で魔王様を追った。


「ほう。少しはやるようになったな。」


魔王様の左側に飛び込み、スライディングをきめる。

よし・・・ボールの感覚。確かに取り返した。

そのままの勢いで私はゴールを目指す。


「とどけ!!」


全力でのシュート。地面をえぐり、嵐のごとき風を呼び、ボールはゴールを目指す。

・・・が。


「素晴らしいシュートだ。さすが魔王軍四天王ベルゴーン。我がとめなければ城がなくなるところであったわ。」


ゴールの前で、ボールの上に立ち腕を組む魔王様。


「やはり・・・止められましたか・・・」

「まだまだこれからだ。楽しませてくれよ?ベルゴーン。」


(チームワークとか微塵もないじゃんこれ・・・)

これから5時間の間、決着のつかない試合の審判をしながらカリムはひっそりとそう思ったそうだ。


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