・校生(てんこうせい)
麦博
「点校生」
ーー目が「点」になった。
……少し違うか。いや、違わなくもないんだけど。
「点」になったというよりかは、
この
特段珍しいことじゃない。転校生など道端に落ちている軍手みたいにありふれたものだ。本当に何であんなものが落ちているのか不思議で仕方がない。
しかしーー、彼を「ありふれたもの」と言っていいのか。どう見たって普通じゃない彼を「ありふれたもの」のカテゴリーに分類していいのか。
一抹の疑問が汗となって僕の頬を伝う。
「はい、みんな静かに。えーこの通り、このクラスに
沸き立つ教室の喧騒が一気に鎮まり、クラスメイト全員の視線がその転校生に注目する。
僕も眼鏡をかけ直してもう一度彼を凝視。何かの見間違いだろうと信じていたが……うん、視力に問題はないらしい。先ほどと同じ光景だ。
「じゃ、自己紹介して」
担任に背中を押されて転校生が前へ出る。後ろで手を組みながら、すぅ、と息を吸い込んだ(?)彼は
「初めまして、『
と爽やかなよく通った声で、自己紹介を終えた。
深々とお辞儀をする転校生。
と同時にクラス全体から嵐のような拍手喝采が起こる。主に女子生徒たちから。
まぁ、無理はないだろう。
中3らしからぬスラッとした長身とスタイルは抜群のプロポーションであり、所謂イケボというものを有する彼だ。これでモテないはずがない。
……だがどうにも解せない。
何でみんなはあの結城と名乗る人物に対して何も言わないんだ? 転校生という立場を差し引いても彼の異常さは一目瞭然だろうに。
鳴り止まない拍手の中から、クラスメイトたちの声が聞こえてくる。
コイツらは一体転校生をどう思っているんだろう。耳を澄ましてみる。
「わぁ〜……モデルさんみたい。すっごく小顔だぁ」
「ねー、色黒でちょっとワイルドなあたりもポイント高いよね」
いや確かに小顔で色黒だけども。そういう次元じゃないだろ。
正確に言えば3つくらい次元が足りない気がする。
「ちぃっ! 転校生の分際でチヤホヤされやがってよ。気に食わねぇな」
「な。絶対友だちになってやんねぇ」
お前らは何で嫉妬してるんだ。
友好関係の構築云々じゃなくて、もっと大きな問題があるだろ。数学に出てきそうな感じの。
くそっ……! さすがバカの巣窟3年3組。彼の異常に気付く者が一人も居ないとはーー
「はははっ、さっそく大人気だな結城くん。じゃあ君の席は……と、あの一番後ろの席がいい」
白目を剥きかけていたが、先生の言葉で我に返る。
先生が指差す席。窓側から2列目の最後方。つまり僕の隣の席だ。
先生の指示に「はい」と頷き、徐々に転校生が近づいてくる。
……また厭な汗が出てきた。タン、タンと上履きの音を響かせ不気味なあいつが迫ってくる。
「きみ……名前は?」
席についた彼が(多分)僕の方を向いて名前を聞いてきた。
ぶっちゃけ名乗りたくのが本心だけど、隣の席ということもあるので不承不承に口を開く。
「……『
「点……! すごくいい名前だね!」
「ありがとう。できれば結城くんにこの名前を譲りたいよ。ぴったしだと思うから」
照れ臭そうに小さな頭を掻く結城くん。首がなく、制服の上にポツッと浮いた、墨を垂らしたような10センチほどの顔はまさしく『点』そのものだ。
一方の僕は頭を掻き毟りたくてたまらない。
とんでもない化け物がーー、得体の知れない転校生もとい、『点校生』が僕の隣にやってきてしまったのだから。
・校生(てんこうせい) 麦博 @mu10hiro
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