第11話準決勝(下)+2年前の真相
「優香!おい!優香!」
だがそこには優香はもう居なかった。
優香がいなくなって1時間。俺は渋谷にある俺たちの学校久山学園中等部へと急いだ。
「次は〜神泉。神泉です。お出口は左側です。」
早くしてくれ。俺は早く優香を助けないと…
あの時の俺は確かに焦っていた。今俺が行ったら優香にまた怒られることも全部わかっていた。つもりになっていただけだったのかもしれない。
「よしっ。ついた。早く行かないと!」
そう行って俺はたくさんの人でごった返している渋谷駅のコンコースを抜け、急いで久山学園へと向かった。あまりの剣幕に周りの人からは白い目で見られたが、優香のためならもはや何も関係なかった。
俺と優香の出会いは1年前当時中1で1学期の終業式の日。家から帰った俺は急に父に呼ばれ、許嫁の紹介をされた。
「優香。入りなさい。」
「はい。お父様。」
「羽矢人、これがお前の許嫁だ。これから彼女と一緒に暮らしてもらう。」
「ああよろしくな。優香。」
「不束者ですがこれからよろしくお願いします。」
最初の出会いはこんな感じでいろんな意味で冷めていた。俺も優香も家の決定には逆らえないし別に文句があるわけでもなかった。一つ言うところがあるなら優香は家事も得意でとても良いパートナーだった。これから普通に平和に暮らすんだろうそう思っていた。だが父が倒れて次の霧飛家の当主の席が俺に渡った途端に周りの親戚は俺に父の遺産やらを巡って争い次々と分家は別れていき、ついては霧飛家は俺と妹だけになっていた。ただ轟家だけは残ってくれた。そんな轟家いや優香に俺は素直に嬉しかったし本当に家族みたいに思っていた。それなのに鎌ヶ崎家は俺たちを引き裂きに来た。何度も轟家を勧誘して俺たち霧飛家を孤立させに来たのだ。ただ轟家は何度もそれを断った。2年前のあの時まで俺たちのところにいてくれた。そんな轟家を身内を誘拐するという卑劣なやり方で奪ったのは許せなかった。あのときもし家の意思というなら俺は轟家が鎌ヶ崎陣営に入っても何も言わなかったと思う。それだけ轟家の存在は大切だった。
「ついたか…」
ここ久山学園は9階建てで、3階から5階までが教室になっていてこれより上の階は鍵が必要だから、あいつらがいるのはこの三階のうちどれかであることは明白だった。
「羽矢人来ちゃだめ。霧飛家のあなたはここにいてはだめ。」
校内に入ろうとすると1人の女の子に止められた。
「綾瀬…どうして止めるんだ。俺は優香を助けないと!」
「羽矢人私たちははめられた。この学園も鎌ヶ崎に占領された。どんなに強いあなたでも無理。」
「綾瀬…お前は俺を止めるのか?」
「無論私は羽矢人に行って欲しくない。だけど言うだけ無駄でしょう?」
「ああ話が通じてよかった。それじゃあ。」
「羽矢人待って。私もいく。霧飛陣営の綾瀬家として。」
「綾瀬無理だけはするなよ。相手は鎌ヶ崎だからな。」
「うん。わかった。」
こうして俺たちは鎌ヶ崎を倒すべく校舎の中へと足を踏み入れた。
「何で。5階までくまなく見たのに優香が見つからないんだ。」
俺たちは急いで5階までをくまなく探した。6階から上は各教室に先生が持っている鍵がないと入れないため、いないことは明白だった。
「羽矢人私こんな話を聞いたことがある。この学校には地下2階があるって。」
「うちの学校は地下1階だけじゃないのか。」
「地下2階は水がたまっている貯水池があるところ。私たちはそこを探していない。」
「だけど…そんなところどうやって行くんだ?」
「強行突破。」
「え?」
「強行突破。」
そう言うと綾瀬は何メートルもの大きなバズーカを下へめがけた。
「ちょっと待て。それ危なくないか?」
「優香助けたくないの?」
「あーもうわかったよ。ドカンとやってくれ。」
「任せなさい。どかーん。」
文字どうりバズーカは地下2階と思わしき場所まで貫通させた。
「ナイス!綾瀬!早く行くぞ!」
「おーけー。羽矢人行くよ。」
そう行って俺たちは深い闇の中へと身を投げた。
「ここか…地下2階は…ん?なんか柔らかいものが…」
「羽矢人は私をナンパしてるの?」
「ええ!この感触は…ごっごめん響華!」
「羽矢人…私を名前で…」
「どうした行くぞ綾瀬。」
「羽矢人は焦らしプレイがうまい。」
「何言ってんだ?」
「なんでもない行くよ羽矢人。」
目の前には扉が一つあった。この先に優香がいる。そう思っただけで早く行きたかった。
「鎌ヶ崎!優香を返せ!」
そう言って俺は扉を強引に開け、叫んだ。
「おやおやこれはこれは霧飛家の羽矢人君ではありませんか。まあくるのはわかっていましたが…あなたが探しているのはこれですか?」
「優香!」
「なんだ図星か…それでは行きなさい轟家轟 優香。彼を倒しなさい。てことで私はそろそろ行きますかね。それでは失礼します。」
そう言って鎌ヶ崎は消えた。
「ふざけんな…待てよ鎌ヶ崎!」
「おっと今は私ではなく彼女の相手をするべきでは?さもないと手遅れになるかもですね。」
最後に聞こえたのは鎌ヶ崎の勝ち誇った声だけだった。
「くそ…どうして…あいつはいつも俺を苦しめるんだ…」
すると優香が覚醒した状態で俺を襲って来た。
「羽矢人危ないっ!」
「綾瀬!」
綾瀬は俺を突き飛ばして助けてくれた。
「綾瀬すまない…助けてくれてありがとう。優香!どうしちまったんだよ!」
「だめ。羽矢人今の優香には羽矢人の声は届いていない。このままだと優香が危ない。羽矢人は優香を倒さないと…」
「俺には…俺には優香を倒すことなんて…無理だ!だって優香は…優香は…」
「羽矢人!!」
あの時俺が覚悟を決めて優香を助けていたらきっとこうはならなかっただろうな…
綾瀬はまたもや俺を突き飛ばして助けてくれた。だが今度は綾瀬がその攻撃を食らってしまった。
「綾瀬!」
「羽矢…人…早く優香を止めて…あなたの大事な優香…を…」
綾瀬の腹からは血が吹き出していた。どっから見てもそれはもう救い用のない傷だった。
「綾瀬!おい!綾瀬しっかりしろよ!」
「羽矢…人…優香を止めないと…優香まで助けられなくなる…私のこと…は良いから…」
「良いわけないだろ…綾瀬しっかりしろよ…今止血を…」
俺は止血を急いだ。しかし恐怖や焦りで俺の手は震えて止血ができなかった。
「どうして…なんで…こうなるんだよ…くそおおおおおお。」
俺は優香に霧飛家の秘術を使ってしまった。自分の体内に仕込んである刀を相手に切らせることで取り出して刺すという秘術を。同時に優香も龍を呼び出し俺たちを炎で包んだ。そのせいで優香を見失い、炎が消えた頃には燃えて崩れ去りそうになっている校舎と静かに俺の腕の中で倒れている響華の姿があった。
そうだこの光景は忘れてはいけないはずだった。俺が二度と忍術を使わないと決めたあの出来事を。俺は一生をかけて響華に償わなければならないし、あの時俺たちから逃げることで精神を支配されているのにもかかわらず俺たちを助けてくれた優香を救わなければならなかった…
「優…香…」
俺の目からは自然と涙がこぼれた。あの時いなくなったはずの優香を目にして。
すると龍を召喚していた優香も剣をしまい、
「羽矢人…やっと思い出してくれたの?私…私ずっと羽矢人に会いたかった。やっと…」
優香の目にも涙が浮かんでいた。
「羽矢人2年前の事思い出したんだね…私もっと羽矢人のそばに居たかったな…」
「どうした響華?なんか言ったか?」
「ううん何でもない。早く優香のところへ行ってあげて…」
「ああ。」
そう言って俺は優香の方へ歩いて行った。
「優香今まで忘れててごめん。あとあの時助けられなくて…」
「いいの羽矢人。今はこうして私のことを思い出してくれて…こうしてまた羽矢人と一緒にいれることが…今はすごくすごく嬉しいよ。お帰り羽矢人!」
そう言って優香は俺の方を向いて満面の笑みで俺に笑いかけてくれた。
「ただいま優香。本当に苦しかったよな…これからは一緒にいれるから。思い出をたくさん作っていこうな。」
「うん!」
「ところで本当に辞退してよかったの?羽矢人。私たちは口裏合わせてたから羽矢人たちには決勝に行ってもらうはずだったのに。」
「えっ…?それってどうゆう…」
「羽矢人私たちは羽矢人の記憶を取り戻すために演技をしていたの。騙してごめん。」
「えええええ!?」
こうしてクラス対抗戦は幕を閉じた。優勝クラスは何と風部のAクラスだった。要するに何ともまあしてやられたわけだ。だけど今はそんなことどうでもよかった。こうして新たな俺の学園生活が始まったのだから。
入学式編 完
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