第3話 手紙


俺たち、元イベントクリエイトサークルは今、


東京にある唐草庵からくさあんなる料亭で、なかば同窓会を開いている。


懐かしの仲間たちとの再会。俺は感無量だ。

まるで、昨日のことのように、いろんな思い出があふれてくる。


よく、藤崎奈那ななさんにデレデレして、あやめに怒られたっけ。

くらがりが好きな横島よこしまに、俺が発破はっぱをかけて会話したっけ。

倉敷くらしきがバカをやったことに、笑い合ったっけ。


その倉敷の顔が・・・よく見えない。

俺は、横から倉敷の顔をのぞきこんでみる。ん・・・?


「こんばんみー!!ベロベロバァーーー!!!」


「う、うわぁぁぁ?」


俺はびっくり仰天ぎょうてん。倉敷の声にひっくり返った。

室内に、みんなの爆笑がこだまする。


「んも~、びっくりするじゃないか、心配かけやがって・・・」


「すみませ~ん先輩。久しぶりーってことと、出所記念に、サプライズを・・・」


「・・・相変わらずだな。倉敷」


倉敷が元気で何よりだった。罪は、洗い流して明るさだけが残ったか。


―――倉敷充は、俺が大学在学中に、問題を起こしたのだ。


サークル仲間と親睦しんぼくを深めるイベントなる、サークル合宿で軽井沢かるいざわへ行ったとき。


旅館で、彼は部員だった大島と、山本を殺してしまった。


彼は、純粋で、明るくて、気のいいやつだった。そいつを突き動かしたのは、


大島たちが倉敷の恋人を間接的に殺したことだった。


悲しい勝利だが、俺の持ち前の脳波のうはを使い、真犯人の倉敷までたどり着けた

のだった。


そして、5年の刑期けいきを終えて・・・倉敷は帰ってきた。

不思議と、違和感はなかった。


そのめぐる想いをさえぎるように、顧問の山縣やまがた先生があいさつを始める。


「えー感傷にしたっているところ悪いが、諸君しょくん


いま現在、就職して日夜にちやはたらき、お疲れのところ同席していただき、


まことにありがとう。」


元部員たちが拍手をする。もちろん俺もだ。社交辞令だがね。


「えー、しかし、これで全員でないことは残念だ。


集まっていない者も居る。諸々の事情で出られない、ということで


部長をつとめていた平手ひらてくんがいない。」


みんな周りを見回す。わかっていても、確認してしまう。


「この席には出られない、ということで・・・えーじつは、


わたしは彼女からお手紙をあずかっています。」


ええっ・・・・と一同いちどうがどよめく。


ひら手紙てがみだーーあはは。」と、倉敷がジョークをとばす。


「えー藤崎くん。」「あ、はい」


なぜか、奈那さんに手紙を朗読することを指名する先生。

奈那さんは、おそるおそる手紙を広げて、読む。


「よみまーす」


――――――――


イベントクリエイトサークルの皆様へ


今回、同窓会への誘いをお断わりさせていただき、まことに恐縮きょうしゅくしています。


でも、今は子育てに専念していと思っています。


私事ですが、今、わたしはとても幸せな家庭をきずいています。


主婦として、家事を放り出して土台どだいをくずしたくないのです。


両親に子供をあずけて出席して、みなさまの輪に入るのもいいのですが、


わたしは所詮、社会に出て働いていない身分。社会へ出て働いている人たちの


日々のねぎらいに、みずをさしたくありません。


そういう人たちだけで、ぜひ楽しんでいただければ、と思います。


最後に、イベントクリエイトサークルの伝統を、


これからも在校生に引き継いでいただけますように。


最後に、峰岸良太部長、起業おめでとうございます。


                 I・C・C副部長 平手ひらて茉莉まつり


――――――


奈那さんが読み終えると、今一度、拍手喝采かっさいがおきた。


「そういうことだったの・・・」

「平手さん、結婚していいお母さんになってたんだね」

「平手さんなりの考えを聞いて、安心した。彼女の分も楽しみたいと思った」


と、さまざまな声が流れ、ちょっとした”平手ロス”となった。


「では、イベントクリエイトサークルの未来を祝い・・・峰岸くんの起業を祝って乾杯!」


カンパ――――――――イ!!!!


カチンカチン、とビールをついだグラスをいい音立てて合わせた。


今日は仕事なかったけど、これを飲むと、このために生きてんなーって感じがする。

平手副部長、すみませんがませていただきます。またいつか。


そして、これからのだいプロジェクトに幸あれ、と願って飲む。


仕事の合間にするのも悪くない。どうせヒマだから・・・・なんて

野心やしんが芽生えた。


だが、俺はおそらくこの仕事を手伝うことにしたのを、あとあと後悔

するだろう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る