思想と信仰の蛹の色は。

色彩フラグメント『蛹肌』





 螺鈿模様アイオーンの刻と螺旋状アイオーンの雨を経て、唯の木偶に仮染の意志が宿る間際、「さて剥き出しの血管の中央にも見栄えある心臓コアを据えよう」と云う話になった。


 議会はものの見事に満場一致。つまりそれは科学者達究明者の積年の総意であり、燦然と輝いていたいにしえの太陽のように煌めいた寓話を連想させた。


 夜明けを望むこの決断は神像が神像を脱却する為の試みとも云えたが、究明者達科学者の概ねが純白な無神論者であったが為に、斬新な試み自体に幾許かの矛盾を産み付けやがて忌避出来ぬ葛藤を孵化させた。


 れどいただき近くの禁猟区にいて、残された時間は余りにも僅か。究明者老人達の誰しもがもう永い間まともな食事を摂っていない。骨と皮だけになれば人体の生命活動が自ずと止まるのは明々白々である。「我々の枯れ木のような脚では霊峰も下れまい」と零した、誰よりも深い皺を額に刻んだ老人の独り言が議会の終了を告げる合図となった。


 嘗ての文明の残骸パルナッソス。折り重なった無数の瓦礫を刳り貫いて造られた聖堂に、巨躯アポロンに酷似した宙吊りの木偶は在った。彼の伽藍堂に据えられる硝子張りの動力源も、やはり一柱ひとはしらアポロンのように煌々とした紅蓮を宿していた。心臓コアの内部は縮退炉を模した構造を持っていたが、果たしてその真理を説ける者がその場に何人居たことか。


 兎も角、木偶の伽藍堂に何らかの絡繰りを据えようとした正にその瞬間だ。

 何処からでもなく、そして誰からでもなく言葉は発せられた。


 とどのつまりこれが、二十一グラムの意志の降臨せかいのはじまりの瞬間である。


「今こうして美しき肉塊を眺めるお前達が放つ腐臭が、楽園に存在してなるものか。老いさらばえた醜いその肉塊を洗い清める為に、未来永劫アイオーンの歯車の中にお前達を導いてやろう」


 零細の静電気を憑代よりしろにして、お伽噺世界神話が幕を開けた。煉獄の狭間で転生を繰り返す我々の始まりは、胡蝶の夢のように掴み所の無い物語だ。


 今晩、君の鼠径部に顔を埋めながら私は、果たして今が正しく今晩で在ったのかと究明を始めている。斑色の性の中で次なる生命を育みながら、果たして私は宙吊りの木偶世界神話では無かったのかと。






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