蟲喰う心臓の艶。
色彩フラグメント『琥珀篝』
──断罪の使者よ。その象徴よ。半刻ほど前のあれは、ほんの出来心だったのだ。今すぐに俺を懺悔の部屋か、もしくは牢屋にでもぶち込んでくれれば良い。告解の機会さえ与えてくれれば、きっとその炎も鎮まるであろう。
彼の思考がそんなふうに──まるで炎のように身勝手に燃えて移ろう間にも、逃避行は続く。
すると次の一歩で、踏み固められたはずの石畳がぐにゃりと歪んだ。それは"
がいんがらんと爆ぜるような金属音を奏でつつ──男は転倒する。
震える空気に共鳴するように、無数の羽虫を想起させる二つの
──このまま焼き焦げて壁画となるか。
男の耳には玲瓏な声。大型船の操舵輪のような姿形の
──このまま焼き焦げて壁画となるか。
もう一度、同じ
「あ、あの燭台なら、まだ俺の手元にある──。翼竜の彫り物があんまりにも見事だったものだから、つい──本当に済まねぇ。必ず元の場所に返す」
未だ腰に
──貴様がこの暗渠の
「で、出来心なんだ。いつだってそう、出来心だ。計画的に盗ったことなんて一度も無い。育ちの悪さが魂にまで染みついてんだ。これからは必ず改心するよ」
冷たい脂汗が男の背をつるりと滑り落ちる。憂きに身を窶した半生を振り返りながら、一体何処で悪行に零落したのかと記憶を巡らせた。
──名を。貴様の名を。
彼の名を問う
だから──だからこそ。
今この瞬間こそ、彼が待ち侘びた告解の機会だということに、気付けなかったのだ。
「アレクサンドル──アレクサンドル・ティセリウス」
彼の口から聖騎士の名前が語られたその瞬間──全てを焼き払う煉獄の業火が、エーギルの身に放たれた。それもまた、"
躰中で産声を上げる灼熱の中で、エーギルはその声を聴く。
──不浄なる者よ。偽りの身を焼き清めよ。
エーギルがかつて
焦げた血肉からじゅうじゅうと垂れゆく不浄なる脂の色もまた、蟲入り琥珀のような悍ましさを以て栄華の地下を巡る暗渠の流れに混ざっていくのだった。
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