月を染める物語〜ラズベリームーン、ラベンダームーン、ブルームーン〜

蓮弥

第1話

鈍色の

切れ目から光が差す。

鈍色という憂鬱さはその陰だけの

模様ではなく陰はやがて陽として

光るためにあるのだ。

しかし

存在はそれを知らない。

奥底を見ようとはせず、

ただ鈍色の欝蒼だけに気を止める。

双璧の愛は悲しみと哀しみが

濡れた翼をなぞる風のようにして

胸を焦がしながら

なぜ愛しているのかを思い知らせる。

悲しみは愛するが故に

哀しみは燻る熱を放出する

ために。


月は存在が染める。

あの色は

その瞳により光の揺らめきを

変える。


存在の愛が

月を染める。





神の言葉は銀杏の木の下で

時折、静かに降る葉を

待ちわびるようである。

不可思議な気持ち。

存在として地を歩いたことがない

のに、その感覚を持つ。

かつて、ずっと遠い日、

存在し、神の言葉を待ちわびた

のだろう。

おそらく、東屋から激しい雨を

眺めながら。

おそらく、神を祀り、祈りながら

書を開き、幼子の頭を撫でながら。


しかし、

神は今や、

地上で言うところの

ボス、

その閃きゆえに

しもじもは奔走する。


あの時、

神は呟いた。



月が染まるのが見たい。

久しく見てはいない。

蒼白い光ではなく

金色の圧倒さでもなく


存在が

その心が染める月の色。


紅帯びた

愛と夢


官能の朱。


月を染める存在を

補佐すること。


月を染めるために

ガイルは

地上に降り立つ。


ガイルは

東洋の目と

肌と髪を持ち。


その姿を路上に止まる

黒い車のボンネットに

反射する光が鏡となって

映るのを食い入るように

見た。


細面の顔、鋭いながら

少し疲れた目、

前かがみ気味の姿勢。

モッズコートは良質であるが

着込んでいる。重めの黒いブーツ。

まるで繋がれたように

体を引きずるようにして。


ガイルはコートのポケットに

手を入れ、11月の風の中を

歩く。


風景はまるで

パラパラとめくる

まるで映画を見ている

ようにして変わりゆく。


これが

歩く、という感覚。

鎖骨の辺りにつれるような

痛みがある。

寝癖のある部分の髪を手で掴み

それを何度も撫で付けるように

する仕草が不器用で滑稽

であることにガイルは気づかない。

体がある、という存在を

久しく知らないからだ。


空はまだ

青さの色に塗られていた。

今日の雲は散りばめたような

繊細さを醸している。


ガイルは

少し考え込んでいた。

月を染める存在、

果たして。



人の想いは交錯し

生温く宙を舞う。

鳥はその生温さを切り裂く。


カラスは

もはや、存在に憑依され

油の匂いのするクチバシで

蝕むような甘い

食べかけのパンをつつく。



おやおや。


ガイルはカラスに言った。


黒い目でガイルを見ると

一瞬、動きを止めたが、

また、甘い香りに顔を

埋めた。



存在は

夢のような食べ物を

夢だと思って喰らう。

しかし

それは架空の化身。


ガイルはため息をついた。


神の愛し子である存在たちの

自某に満ちた数々を眺める時、

自分の無力さに苛まれる。

神の補佐役としての無力さを。

















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