レッツ! カラオケbattle! 3

「よっしゃ! 次は俺だぜ!」

 落ち込む二宮の隣で、意気揚々と立ち上がりマイクを握るのは田月である。

「ショータ、結構歌うまいよね。音楽の授業とかで聞いたことあるけど……」

「まーな。歌には自信あるぜ!」



 ガッツポーズを決める田月の後ろで、画面に映されたタイトルは、国民的映画アニメの主題歌。

 そうか、私もジ●リ歌えばよかったんだ……と気づく二宮。何故思いつかなかったのか、と思う反面、田月のその選曲に嫌な予感がした。

 たしかその曲は、田月の十八番オハコである。それは不登校時代、二人でカラオケに通いつめた時に何度も聞いていた。

 だからこそ知っている。その曲は――。




「じゃあ歌うぜ……『さ●ぽ~替え歌バージョン~!』」





 五分後。

 田月が歌い終わった時、二宮と田月を除くメンバーが死体のようにソファで転がっていた。

 息も絶え絶えに、シャルルがなんで、と呟く。

 そして一気にまくし立てた。


「なんでしょっちゅう転んだりトンネルで頭ぶつけたり蚊にさされたり川に落っこちたりさせるのさキミは――!! 鬼か――!!!」

「子どもの冒険が無傷で済むわけねーだろうが。転んだり頭ぶつけたり蚊に刺されたり川に落っこちたりすることで成長すんだよ。大体! キツネはエキノコックスが怖ぇんだよ! 出てくんな!」

「子どもの世界につまらんリアルを求めるんじゃないよ! 巨匠とファンに怒られろ!」



 そうこう言い争っているうちに、出てきた点数は91点。



「なんで一番高得点なの⁉」

「まあ、音程結構正確だったからな」と佐藤。機械は基本音程重視である。



 コメントは『リズムが少しもたついています。まあそれ以外は大体いいんじゃない? 音程は正しかったです』。



「歌詞については⁉ あの酷い替え歌についてはッ⁉ っていうか今までで一番コメントやさしい!」

「機械は歌詞気にしないからなー」田月はどや顔で答える。

「まあ、機械だしね……」



 唯一この替え歌に耐性があった二宮は苦笑いを浮かべる。

 これは実はすべて田月が替え歌したのではない。もとは小学校時代に流行っていたものを、更に田月がアレンジしたものなのだ。

 ……そして当時、二宮も意気揚々とこの替え歌を歌っていたことは秘密にしておく。



「……認めない。ぼくはこんな歌を歌とは認めない!!」



 先ほどまでふらふらと頭を揺らしていたのに、意識を取り戻したのだろうか。ぐわっとシャルルが目を見開き、立ち上がったときには毅然としていた。


「歌っていうのは、もっと素敵で心に響くものなんだ……小手先ばかりで歌詞の意味を考えない歌なんて歌とは認めない!!」


 彼の気分の高揚に合わせて、次の曲のタイトルが流れる。



「見せてやるよ――ぼくのジ●リを!!」



 彼の金髪が冷房の風によってなびく。

 息を吸い込んだ瞬間――。





「ポテトお持ちしましたー」

『わっ!』



 ガチャ、と扉が開かれるのと同時に、フライドポテトの皿を持った女性の店員が入ってきた。

 マイクで通したシャルルの声が、肉声と重なって部屋に反響する。

 誰も反応できない間、カラオケのメロディだけが流れ続ける。

 最初に口を開いたのは、二宮だった。



「……あの、頼んでません」

「え⁉ あ、失礼しました!!」



 自分の失態に慌て、顔を赤くした店員はすぐさま部屋を出た。

 三秒後、シャルルはさっきの毅然とした顔とは一転して、どこか諦めたような顔で続きを歌い始めた。一般の男子高生よりも少しだけ高い声は、しかし深みのある良い声である。


「……良い声だねー」


 感嘆の声を上げたのは緑川である。隣で二宮も頷いた。

 替え歌はともかく、田月の歌声も素晴らしかった。田月の音域も広い方だが、地声は大分低い方だ。そして大分力強い。女性ボーカルの歌を歌う場合、シャルルの方がより無理がなく、なめらかな歌声である。

 女子二人はその心地よさに暫く身を委ねようと思い――。




「……あ、俺腹減ったわ。ポテト頼むけど、他に頼みたい奴いる?」

「「今このタイミングで⁉」」



 それを真顔で田月がぶち壊した。

 丁度間奏部分だったシャルルは『ぼくの歌聞けよ!』とマイク越しで訴えつつも、



『ぼくパフェでお願いします!!』

「注文するんだ⁉」


 ちゃっかり注文するのであった。

 ちなみに点数は89点。コメントは『最初ボロボロでした。出だしで緊張しすぎだし落ち着きなさすぎです。もっとメンタル鍛えなよ』という性格をダメ押しされるものであった。

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