アネさん探偵と小学生 4
「それ――着ぐるみのことだね?」
「……はい」
カズオの是を見届けて、おー! と店長が感嘆の声を上げた。
「よくわかったねー、アンネちゃん!」
「商店街でよく首が落ちるものと言えば、って思ったら、ピンときたんです。この間、商店街でお祭りがあって、着ぐるみとかもウロウロしていたし」
更に、「人間なの?」と尋ねた時、彼は何も答えなかった。
着ぐるみの中にいるのは人間だ。けれど、顔が落ちたのは「着ぐるみ」の首であって、人間の首ではない。何を持って「正体」とするか、定義の境界線が曖昧だ。だからカズオは、「それは人間か」という答えに、イエスともノーとも答えられなかった。
そして、着ぐるみだと思いついた時、なぜ彼が嘘をついたのか納得した。
シオちゃんは、妖怪といったオカルトチックなものが好きな女の子だという。となれば。
「シオちゃん、着ぐるみに中の人がいるってこと、知らないから……」
「シオちゃんの夢を壊さないようにするために、嘘をついたんだね」
カズオ少年の証言によると。
商店街で祭りが催されていたので、近所に住むカズオ少年とシオちゃんは、二人そろって遊びに行った。その時、アーケードにいた人型のマスコットキャラクターを模した着ぐるみが、テッシュと風船を配っていたのだという。そして運悪く足を滑らせた着ぐるみは、そのまま転び首が転がった――。
「アーケードの空気が凍りました……」と、カズオ少年。その場に居合わせた子供たちの夢は、打ち砕かれた。
幸運だったことは、その時シオちゃんは隣の広場で行われていたアニメのショー(日曜朝にやっている幼女向けアニメ)に目を奪われ、首が転がるところを見ていなかったこと。カズオ少年は、着ぐるみの中に人がいることは知っていた。……生首みたいな着ぐるみの顔が自分の足元まで転がってきたことには、少々ダメージを受けたが。
「しかも結構リアルな顔なんです、お腹も出っ張ったデザインで、まるで脂ぎったおじさんとリスを足して2で割ったみたいな……誰が作ったんでしょうか、あのマスコットキャラ」
『混ぜるな危険』という言葉が、二人の頭に浮かんだ。
しかし、カズオ少年の試練はここからだった。ショーが終わった後、空気の読めない中学生男子の二人組が、『ちょww まじであり得ねえww 着ぐるみの首が落ちて新しい顔が生えたわww』『ついでに草が生えるww』と言いながら小学生二人の傍を通り過ぎた(台詞表記は二人の個人的なイメージです)。それをバッチリ、シオちゃんは聞いてしまった。
『どういうこと?』と尋ねてきたシオちゃん。着ぐるみの顔が転がってきたショックと、『ここはうまく誤魔化さねば』という使命感が混ざったカズオ少年は、とっさに、
『あ、うん! 首が落ちる妖怪がでたんだ!』
と、答えた。
そして、とっさの嘘は、尾ひれがついた噂として瞬く間に広がってしまったのであった。
……尾ひれっていうか、最早翼が生えているよね、と聞いていた二人は思った。
(うーん、見事に起承転結が完成している)
カズオの話を聞いた二宮は、内心ちょっと感動した。そんな出来事、生きているうちにそうそうない。と、二宮は思う。
そして、彼の嘘をついた経緯を聞いて、改めて納得した。
(人の注目を浴びたくて、つい嘘をつくってことは結構あるけど、この子の場合、そんな感じがないんだよね……)
二宮が知っている限り、小学生ぐらいの子が他人の気を引くための嘘をつく場合、得てして口数が多くなるし、表情もずっと笑顔なのだ。
(『言いたい』っていう感情が前に出ちゃうっていうか……今は言っちゃダメって思う時ほど、つい言っちゃうのはなんでだろ)
近所の小学生の場合、せっかく嘘をついても色々余計なことを喋って、最後は全部白状していたりする。秘密を黙っている、というのは、人間にとってかなりのストレスらしい。
けれどカズオは、無口のまま、顔も強張ったままだった。それも、黙っていればその場を乗り切られるというより、喋る言葉を注意深く選別している様子だった。
二宮は、思慮深く考えるカズオが、そんな稚拙な嘘をつくとは思えなかったのだ。だから、『どうしてそんな嘘を?』と尋ねてしまった。
あのタイミングで言うことじゃなかったが。そこは反省。
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