レッツ! 体育祭 2

 一方、『女子の部騎馬戦』を観戦していた紅組。

 二宮杏寧あんねは、クラスメイトの緑川エリと喋っていた。


「二宮さん二宮さん。口、開いてる」

「はっ! うっかり」

 緑川に言われ、二宮は慌てて口を閉じる。

「まあ、こんな景色見たらそうなっちゃうよね」

「うん……私去年は参加できなかったら、ビックリしちゃった」

「そうなの?」



『紅組チーム強い、強いです! まるでマカダムローラーのような傍若無人さです! 相手の騎馬ごと踏みつぶしていきます! 戦争にルールなんて無用、力こそが正義という姿勢はさながら「がらが〇どん」だぁ!』



「去年は休んでいたから」

「そうなんだ……。それなのに大丈夫だった? ごり押しで頼まれたんでしょう?」



『一方白組は、さながらショベルカーというところでしょうか! 無駄に組み合わず、上からハチマキをピンポイントでとっていきます! おおーっとここでロボット部がマジックハンドを動かしているぞぉ! しかしあっという間に紅組に落とされたぁ! そりゃそうだあんな重たいものを背負って持っていたら! お前ら一体何がしたいんだ――!!』



「う、うん。今もまだ心配だけど……今回は、出来る限り体育祭に参加したいの。その為に練習してきたんだし、頑張りますっ」

「ごめんねー。チエミが無理に推したから……あの子演劇部の部長になった途端ブレーキ効かなくって」

「ううん、誘ってくれたことはむしろありがたかったから! 緑川さんもありがとう。障害物競走に誘ってくれて」

「そんな、お礼を言われることじゃないよ。私、二宮さんを誘いたかったんだ。ね、杏寧あんねちゃんて呼んでいい?」

「うん! 私も、エリちゃんって呼んでいいかな?」

「いーよ、むしろ呼んでくれて嬉しい」


 エヘヘ、と障害物競走次の競技の控え場所で笑いあう二人は、実に微笑ましかった。



 しかし背景BGMが最悪だった。



「おいこら白組――!! 負けたら承知しねーぞーッ!!」

「白組ぃぃ! ここで気張らないとぶっ殺すからねェェ!!」

『アナウンス部、煽る発言は止めなさい! 応援席も、公衆の場であることを弁えた応援をしなさい!!』


 実況する天衣無縫なアナウンス部と、観衆の脅迫じみた応援に、とうとう教師からの注意のアナウンスが入る。が、狂気じみた歓声は教師に抑えられるものではない。


「……でも、この熱気を見ると、ちょっと自信なくすかも」

「大丈夫。騎馬戦終わったら、皆疲れて静かになるから……」

「ああ、だからプログラムの最初なんだ……」


 周りのテンションに乗り切れない二人。顔には縦線が入っている。

 更に注意した教師も、


『おいこら紅組ぃぃ!! 今の反則だろぉぉがぁぁ!』

『うるせー白組!! 試合止めたら容赦しねぇからなぁぁ!』



「先生たちがマイク越しでケンカしてる……」

「外部の人たちから、うちの学校の品性疑われそうね……」


 そんなこんなで、女子の部の騎馬戦は紅組の勝利だった。





 次は障害物競走である。と言っても、競技の内容は二人三脚と借り物競走の要素が含まれたものだ。

 まず最初に、二人組で一緒に走る。網をくぐり、バッドで十回グルグル回った後(スイカ割りの前にするあれ)、配置されたコーンの周りを一周し(大抵うまく回れずコーンを倒す)、テーブルに置かれた三つの箱から指令の紙を取り出すのだ。

 三つの箱は、「誰が」「何を着て」「どうする」と言った指令が入っている。

「誰が」は教師の名前が、「何を着て」は用意された箱からコスプレ衣装を取り出し、指定された先生は。そして、係の人がいるところまでコスプレした教師を連れて行き、コスプレした教師は「どうする」の箱から取り出された指令を行う。見事お題を達成したら、教師を連れたままゴールまで走る――と、いったい誰が考えたかわからないゲームである。



 二宮と緑川が引いた指令は、「武田先生(体育教師)」「姫のコスプレ」「自作の曲を歌う」だった。


「武田せんせー! お願いしまーす!」

「俺かよぉ! しかも姫⁉」


 身長183センチ体重72キロのいかにも「男性体育教師」な武田先生は、やはりと言おうか服のサイズが合わなかった。ピンク色のドレスのファスナーが腰から上がらない。仕方がないのでそのまま走ることになる。


「先生大丈夫ですか⁉ 裾踏みませんか⁉」

「大丈夫だ二宮! 出来る限り地面を擦るように歩けば!! これぞ噂のゴキブリ走――」

「金髪のカツラ似合ってますね意外と!」


 武田先生が言い終わらないうちに緑川が遮った。一体この教師は何を言い出すんだ。

 テンションが高いまま――というよりテンションを上げないとやり通せない無理難題をこなし、係の人に「どうする」の指令の紙を渡す。



「はい、では『自作の曲』を歌ってください」

 朗らかに笑って告げる係の人。

 マイクを持った武田先生は、少年のような純粋な笑顔で言った。


「それでは聞いてください……。『武田鉄太郎の浪花節 第一章』!」


「先生それどれぐらいの長さですか⁉」

「サビだけでいいと思います!!」


 危うく長時間のリサイタルが行われそうになったが、二宮たちは見事二位を獲得した。

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