レッツ! 体育祭 1
明昌高校の体育祭は、五月に行われる。
近頃の私立高校は自由選択競技のみで行われるところも増えたようだが、明昌高校もその一つ。しかし、「半分以上の競技に出ると商品券がもらえる」という特典付きのため、生徒たちはこぞって参加するのだ。
チームは紅白で分けられる。二宮杏寧が所属するA組は紅組、田月翔太が所属するB組は白組だ。
明昌学校の体育祭は、珍しいことに『騎馬戦』から始まる。
「ウオオォォォ!!」
「ぎゃああコワイ!」
「田月怖ェェェ!!」
校庭の真ん中で組み合う男子たち。その中で、田月翔太は騎手として戦っていた。
身長165センチ。男子としては低身長ゆえに選ばれたのだが――田月の鬼気迫る攻撃に、敵はおろか味方すら圧されている。……興奮する試合の中、断末魔のような声が聴こえたのは気のせいだろうか。まあ、けが人は誰一人出なかったのでよしとしよう。
騎馬戦は三試合行われたが――どの試合も、最もハチマキを奪い取っていたのは田月だった。
「よ、お疲れ様」
「おー! 佐藤、シャルル。どうだった、俺の雄姿!」
大量に奪い取ったハチマキを掲げ、朗らかに笑う田月。
一方、彼の友人である佐藤とシャルルは、視線を微妙にずらして言った。
「……なんていうか、生首を手でもぎ取る武者って感じだった」
「ぼくは13日の金曜日に暴れるジェ〇ソンのように感じた」
「そこまで殺伐としてたか?」
本人は自覚なしだが、競技中の彼は、体育祭に出すべきではない凄みを放っていた。
勝負事には手を抜かない。それが田月翔太という男である。
「でもさ、俺はまだましなほうだろ? ほら」
田月の親指が示されたものは。
「オラアアアア!! よそ見すんじゃねえぞアバズレェェェ!!」
「なによカマトトォォォ!! お前なんて××――!」
「あんたこの間あたしの彼氏寝取ったでしょうがああ! 積年の恨みはらさでおくべきかァ――!!」
「たかが二か月付き合ってただけでしょーがぁぁぁ!」
互いに互いを罵りあいながら組み合う、女子の騎馬戦だった。
……な、俺なんかまだかわいいだろ。
怖すぎでしょここの女子。
元女子高だからな、仕方ない。
女子の騎馬戦を観戦する、男子たちの目は死んでいた。
先ほどの男子の部よりも怒声が響き渡る。砂埃が舞ったせいで、観客の口内は砂でまみれた。騎手の一人が上から落ちて、待機されていた救急車に運ばれたが、軽いねんざで済んだようだ。手当てされた後、なんてことなく応援席へ戻っていく。
元女子高あるある。騎馬戦は男子より女子の部の方が激しい。
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