アネさん探偵と盗まれたもの 4

「いやでも、おっさんがひでーことは変わらないじゃん。現役学生に詰め寄ってあんなこと言うなんて、ものすげーガラ悪いじゃねえか。お巡りさんのすることじゃねーぞ」

「い、いやだって、格好も動きも怪しかったし……それに高校生なら、そんな化粧しないで、もっと高校生らしく素顔で」

「地顔です……」

「誠に申し訳ございませんでしたぁ!!」


 腰をきっかり九十度に折り曲げて謝る巡査に、二宮は「大丈夫ですよ」と乾いた声で言った。


「『私、制服が似合わないんじゃなくて、学生にすら見られないってことなんだなあ☆』って思っただけですから……」

「いやでもよく見たら確かに若さが――」


「まあ、それはいいんです。それより、自分の道をしっかり決め、真面目にしっかりと働く風俗嬢だっていると思います。先ほどの発言はそういう差別的感情から来たわけではないかもしれませんが、誤解される可能性はあります。憲法上ではちゃんと職業選択の自由が保障されているのです。警察官という権力を持つ人だからこそ、そういう発言は考えておっしゃられた方がいいと思いますよ……」

「あ、はい」


 職質され、逆に説教する二宮は中々図太い。そう田月は思った。


「というか二宮、どーして急に飛び出したんだよ。ほら、本」

「いやそれが実は……って、ひょっとして田月くん代わりに払ってくれたの⁉ ごめん、今すぐ返すから!」

「いーよ後で。それで、何があったんだ?」


 説明を促され、二宮はつっかえながらも出来事を述べる。本屋で万引きらしき現場を見たが、犯行そのものは死角になって見えなかったこと。追いかけたがどうすればいいかわからず、そこで巡査に声を掛けられ、結局見失ってしまったこと。

 二宮の説明を聞いた二人は、「なるほど」と揃ってうなずいた。


「……って、あんたのせいじゃねえか! 万引き犯見失ったの!!」

「いや、でも犯行現場は見てないんだろ? それでトートバッグを持っていたからって、飛躍しすぎてるんじゃ……」


 巡査の言葉はもっともである。だからこそ二宮も躊躇ったのだ。

 これからどうするべきか……そう考えた時、田月が言った。


「まずは店長に、本の数が合っているか、聞いた方がいいな」

「話聞いてたか、ボウズ?」

「ボウズじゃねえよ、俺も高校生だよ」


「万引きがあったにせよ気のせいにせよ、お前ら高校生の出番じゃねえ。さ、さっさと家に帰りな。これ以上やるんだったらストーカーなんちゃら法じゃなくても、青少年の健全なんちゃら条約で交番に連れてくぞ」

「お巡りさんがそんなふわっとした名前並べていいのかよ? つーかまだ六時だぞ」

「でもお巡りさん。本を読む人は、大きい本をあんな乱暴に扱ったりしません」


 二宮が二人の会話を遮る。


「女性が立っていたのは、図録や図鑑のコーナーでした。図録も図鑑も、とっても重いです。ですから、しっかり持たないと破れてしまいます」

「いや、でもなあ」

「それに、ああいうしっかりとした本は、紙も上質です。うっかりすれば、自分の指を切ってしまいます」


 否定的だった巡査が、二宮を見た。


「ちょっとした切り傷といっても、紙で切れた傷はとっても痛いです。それなのに、そんな適当に持てますか?」

「……それは、そうだが。だけど君の説明では、どれくらい乱暴に持っていたかはわからんし」

「じゃあ本屋で確かめてみよーぜ」

 田月が言った。


「その万引き犯かもしれない奴は、見失っちまったんだし。現場で事件は起こってるっていうだろ。監視カメラにでも映ってかもしんないし」

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