ショタくんと理想の結婚相手 2

 ポツリとシャルルが呟いた。


「そういえばショータの弁当って、ショータが作ってるんだよね」

「ええ⁉ ホントか⁉」

「そうだけど?」


 田月の机には、巨大おにぎり二個と、からあげやらほうれん草のごま和えやら入った弁当箱が広がっている。


「まあ、基本おかずは冷凍食品だけど。からあげは朝に揚げた」

「それにしたってクオリティ高ッ! 色彩悪くねえし、つーかお前からあげ作れるんかよ!」


「というか、基本は俺が全部やってんぞ? 家事」

「はぁ――――ッ⁉」

 シャルル以外のクラスメイト全員(女子含む)が、一斉に立ち上がって叫んだ。


「家事全部やってんの⁉ 女子力高ッ!」

「はぁ? 別にこんなの女子力じゃねえだろ」

「え、なんで? 一人暮らしなの?」

「んにゃ、ばあちゃんが一人。じいちゃんもいたけど死んだし、母親は海外転々としてるからほとんど帰ってこないし。でもばあちゃんには棚みたいなところは高いし、逆に床に近いところとかは低すぎて家事とかできないから」

「え、えらーい!」

「そうか……? ギックリ腰とか骨折とかされちゃ、困るの俺だし。うち車ないから、救急車呼ぶのはちょっとっていう理由なんだけど」

「え、お母さん海外にいるの⁉ お仕事で⁉」

「仕事っつーか……発掘家? 冒険家? 自由に生活してるっていうか」

「あー! もしかして田月唱歌しょうか⁉ 深夜テレビに出てるッ⁉」


「なんか話逸れてないか……?」

 嵐のように女子たちの質問が田月に押し寄せる。佐藤が申し訳程度に話の軌道修正を試みたが、興奮する女子たちには届かなかった。彼はパワーに負けた。

 明昌高校は元々女子高、今も女子生徒の方が比率が高い。そもそも、こういう状況で男子は女子に敵わないのである。


「ねえ、さっき、『働く女』がタイプって言ってたじゃない? なんで?」

「タイプっていうか、必要最低限の条件っていうか。もっと言うなら、好きな仕事を一生懸命している奴がいい」

「好きな仕事をしてるなら、お金が少なくても、家事する時間がなくてもいいの? 前者はともかく、後者の方は、普通男の人は嫌がるんじゃない?」




「? 金も家事も足りなかったら、俺が補えばいいだろ?」




 ……ほ、


(惚れてしまうやろぉ――――ッ!!)


 全員の心の叫びが一致した(男子含む。ただしシャルルは除く)。



「いうほど簡単じゃねーだろうけど、まあ別にすべて完璧にする必要もねえし。外注ハウスキーパーできるし、金も色々どうにでもなるだろ……って」


「私今から英語猛勉強する。絶対にキャビンアテンダントになってみせるッ!」

「わ、私はバリバリのプログラマーになる! 家庭も仕事も、どちらの幸せも手に入れてみせるわッ!」

「お、俺……自分の小ささを知りました。師匠と呼ばせてください」

「はッ。今までかつてないほど胸のときめきが……まさか、これが恋か!」

「シャルルぅぅ! フランスって同性婚出来るのかッ⁉ 出来るよな⁉」

「できるよ。ぶっちゃけ同性だろうが異性だろーが同棲するカップルが多いけど」


「カオスだ……」

 すぐに我に返った佐藤は、この意味不明なまでの熱気が漂う教室を見て呟いた。が、誰の耳にも届かなかった。

 所詮世の中は、多数の人間マジョリティーで回っているのである。

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