ショタくんと理想の結婚相手 1
「ぼくの理想の結婚相手? ……そうだね、料理する女の子かな」
A組所属の二人の女子が、B組の井上シャルルのところに来て、「理想の結婚相手」について尋ねたところ、井上シャルルは淡く微笑んで言った。
黄色い悲鳴を上げながら去っていく女子。
シャルル、田月と同じ席で一緒に食べていた佐藤(野球部)は、彼女たちがいなくなったのを見計らって尋ねた。
「……フランスでも、やっぱり料理上手な子がモテるのか?」
「というか、料理する子っていうのが、もう絶滅寸前かも。シェフとかパティシエとか料理評論家目指す子はともかく」
「専業主婦がまだ存在する日本だって、冷凍食品とかお惣菜とかが多いしなあ……たしかに珍しいかもな」
「まあ、好きな子と結婚できるのがいいし、本当はタイプとかないけどね。でも彼女たちは、明確な答えが欲しそうだったし」
「モテるって大変だな」
佐藤がそういうと、聞き耳を立てていた別のグループの男子が割り込んできた。
「でもさー、女っていいよな。専業主婦っていう道があるんだから。働かなくていいんだろ?」
「どうだろ……今、女性の社会進出って言ってるし、俺らが働く頃には意外となくなってるんじゃないか?」
「俺、専業主婦がいーなー」
「お前が主婦になるのか? 主夫じゃなくて?」
「ちげーよ性転換しないといけねーじゃねーかつーかセリフ中の漢字のニュアンスなんてどうやってわかるんだよ小説やマンガじゃあるまいし!」
「息継ぎなく突っ込んだな」
「そーじゃなくて、嫁さん貰うんだったら専業主婦がいい! バリバリ働く女はパス! なんか怖ぇじゃん、自分より稼ぐ女って」
「……そうか?」
母子家庭で育った佐藤には、よくわからない理屈だ。というより、一生懸命働く母親をけなされたようで、あまり面白くなかった。言った当人に悪気はないだろうし、そう言い返すとマザコンだかなんだか言われそうで面倒くさい。
「なー、田月。お前はどんなタイプがいい?」
「働く女」
ズバっと、田月翔太は即答した。
かわいい顔から意外にも強気の言葉が返ってきたので、その場にいたクラスメイトたちは少々面食らった。
「なんだぁ? お前、女の働いた金で生活したいクチかあ? そういう顔してるもんなあ」
「おい、やめろよ」
明らかに喧嘩を売っている様子に、佐藤は止めようとした。が。
「あんなァ、さっきから言いたい放題いってっけど。お前家事したことねえだろ」
苛ついている、というより、田月は呆れている。
「専業主婦って、基本休日なし、賃金なし、成績を褒める人もなし、それどころかこなして当たり前だと言われる仕事だぜ。はっきし言って、奴隷みたいな待遇だよ。楽なわけねえだろ」
「はぁ? だって、家事だろ? 簡単じゃねえか。それによぉ、旦那が働いている間にも専業主婦は遊んでるんだろ」
「そう思うんだったら、土日でもいいからやってみろ。大まかにわけて、洗濯、掃除、買い物、料理、後片付けだけど。付随する仕事は大量にあるから、遊ぶ暇なんてないってぐらい忙しいぜ」
そう言って田月は、ラップを剥がしたおにぎりを一口で頬張った。のりで包まれたおにぎりは、両手で包んでやっと収まるほどの大きなものだ。
(結構豪快に口を開けて食べるな)
女の子に見えなくもない顔なので、そういう風に食べるとは思わなかった佐藤である。
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