アネさんについて

 二宮杏寧あんね。身長170センチ、小顔、細い腕、長い脚と、いわゆる『モデル体型』。人目を惹く長い濡れ羽色の髪は後ろで纏められ、前髪は右に流す。整った眉に切れ長の目、通った鼻筋、潤った唇と、まさに『美女』という言葉がふさわしい。普段はコンタクトだが、たまに眼鏡をかけることもある。その姿も大変よく似合う、とクラスメートの間では囁かれていた。


 しかし悲しいことに、彼女の顔は全く制服が似合わない。

 どちらかというと、彼女には着物を着て、キセルを持たせた方が似合う――と、どこぞの誰かが言ったことから、ついたあだ名は『アネさん』。

 本人は、実年齢よりも上に見られることをかなり気にしている。

 そのことを彼女がぼやくと、田月が軽く返すのが常だった。


「別にいーじゃん。みんな違ってみんないい、って金子さんも言ってたし。身長があるなんて羨ましいー」

「えー……。田月くんは嫌じゃないの? 実年齢より下に見られるの。今日だって前髪が犠牲に」

「うーんまあ、さすがに小学生に思われたのは心外だったけど、別になあ。犠牲にって単にヘアゴムでちょんまげされただけだし。まるでハゲたかのように言うなよ」

「常に女子に弄ばれ」

「弄ばれてはない。遊ばれてるだけだから」

「あだ名は『ショタくん』と呼ばれ」

「褒められもせず、苦にもされず、」



「「そういう者に私はなりたい」」



「……宮沢賢治になっちゃったね」

「まー、人気者の宿命ってことで、いいじゃんか。あだ名で呼んでるのは一部の奴だし、そういう奴だって俺たちをバカにして言ってるわけじゃないし」

「悪気がないことは知ってるけど……でも田月くん、一年の最初は、『ショタくん』って呼ばれたら『「う」を抜かすんじゃねえ!』って食いついていたよね」

「あー、まあ……でも、そこまでこだわることじゃねえかなって、三日で飽きた」

(大雑把……)




「俺のあだ名よりかわいそうなのは、河野さんだよ。俺のクラス、河野かわのさんも河野こうのさんもいるんだけど。呼ばれるときは『かわの』か『こうの』のどちらかで一纏めにされるんだわ」

河野こうのさんが河野かわのさんって呼び間違えられることは知ってるけど、その逆もあるってこと?」

「そゆこと。で、不真面目な先生は訂正しないし、逆に真面目な先生はフルネームで呼ぶんだけど、名字が入れ替わってたりするんだよな」

「呼ばれるたびに混乱するね……」

「面倒くさくなって、すでに担任の先生は名前だけで呼んでいる」

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