ショタくん(の成績)について
田月翔太。2‐B。明昌私立高校は普通科、情報ビジネス科、芸術科、特進科の順にクラスが振り分けられる。更に普通科と特進科は文系と理系で分けられており、彼は普通科の理系だ。
数学の成績は上の下、生物と化学の成績は上の中、英語にいたっては全国模試で十位以内に入るほど。この成績だけを見れば、特進科でも十分やっていけるのだが。
彼はなぜ普通科に在籍しているのか?
一つは彼の性格である。特進科は一限の前に『0講義』というわけがわからない時間があった。『0』とは存在上『ない』ことを数字で表しているのである。それを『ある』はずの授業に振り当てた、教育者の頭が心配だ。この分だと『-1限』とかも出来るかもしれない。
更に――普通科は七限で授業が終わるのだが――特進科はその後に『八限』目がある。恐ろしいほど詰め込み教育なのだ。
彼は時間の束縛を嫌う、実にフリーダムな人間であった。同じ理由で、部活にも所属していない。
二つ目は……こちらが主な原因であった。
「……えっと、私視力落ちたかも。十の位はかろうじて見えるけど、一の位が見えないなー」
「目をこするな二宮。十の位なんてない。つーか80点とか夢のまた夢だわ」
「……本当? ほんっとーに100点満点中? 50点満点じゃなくて?」
「ああ。100点満点中、8点だ!!」
「嘘でしょう⁉ 逆に8点は何の問題でとれたの⁉」
「漢字問題。でも俺、読むのは出来っけど書くのはニガテでさー」
理系の成績は非常に良い。地理の成績は平均。
問題は、国語(現国・古文)の成績であった。
「……中間がこれで大丈夫? 期末合わせて60点以上とらないと夏休み返上でしょう?」
「無理だよな、絶対。まあそん時はそん時」
「そ、そっか……。とりあえずこの大量のやり直し、締め切りが放課後までなんだよね? 地理も書き直しあるみたいだし、答えも問題集から探さないといけないやつは、出来る限り手伝うよ」
「サンキュー、助かるわ文系!」
――と、このような会話を以って、二宮は田月の課題の手伝いをし始めたのだった。
が。
「なあこの評論? だっけか、最後の問題は必ず『筆者の考えを述べなさい』ってさ、この問題作った人は筆者の気持ちがわかるの? つーか問題作った人=筆者じゃないと成り立たなくね?」
「そこを突っ込んじゃだめだよ、田月くん。現国のやり直しは問題文と答えを丸写ししたらいいんだから」
「『問一 この時主人公の気持ちを考えなさい』……ってさー。選択肢の中にいろいろ書かれてるけど、結局『年上の彼女が浮気していて悲しい』ってことなんだろ? なんでそう書かねえの?」
「小説は普遍的なことを特別なように描くことが大事なのだから、ストレートに書くと前提が崩れるんだよ」
「なんで助動詞の『き』、終止形以外の活用形はサ行なんだよ! つーかむしろ『き』であることがおかしくね⁉」
「過去形過去分詞だって必ずしも『-ed形』で終わるわけじゃないよね? むしろ英語の動詞の方が例外多いよね⁉ 英語できるのになんで古文ダメなの⁉」
「光源氏ってサイテーだよな。人妻にも手を出すわ、大量に女作るわ、幼女を囲うわ。こんなのが京でのベストセラーだったんかねえ」
「私もそう思う。でも、小説に常識を求めたら道徳の教科書になっちゃうよ」
「……それはやだな」
……確かに、国語という科目は理不尽であるかもしれない、と二宮は思ったとか。
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