ショタくんとアネさん
肥前ロンズ
一学期のお話
ショタくんとアネさん
どこでもある話と言えばそうなのだが。
しかし、とある田舎町の私立明昌高校に通うこの二人は、他人から見るとちょっとおかしい。
いや、おかしい(funny)というよりはおもしろい(interesting)? まあとりあえず、この二人の組み合わせはそれとなく周囲の興味を惹く。
クラスも性別も違う二人はしかし、割と一緒に行動する姿が目撃される。今日もまた、弁当組なのに食堂にて食事をしていた。
「田月くん、今日は随分落ち込んでいるね。大丈夫?」
二人組のうち片方の女子高生が、机に突っ伏すもう片方の男子高生に声を掛ける。のそり、と髪の量が多い頭が動いた。田月と呼ばれたもう片方の男子高生が、顔を上げたのである。
「……聞いてくれますか、二宮さん」
「なんでしょう」
珍しく敬語、と二宮と呼ばれた彼女は思ったが、口には出さなかった。それほど疑問にも思っていなかったので。
「昨日は祝日でした。ばあちゃんに頼まれて、一緒に美術館に行ったんだよ」
「うん」
「そしたらさ、学芸員の人とばあちゃんが意気投合して」
「うん」
「ばあちゃんたちが話している間、俺は適当にブラブラしてて。ついでにばあちゃんの飲み物買って戻ったら、学芸員の人が『一緒に来たお孫さん中学生ですか?』ってばあちゃんに聞いてて。『違いますよ』ってばあちゃんが言ったら、」
「高校二年生だってことに驚かれたの?」
「『じゃあ、小学生ですか?』……って言われた。笑顔で」
「……」
ぶはっと、隣のテーブルに座っていた男子高生が吹いた。
この賑やかを通り越して騒がしい食堂の中で、どうやら聴こえてしまったらしい。
二宮はその反応も含め、なんと返せばいいのかわからなかった。
「笑ってくれよ……」
「そんな屍みたいに顔色が悪い人を、私は笑えません……」
他人には笑いごとに聴こえるかもしれないが、当事者にとっては深刻な問題である。二宮は他人事ではなかった。田月とは逆のベクトルで悩まされる方だったので。
「ちくしょー。165センチもある小学男子がいるかよー。いるかもしんねーけど」
あまりにも哀れだったため、二宮はなんとかフォローしなければと思った。
「じゃあ、こう考えましょう。『幼稚園児だと思われなくてよかった!』」
「良いアイディアだって言うと思うか? つーか更に傷を抉ってるんだけど」
逆効果だった。
もう二宮の中にあるアイディアは、最終手段しかない。自動販売機をちらっと見る。
「……災難だったね、田月くん。おごろうか、ジンジャーエール」
「二つ目がすでに
「ごめん。でも、まだいい方じゃないですか。お孫さんだって正しく認識されただけ……私、もっと笑えない状況を味わったことあるよ」
「ん?」
「あれは、私が小学校五年生の正月のことでした」
ずいぶん遡った。そう思ったが、田月は口に出さなかった。女は割かし会話が飛ぶ、というのを知っているからである。後そういう男女の認識のずれを指摘すると、男女間で戦争が起きかねないのである(そして大抵、男が負けることも知っている)。
「私は父と一緒に、近所の神社へ初詣に行きました。そこでは町内会らしき人たちが、お神酒や甘酒を配っていました。その中の一人の女の人が、私にお神酒をすすめてきました。未成年どころか小学生の私は当然お断りました」
「それ、成人だと間違えられたってオチか?」
田月の言葉に、二宮は力なく首を横に振った。
「それぐらいだったら私も落ち込みません。話はここからです。町内会らしき人たちの三人――お神酒を勧めてきた女の人、おじさん、おばさんが、それぞれ私の父に言いました」
「?」
「『美人な奥様ですね』、と……」
「……」
隣のテーブルの女子高生が、肩を震わせていた。どうやらこの(以下略)。しかし当事者にとっては(以下略)。特に田月は(以下略)……ってもういいわ。
「『一緒に初詣とは、仲がよろしいんですね』『こんなにお若い奥さんがいるとは、羨ましいですなあ! 奥様いくつですか?』……私はすべての問いに答えました。『私はこの人の娘です。十一歳です。なのでお酒は飲めません』。その場の空気が凍りました」
「ごめん」
「お若いっていうより、幼いっていう方が正しいよね。仲は悪くないけれど、父親と夫婦認定されるのは多感なお年頃の女子には精神的にきついものがあるんだよ。どんな援助交」
「ごめんて二宮! 嫌なこと思い出させて悪かった! ホットなはちみつショウガ茶奢るから! これ以上続けんなお前唇が紫色だぞ!」
田月翔太。2‐B。身長165センチ。童顔。あだ名はショタ。
二宮
この二人の共通点は、年齢相応に見られないことである。
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