第4話 伏線

アスタルート

僕は、朝の通学路を歩いている。

どうやら、昨夜は悪夢を見たらしい。


死神しにがみのような風貌の男に、薙刀なぎなたで胴体を斬りつけられる・・・


思い出すだけでもおぞましい。


それは、好きな人のために、僕が発奮はっぷんしたことによる死神の抵抗だった。


しかも、その死神はどこかで見たような男だな。

夢で一度会っているのか・・・それとも現実世界の知り合いに似ているのか。


もしそうだとすれば、夢ならではだ。

知り合いが別人に扮して夢に登場するなんて・・・フロイト先生も爆笑だ。


「ふあ~ああ。それにしても眠いなあ・・・」


まるで、部屋のあかりを消し忘れたまま、一晩寝ていたような感覚だ。


何はともあれ、僕の日常がふたたび戻ってきたのだろう。

一応確かめておこう。


―――――――――



ここは、僕のクラス。(高校)2年1組の教室

休み時間。そうでなくても教室はわちゃわちゃしている。

どこかの席に、夢で見覚えのある人物は・・・・


いた。自分の席に、すわってボーっとしている男。

――藤井ふじい将暉まさき


彼は、夢とおもしき場面に登場した死神だ。

何かの秘密をかくしているのだろうか・・・・

彼は、クラスの中では比較的おとなしいほうだ。でも、だからこそ

裏があるとしたら・・・


「あの~、藤井くん・・・」

彼は、いったん硬直こうちょくした後、僕のほうを振り向いた。

「はい」

会話できる状態になったので、話を切り上げる。

「昨日、僕と藤井くんって放課後会ってるっけ・・・」


「ううん?会ってないよ?まあ、最後に会ってるのは

調理実習でチームになって、そっから解散してからだね・・・」


え、調理実習?

そんな教科は昨日なかった。それとも僕が、昨日ムシバやマー坊に

言われた通り、メランコリーになりすぎたことによる忘却なのか?


「・・・どうしたの?」

と、藤井くんが心配げに声をかけてくる。


「ううん、いいんだ。ありがとう」

僕は、いったん席にもどって思考を整理することにした。


僕は、自分の席について、事の顛末てんまつなどを色々考えていた。

その途中で、目にとびこんできたのは・・・


―――川栄かわえいほたる?顔でわかった。髪をずいぶんキンきらに染めて・・・

制服の着こなしもだらしない。

そして、自分の席で他の女子たちと楽しそうに話をしていた。

僕は・・・彼女のことが好きだったのかも。思い出した。

彼女は、転生してこんな変わり果てた姿になってしまったのか?


まあ、楽しくしているなら何よりだ。

僕は、昨日のことをひと言、びようと彼女に近づいた。


「あの~・・・」

すると、ほたるはすごい剣幕けんまくでこちらをにらんだ。


「あ?なに?海藤かいどうじゃん」


呼び捨て?しかも苗字みょうじか。よほどピリピリしているようだ。


「ほ・・・ほたるちゃん?」


「だからなんだっつってんだよ。それに、あたしの名前はなんですけど!?」


さすがに、人が変わったような対応に僕もたじたじになってくる。

言いたいことは山ほどあるのに、何も言えなくなってしまった。


「今、あたしイライラしてるんだから、用がないんだったら向こう行ってくれる?」


「・・・・・・・・・・」


その時の僕は、どんな顔をしていたんだろうか。顔はくちゃくちゃになって、

湿っぽくなっていた気がする。

無言でうなずいて、僕は川栄の前から引き返した。


その後ろでは、女子たちとの会話で

「あーあ泣かせたー」「みはるひどーい」「うるせーな」


という声が聞こえてきた。むしろ、みじめな気持ちになった。


これで、彼女と僕はえんがなかったということが証明されたのだろう。

浮気うわきをはたらいたバチだ。

僕の目からは、なみなみと塩辛いものが溢れ出ていた。


僕が見据みすえていたのは、ツインテールのあの子・・・

清楚な黒髪の子で・・・目はエメラルド色で・・・

名前は、tか・・・・tか・・・・・


あの子の名前、なんだっけ――――


―――――――


昼休みの時間。

僕は、校内の人気のない教室の中でひとり、タッチパネル式の携帯電話を

いじっていた。

そこで、サクサクと画面をスライドして、ニュースを読んでいたのだ。

なんでも、今年最も活躍した芸能人のランキングが発表されるのだ。


その第一位は・・・ん?


アイドル・浅葱あさぎ千歌ちか
















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