9
「今朝早く、こちらに向かったと思われる遠征隊からの連絡があった。がしかし、すぐ後に何者かの襲撃によって、遠征隊の半数がやられたらしい」
「何だって!?」
と、ハリーは思わず、ホルクに身を乗り出して問いかけ、
「目的は、いったい?」
「今のところ不明のままだ。推測だが、食料かあるいは……なにか……」
思わず、歯を食いしばり、ハリーには悔しい思いが
半年前、ベータシェルターはどこからともなく現れた集団に襲われたばかりだった。そのときに物資の配達やら調達でたまたま訪れていたハリーは、集団の中でまとめ上げる男と闘った。
(まさか、狂った人間の仕業なのか?)
「じゃぁ、タワーへの遠征隊は……?」
意気消沈してうな垂れ、ホルクは答えた。
「まず、絶望的、と考えている」
僅かな希望を抱いていた矢先だった。いやしかし、こんなことで、諦めるわけにはいかない、とハリーは冷静さを保った。
黙ったままだったキャサリンもホルクに詰め寄った。
「
「情報がない。現状では何も聞かされていないんだ、わかってくれ! 生死は不明なんだ!」
ホルクの口調はつよかった。一瞬、覚悟のある顔をする。キャサリンを前にしても、興奮はおさまりきらず、動揺のそぶりを見せた。彼女も感情を必死に抑えていたが、突然部屋を出て行こうとする。悔しさにハリーは、拳をつよくにぎり物にあたろうとする理性を抑制するほどの表情をする。
「待て! キャサリン!」
「離してよ! お義父さんのところに行かせて!」
「キャシー、落ち着け! 落ち着くんだ!」
ハリーは言い聞かせるように、やさしく繰り返す。
勢いで、ハリーは彼女を抱きしめた。彼女の体が震えているように感じた。彼女の泣き叫ぶ声を懸命に抑えようと頭を撫でた。
止まらない涙が頬を伝わってくる。
十年前の自分自身を見ているような感覚になり、ハリーは彼女を死なせるわけにはいかない、守らなければならないと強く念じていた。
「キャシー、今はここにいたほうが安全だ!」
彼女の興奮が次第に収まっていくのを感じた。
「大丈夫だ! 俺が確認してくる。慣れていない君だとかえって足手まといになる」
「でも、ハリー……」
「ハリー」
と、ホルクが落ち着いた表情で呼びかけた。
「頼もしい限りだな。お前なら、こんな世界を終わらせることができると信じている! あの日、私はお前を失ったと一度は諦めかけた。だが、お前の心臓が再び動き出したことをエルシェから知らされた。これは、運命かもしれないな」
「運命か……」
十歳前後の頃だった。ハリーは凍傷や低体温症になった。酷く何とかシェルターに運ばれ助かったものの生死を
「ベータシェルターから帰ってきたお前は人が変わったようだったな」
「そうかもしれない。俺は、あの時を境に生まれ変わったと思っている」
「だからこそなのだろ! お前は何故こんな世界に生まれたのか! 生かされた事実を知りたいがために、父親のもとへ……」
彼の言葉は、今までの気持ちを代弁したものに等しかった。
「同じ生かされるなら、自分自身の目で、どうしても俺は、親父の跡を継ぎ、この世界で起こっていることを、解き明かしたいと思っているんだ!」
ホルクはハリーを見つめていた。
「だが、今は、ベータシェルターの襲撃についても、君の父親の手紙に関しても情報が乏しい。ハリー、ある程度の情報が集まるまで大人しく待っててもらえないか? 気象タワーを目指すのは、そのあとでも遅くはないと思う」
「はい……」
「キャサリン、エルシェントのことは心配と思うが、ここは我慢してほしい」
不安を隠しながらも、ホルクは笑みを浮かべた。
「なぁに、アイツのことだ。何度もこの世界の死の縁を乗り越えてきたんだ! そう簡単に死にはしないはずだ!」
キャサリンは、
「キャシー、心配でも無事でいると信じて待っていてくれ!」
彼女はホルクの言葉が励みに聴こえ、気が楽になっているようだった。
「すぐにでも、部隊を編成してベータシェルターに先発隊を派遣し、情報を収集するつもりだ! 分かったことがあれば君にも知らせる」
励まそうと彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫さ、エルシェントさんのことだ! 無事でいるにちがいない」
「うん……」
彼女の返事は弱弱しかった。どこかハリーには、彼女のその返事に決意のようなものが見え隠れしているように思えた。
10へつづく
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