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『親愛なる息子へ

 最愛なる息子が生きていることを願い、ここに父の言葉を残す。

 私の名は、アンソニー・ヴェルノ。もう十数年も前に、アルファシェルターから遠征部隊の一人として旅立った。噂とされていた気象タワーを目指した科学者だ。

 私は、この白く閉ざされた世界の真相を掴もうと、あわよくば解決するために、出発した。 ……私は故郷のシェルターによる帰還を諦めざるを得なくなった。そして……』

 手紙を読み進めたハリーは『父が生きている』という事実に安堵の表情と疑問の表情が浮かんだ。思わず涙がこぼれそうになった。だが、こらえた。更に、読み続けた。

『……信頼できるお前さえよければ、私の研究を引き継いでもらいたい。

私の唯一信頼できる『ユーヴァン』という男がこの手紙とメモリーチップをお前の元に運んでくれると覚悟を決めてくれた。

 過酷な旅を覚悟する勇気があるなら、どうか死なずに生き延びてくれ。そして、再び会える日を心より待ち望む。最愛なる息子へ愛をこめて。

              四月二八日 二一八四年 アンソニー・ヴェルノ』


 ハリーは手紙の内容を理解し、更に、気になることがあった。注目したのは日付だった。手紙が書かれたのは、今から数年前のことだとわかった。父親が生きているだけでなく、気象タワーまで来るように誘致していたのだ。

 ハリーの心は既に決まっていた。この手紙を貰ったことで、目的以上に目標が明確になった。

 数世紀前の地上の風景を彼は、知っていた。動物や草木、自然の恵みに満たされた大地。仮想幻影でしか知りえない、そんな地上の風景を想像した。

 まもなくして、シェルター内から連絡を受け、数人の男がやってきた。彼らは担架を片手に持ってきた。男数人と共にハリーは、手紙の内容をホルクに報告すべく彼のいる地下の住居区画まで足を延ばした。

 ホルクのいる部屋の扉を開けるや否やハリーは、来客がいることも眼に入らず彼に詰め寄った。

 ホルクはその態度に、眉を揉み溜息をついた。

「ハリー! 来客のことも考えろ、と前にも注意しただろ!」

「義父さん、ゴメン、けど、今はそれどころじゃない! 俺の実の父アンソニーからの手紙がやっと届いたんだ!」

「なんだと!! 本当なのか!?」

 ハリーの興奮は収まらなかった。彼の興奮が伝わったのか、ホルクも興奮し始めた。すぐさま、アンソニーの手紙を彼に手渡した。

 来客はエルシェントのいるシェルターとの連絡係をしているものだった。

「すまない、後で、もう一度来てくれないか? シェルターのみんなにも伝えないといけない」

 連絡係はハリーを横目で見ると、部屋を出ていった。

 ホルクは、なるべく興奮を抑えようと痛みの残る右足をさすっている。彼の右足は若い頃に大怪我をしたらしい。部屋にはラグビー選手全員で撮った記念ホログラムが飾られている。椅子の傍には常に愛用している杖が置かれ、机には妻と息子のミニチュア3Dモデルが置かれていた。

 そこへ「失礼します」と一声をあげ、扉からキャサリンが入ってきた。

「やっぱり、ここだったのね」

「キャシー」

 手紙を読み終えたホルクは、落ち着いた表情だった。だが、いまだ興奮さめやまずという様子だった。彼はハリーをにらんだ。シェルターの代表を、勤め上げ保つために、常にポーカーフェイスを心がけているのかもしれない。

「ハリー、興奮する気持ちは分からないでもない。だが、不確かな信憑性を、より確実な信憑性に替えてからでも、遅くはないと思わないか?」

「けど、その手紙には……」

 彼は手でハリーの言葉を止めた。口答えをする前に、『私の話を最後まで聞きなさい』という仕草だろう。

「お前は本当にこの手紙を熟読したのか? また、中途半端のままここに持ってきたのではないのか?」

 痛いところを突かれたと、このときハリーは思った。興奮のあまり、全部の内容を把握したわけではなかったのだ。

「アンソニーからの手紙であることは、文の癖からしてまず間違いないと思うが、ここに書かれているメモリーチップはどうした?」

 メモリーチップの存在のことすら把握していないことに今になって、ハリーは気づいた。やはり彼の癖は治ってなかった。興奮すると後先を考えず落ち着いて行動することができなくなるのだった。

「おじさん、たぶん、これのことかも?」

 差し出されたメモリーチップをキャシーから手渡された。

「言わんこっちゃない。キャシーが気づいてくれたからよかったものの。以前、アンソニーの消息による誤報で、シェルターから飛び出したことを忘れたわけではないだろ! お前は、エルシェントに助けられ、一命を取り留めたが、あのまま凍死していたかもしれないのだぞ!」

「今の俺はあの時と違う! そりゃ、メモリーチップを忘れたのは、俺のミスだと認めるけど、今度こそ親父の生存が確実だということを知らせに……」

 手を組みホルクは、静かにハリーの話を聞いていた。

「お前が遭難者を発見したという、男のことは聞いている。そして、手紙もその男の荷物から出てきたのだろう。数分前に医務室から連絡があった。お前は、その男が手紙に書かれている《ユーヴァン》本人と思い込んでいないか?」

 ホルクの指摘はハリーにとって図星だった。彼は言葉を失った。

「これは、後でシェルター内全員に言うつもりだったが、先に君らに言っておこう」

「え?」

 傍に居たキャシーも聞き入った。

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